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【祝! 塾高野球部甲子園優勝】
【甲子園優勝に寄せて】もうひとつの熱戦

2023/10/11

  • 駒村 圭吾(こまむら けいご)

    慶應義塾大学法学部教授

実は、小生、塾高校長を務めたことがある(2012~13年)。否、敬意と誇りを込めて「慶應義塾高等学校長」と申し上げるべきであろう。在任中、多くの感動を与えてくれた塾高、そのご縁とご恩がある以上、甲子園に駆け付けないわけにはいかない。初めは初戦の対北陸高戦だけと考えていたが、結局、決勝戦を含めて東京と大阪を合計4回往復してしまった。酔狂がすぎたのか、台風と新幹線の全面マヒに祟られ、大阪に3泊するはめになった。ゴーストタウンと化した新大阪駅が一夜にして帰宅困難者で溢れかえるさまを目撃し、107年振りの甲子園優勝を味わえた夏。2023年8月は忘れられない思い出となった。

グラウンドでの熱戦についてはもはや贅言を要しないが、グラウンドの外で展開された「もうひとつの熱戦」についても記録しておきたい。

首藤聡史主事(特別教育活動担当)、野球部関係者とりわけ星野友則・馬場祐一両副部長らは、球場での人流管理、救護活動、そして大会券の調達・管理まで文字通り奔走された。スタンドでは常にタブレット片手に業務に専念され、試合を観戦する余裕などなかったと思われる。熱中症すれすれで声を張り上げ続けた應援指導部のリーダーたち、現場で動線が衝突しないようマスコミ取材陣とせめぎあいつつ、応援秩序を見事に維持した應指OB部員たち。塾高は出場校中唯一の男子校であるが、バトン部を派遣してくれたのは“朋友”の女子校である。吹奏楽団は重い管楽器を響かせ、太鼓を連打し続けた。彼ら彼女らは、文字通り、火傷しそうな炎天下で、玉のような汗を流してくれた。

慶應大阪シティキャンパスは、次々に追加される試合日程に応じて、早朝深夜にかかわらず施設を開放し、大会券とメガホンの配布を敢行された。塾高職員、三田会関係者、應援指導部と多様な関係者が錯綜し、仕切るのは大変だったと思う。

野球部員、応援関係者、一貫教育校生、津波のように押し寄せる塾員等々から成る、あれだけの大人数の動線を見事にコントロールし、その裏を支えた義塾関係者の尽力なくしては、甲子園での快進撃は実現しなかった。ここで言及できなかった方たちも含め、関係者各位に心から感謝と敬意を表したいと思う。ありがとうございました!

甲子園駅改札前の人混みで近づいて来る3人組がいた。聞けば、私が校長だったときの塾高生だと言う。よく覚えていてくれたなと感動。その後、彼らと梅田で祝杯をあげたのは言うまでもない。

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