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【特集:変わる家族と子育て】
座談会:子育ての意識変化とそれを阻むもの

2024/03/05

こだわりが増す子育て事情

中野 価値観が様々ですよね。主人は、お総菜に抵抗があって、買ってくるとどこで作ったかよくわからないからと文句を言うので、私はお総菜をリメイクしているんです(笑)。パートナーが同じ方向を向いていたらいいけど、片方がオーガニック志向で片方が全然そうではなかったりすると結構きついですよね。子どもが生まれたら特に。

平野 妊娠期の調査などでよく言われるのは、子どもの食の手作り志向にこだわりがちなのはむしろ男性なんですよ。女性のほうが現実を見て、時短でいい、出来合いのものでいいとなっていくという調査は出ています。

藤田 それはたまにしかやらないというのもあるでしょうね。私たちの調査でよく出たのは、「うちのお母さんは作ってくれた」みたいな男性の意見が結構聞かれて。

中野 味噌汁の味が違う、みたいなことですよね。

藤田 うちのお母さんは手作りしたのに何でおまえはやっていないのと夫に言われて頭にくる、みたいな話を繰り返し聞きます(笑)。

稲葉 日本は高度成長期ぐらいに性別役割分業が成立して、専業主婦がその時期に誕生した。そして家事や育児がどんどん複雑化、高度化していったということはありますよね。そしていったん高度化した家事や料理の水準を落とすというのは、やはり抵抗がある。

複雑化してしまった料理や子育てを、これから簡単にしていくのがいいのか。家事代行みたいなものを使って水準は維持していくのがいいのかというあたりの選択なんでしょうか。

平野 子育てに関して言えば、私は時代を追うごとに、強迫的になっていくように感じています。貴重児と言われますが、子どもは一人だけで、その子もやっと40歳になって不妊治療で得た子ども。もう、そこを崩したら全て終わるみたいな感じで、ある意味すごく強迫的になって視野が狭くなって育児をしている。それゆえにこだわりが強いのです。

客観的に見れば、その食事一つでは子どもの人生を変えないぞと思うのですが非常にこだわる。誤嚥するようなものを食べさせたら別ですが、オーガニックの人参と普通の人参ではほとんど変わらないでしょう。まさに高度化したところに重なるようにすごく強迫的になっているという印象は、いろいろ話を聞いていて思うところです。

稲葉 実際、育児時間は、先ほど述べたようにどんどん増えています。これは大卒でも非大卒でも同じで、共働きでも、いわゆる専業主婦世帯でも育児時間がどんどん延びていて、子どもに時間とお金をかける傾向がますます加速化している感じです。

先ほどIntensive Mothering いう話がありましたが、アメリカでもこの傾向は非常に強い。最近の研究だと、大卒でもそうでなくても、階層を超えて子育てに時間とお金をかけるという考え方自体が一般的になっている。ただ大卒層のほうが所得に余裕があるので、それを実現できているようです。

少子化対策と子育て支援

稲葉 少子化対策の話というのは、今日のテーマとどうしても連動してきます。日本でもやはり子育てに時間とお金をかけるからこそ、どうしても子どもの数も限定せざるを得なくなってしまう、という傾向もあるかと思います。そのあたりは何か、こども未来戦略会議で議論になりますか。

中野 今、若い世代の収入を増やそうとは言っているのですが、税金ですごく持っていかれて、手取りがすごく減っているということもありますよね。それで2人目を持ちたいという時になかなか収入が増えなかったら、難しく感じることもあると思います。この状況で子どもを産んで、奥さんが育休を取って収入が減って、さらにそこでパパ育休をと思うととても産めないという声も、地方だとよくあります。

こども未来戦略会議では、それこそ3人目は高等教育無償化という声もありますが、まず一人、子どもを持つか、前提として結婚するか、しないかが重要ですよね。今、結婚したくない人も増えているじゃないですか。そこの部分をどう考えるかに、もう少し重きを置いたほうがいいのでは、とは思います。子どもを持ちたくなるような社会はどういう社会かということと、若者の賃金をもう少し増やす。それで子どもを持ちたいと思えるような風潮になればいいなと思います。

稲葉 少子化については社会学者の先生たちはいろいろと言いたいことがあるのではないかと思いますが、藤田さん、いかがですか。

藤田 もう東アジアはみんな少子化の流れですよね。

稲葉 韓国や台湾は出生率が1を下回っていますから。

藤田 中国もすごく急速に少子化は進んでいます。近代化の中で様々なファクターが影響を与えていて、小手先で何をしてもそんなに増えないのかなと。日本だけが減っているというのだったら違いますが。

稲葉 まさに先進国、全部減っていますからね。

藤田 でも、今、若い学生も、子育てが大変という話はメディアなどでとても多く聞くので将来にすごく不安があるのは確かだと思うのです。その中で、そんなに大変だったら子どもを持ちたくないという若い人もどんどん増えています。そこをどうするかということはあるとは思います。

子育てしない人も幸福になる政策

稲葉 西村さんはどうお考えですか。

西村 少子化対策としていろいろな政策が相次いで出されています。児童手当の期間を高校卒業まで延ばす、出産費用を保険適用する、多子世帯は高等教育を無償化するなどの政策が出てきています。経済面での政策的な支援は、この先、より充実していくのかなと感じていて、それは、やはり必要なことだろうとは思っています。

それに加えて、保育でも「こども誰でも通園制度」という、親が働いていなくても月に一定時間、子どもを預けられるようにする新たな通園制度もでき、育休も充実する。いろいろな支援が打ち出されるということはもちろんいい。それを今後ずっと継続していくということで若い人たちが子どもを持てるかなと、少しでも思えるようになることは大事です。

子育て支援に関連して、少し前の研究で、ヨーロッパおよびアングロサクソン諸国の政策をいくつかのカテゴリーに分け、ケアに関する休暇と柔軟な働き方、保育に対する給付という3つの政策の充実度を国別に数値化し、それらの充実度によって、親になっている人と親ではない人の幸福度がどのように違うかを検討した論文があります。

その結果で興味深かったのは、親になっている人と親ではない人の幸福度の差が最も小さかったのは、それらの政策がパッケージとして充実している社会だということでした。しかも、いろいろな政策がパッケージとして充実している社会は、親になっている人もそうではない人も幸せだ、という結果が出ていて、それは非常に示唆的だと思いました。

政策がパッケージとして存在しているということは、子育てをしている人を多面的に支えているということです。親ではない人もハッピーだということは、子育てに関する政策の充実が、親ではない人に自分たちは損していると思わせるのではなく、そういう人たちも幸せにする。そういう効果を持っていることを示唆しているように思います。

ケアに対する社会のサポートは、今、ケアに携わっている人だけではなく、もっと広範囲な社会全体に影響力を持ち得るということではないかと思っています。

日本でも子育て政策を充実させることは、直接的には今、子育て中の人たちを手厚くサポートすることかもしれない。でも、広い目で見ると、社会全体で子どもを育てているという意識や、自分が困った時に何か助けてくれる仕組みがあると思えることにつながり、波及効果を持つのではないかと思っています。

稲葉 大事な指摘だと思います。子育て支援を充実させるということは、子育てしない人の幸福感も上げるということですね。

平野 女性の健康経営で、まさにこれが今、起きていると思います。育児や出産についての休暇ばかりを一方的に推す企業は、男性からの不公平感がすごく出るんです。それに対して、きちんと教育をやったり、両立支援で女性の健康経営をやった企業は、男性も休みやすくなり、知識が増えてケアのほうにも頭が回るようになり、結局、男性も働きやすい企業ができあがっていく面があるようです。

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