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【特集:変わる家族と子育て】
藤間公太:社会的養護から家族主義を再考する

2024/03/05

  • 藤間 公太(とうま こうた)

    京都大学大学院教育学研究科准教授・塾員

はじめに

家族をめぐるさまざまな事柄の中で、近年もっとも社会的に注目されているものの1つが児童虐待であろう。児童相談所が対応した虐待相談対応件数は、1990年度の1,101件から2022年度の219,170件(速報値)へと、この30年あまりの間に200倍近くに増加している。この虐待相談対応件数の増加をもって「虐待する親が増えた」「子どもがかつてないほど危険な状況に置かれている」とみるのは誤りである。計上される「虐待」に含まれる行為の範囲は不変ではなく、年々広がっているからである(例:面前DV)。それゆえ虐待相談対応件数の増加は、児童虐待という現象に対して社会が非常に敏感になっていることの表れとみるべきものである。言い換えると、社会が児童虐待により注目するようになったからこそ、これまでは何とも思われなかったこと(例:夜中に隣の家で子どもが泣いている)も児童相談所に相談されるようになり、対応件数を押し上げていると考えられるのである*1

児童虐待への社会的注目の高まりとともに、社会的養護のあり方についてもさまざまに議論がなされている。社会的養護とは、「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」である*2。かつての社会的養護は、文字通り「親がいない子ども」を救済するシステムであったが、上述した児童虐待への関心の高まりなどを受け、「被虐待児を救済するシステム」という色合いが近年では強まっている*3

保護者に代わって子どもをケアする営みである社会的養護は、一見すると家族のあり方を考えるこの特集とミスマッチであると思われるかもしれない。だが家族社会学の立場からすると、社会的養護は家族を考える上で小さくないインプリケーションを持つ。この小論では、社会的養護を通して日本社会の家族主義が持つ問題を考えていく。ここでいう家族主義とは、「福祉にかかる最大の義務を家族に割り当て、そうした割り当てを『善きもの』として規範化する社会の構造」を指す。

「家族的機能を果たす非家族」としての社会的養護

社会的養護が家族を考える上で重要である理由は、それが「家族的機能を果たす非家族」として位置づけられるからである。図1は、これまで「家族が果たすもの」とされてきた機能を分析的に図式化した久保田裕之*4によるものである。久保田は、これまで「家族のもの」とされてきた諸機能として、依存者に対するケア(C)、共同生活(L)、成人同士の性愛を含む親密な関係性(I)の3つを挙げ、それが担われる圏域をこの図のように整理した。その上で、これらの諸機能の束を出発点とせず、家族と非家族という境界を超えてこれらの機能が立ち現れる場面を分析することで、「家族とは何か?」という大きな問いを考えることも可能になるという。なおこの図に示される通り、久保田は3つの圏域が重なっており、かつ血縁と法律婚にもとづく集団を「従来の家族」としている。これは「異性愛のカップルとその血がつながった子ども」によって構成される近代家族とほぼ同義といえよう。以下、本稿においても家族とはこうした集団を指すものとする。

図1 久保田裕之による家族機能の分析的図式化

施設養護にしても家庭養護にしても、子どもたちは共同生活の下で里親や施設職員からケアを受ける。そして里親家庭や夫婦制の施設であれば、ケアラーである大人たちの間に性愛を含む親密な関係性が存在するのが一般的である。このように社会的養護においても「家族のもの」とされてきた機能が果たされているが、その一方で、社会的養護を「家族である」とみる向きは、当事者を除いてあまり強くないのが日本社会の現状であろう。社会的養護が「家族的機能を果たす非家族」として位置づけられるのはこのためである。

「家族的機能を果たす非家族」としての社会的養護を対象とすることのインプリケーションの1つは、家族をめぐる規範の問題を鮮明に照射できることにある。後述するように、一般的に非家族とみなされる社会的養護についても、そのあり方が議論される際には家族をめぐる規範が強く動員されることがある。非家族に対しても家族規範が動員されること自体、日本社会における家族主義の強固さを示す証左といえるが、そうした規範が具体的にどのような問題を帰結しているのかは、家族だけをみていては十分に明らかにできないだろう。

ここまで、「家族的機能を果たす非家族」としての社会的養護の位置付けとそのインプリケーションを示した。次に、社会的養護をめぐる議論にどのように家族規範が動員されているのかを確認しよう。

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