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【祝! 塾高野球部甲子園優勝】
【甲子園優勝に寄せて】「KEIO 日本一」から17年

2023/10/11

  • 七條 義夫(しちじょう よしお)

    慶應義塾高等学校野球部前部長、英語教諭

初めに夢がなければ、何事も生まれない(カール・サンドバーグ)

日吉キャンパスの最深部、我らが日吉台球場に「KEIO 日本一」の横断幕を掲げて17年、ついに夢が実現した。もし、この横断幕が今回の快挙に1ミリでも役立ったとしたならば、感無量だ。

初代「KEIO 日本一」の横断幕は2006年の3月に掲げられた。前年、中林伸陽投手を擁して45年ぶりに選抜甲子園出場を遂げ、ベスト8。夏も神奈川大会決勝まで進むが、あと一歩で涙を飲んだ。その秋、甲子園メンバーが多数残り、期待されるも、連続出場は成らなかった。そんな折、上田誠監督と「甲子園出場ではなく、夢であっても優勝を目指すスローガンをグラウンドに掲げよう」という話になった。

「KEIO 日本一」、このアルファベットと漢字の組み合わせは奇をてらったわけではない。「陸の王者」、「慶應」、「全国制覇」等キーワードを使い30位候補を考えた。その中で、視覚的にも聴覚的にも、心にストンと嵌るものを選んだつもりだ。

当初は経費の無駄遣いと言う人もいた。だが、来る日を信じた。初代横断幕は46年ぶりの夏を含む3季連続甲子園、明治神宮大会での92年ぶりの日本一を見届け、席を譲った。2代目は2018年の春、夏の100回大会甲子園を見守った。そして3代目、ついに107年ぶりの「甲子園」優勝である。万歳!

だが、実は「KEIO 日本一」は、全国優勝の願いだけを込めたのではない。「もう1つの教室」としてのグラウンドに掲げるからには、それ以上の意味を込めたかった。「日本一」には、日本一に相応しいチーム、1人1人が日本一に相応しい部員になることを託した。

「KEIO」が表すのは当然、慶應高校と慶應義塾であるが、それは同時にKEIOのユニフォームに袖を通した者のことでもある。「KEIO 日本一」はチームと自分、母校と自分、そして自分自身との約束でもある。なぜなら、甲子園は高校生の舞台であって、人生のゴールではない。人生はこの先も続く。何をもって日本一と考えるかは難しい問題だが、選んだ道で日本一を目指し「学び、そして挑戦」し続けることの約束でもあるのだ。

この秋、3代目横断幕はその役目を終え、4代目「KEIO 日本一」に替わる。

3代目横断幕
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