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【祝! 塾高野球部甲子園優勝】
【甲子園優勝に寄せて】成長に必要だった2日間──バトン部の甲子園

2023/10/11

  • 向吉 政人 (むこよし まさと)

    慶應義塾女子高等学校主事、同バトン部長

優勝候補の広陵高校戦は、8月15日に試合が予定されていたものの、台風7号による影響が懸念されたため、生徒の応援団はすでに14日に大阪に入っていた。台風が関西を直撃し、試合は中止。翌日に順延された試合は、先行したものの、終盤追いつかれ、痺れる展開となる。先攻の塾高は延長タイブレークの10回表、何と3点をもぎ取り、その裏を見事に凌ぎ切って激闘を制した。

バトン部は試合の応援が終わった後、短時間だが、必ずミーティングをし、試合の講評と応援について気になる点を指摘するのが通例。緊迫する好試合だったためか、感動して泣いている子が何人かいた。これではいけない。すかさず伝えたのは、「野球部は『KEIO 日本一』を合言葉に戦っている。まだまだここからだ、泣くのは早いよ」。

準々決勝は3日後である。我々応援団は勝利なら、そのまま大阪に留まることに予定を変更していた。この判断が奏功する。東海道新幹線のダイヤ混乱が正常化せず、保護者やOGの中には、気の毒にも帰れず、大阪で宿泊した方々があったと聞く。我々は体力を消耗せず、準々決勝までに中2日を確保。これが良かった。

塾高の吹奏楽部の生徒の発案だったと聞くが、まだお互いに羞恥心があって、声が十分に出ておらず、応援の指示が通っていないため、梅田のスタジオを借りて、応援の練習をしたいとのこと。私は2つの懸念を伝えた。1つは、不慣れな土地で、生徒だけでスタジオを借りて練習させることは躊躇われること。もう1つは、大声を発するスタジオが密室になって、感染症に罹患する子が出るのではないかということである。生徒と何度も話し合ったが、彼女たちも譲らない。現在のバトン部には3年生部員はいない。コロナの自粛期間中、無観客となり応援に行けなかったり、声出し不可で手拍子しかダメという時期があったりで、当時の新入部員が定着しなかったためである。やはり、実際に応援に行き声を出すことを許された今は、貴重な時間なのだ。スタジオでは一所懸命に練習すること、換気をしっかり行うことを条件に、練習を認めた。結局、4時間程、練習したそうである。

準々決勝以降の快進撃の一方、バトン部としては、アルプススタンドでも平常心を保ち、安定して応援できたと思うが、広陵戦後の2日間で、彼女たちが大きく成長できたと感じる。今夏は暑く、そして何よりも熱い記憶となったことであろう。

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