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【特集:共に支え合うキャンパスへ】
髙山緑:コロナ禍を経て、学生相談・学生支援を考える ――学生相談室の視点から

2023/03/06

自己表現し、受容される場──「居場所」があること

第2に、教育や研究を通じて自己表現をするのはもちろんのこと、キャンパスのあちこちに、自分らしさを表現し、それを肯定的に受け止められ、承認される経験ができる空間や、多様な機会を生み出すこと。第3に多様性が自然のこととして受け入れられ、互いに尊重され、理解される環境をキャンパスに創造することである。これらは、自分らしさに気が付いたり、新しい自分に出会う機会となり、青年期の発達課題であるアイデンティティを形成していくための重要な1つのステップとなる。

これは「居場所」の創出とも関係する。居場所とは、「安心でき、自分らしくいられる場所」(中藤2017)であり、「心の拠り所となる物理的空間」であるとともに、「心の拠り所となる関係性、あるいはありのままの自分で安心していられる時間を包含するメタファー」(村瀬ら2000)である。居場所があることで、安心して気持ちを表現でき、所属感や帰属感を感じられ、自己肯定感が感じられる。

学生相談室では、個別面談だけでなく、ワークショップ形式(グループアワー)のイベントも年に6、7回開催している。学部や学年の垣根を超えて、カウンセラーや他の学生と語り合ったり、エクササイズすることを通じて、自己理解や他者理解を促進することを目的としている。コロナ下の3年間は、希薄になりがちなキャンパスライフや他者との交流を促すイベントや、専門家を招いてEQやコミュニケーションスキルを学ぶワークショップ、体育研究所の板垣悦子先生、奥山靜代先生によるティラピスやヨガを通じたストレスケアのワークショップを開講している。共通の関心を持った学生が出会い、交流し、居場所となる関係性に繋がることも期待している。

セーフティーネットの構築

そして第4に、不安が昂じたり、抑うつが高まったり、自分の体を傷つけたくなるような衝動に駆られた時に、学生の命と安全を守るためのセーフティーネットをキャンパス内に作ること。元来、青年期は精神疾患の好発期でもある。感染症者の急増と低下のたえまない繰り返しと、その度に起こった行動制限は、それだけでも大きなストレス状態を生み、本来、潜む脆弱性が症状として顕在化する可能性が高まることもあったであろう。まだ、しばらくは続くであろう不確実な状況下で、そのリスクが継続する可能性は高い。学生の安全を守るセーフティーネットの構築は、学生のためにも、学生を支援する立場にある教員・職員の心理的安全性を確保するためにも必要である。

学生相談室のカウンセリングの中で、否定したい自分、情けないと感じる自己も含めて、「ありのままの自分」を表現し、自分らしさを見出し、統合していく場としての居場所も自己形成に大切な場所である。一方、1人ひとりが尊重され、多様な存在であることが認められる集団の中で、安心して自分を表現し、新しい自分に気づいていくことも自己の形成にとって大切なプロセスとなる。誰もが安心して存在し、活動できるキャンパスを創ることも大学の使命であろう。

〈注〉

* 信濃町キャンパスではストレスマネジメント室、湘南藤沢キャンパスでは心身ウェルネスセンターでカウンセラーに会うこと ができる。

〈参考文献〉

・中藤信哉(2017)「心理臨床と「居場所」」創元社

・ 村瀬嘉代子ほか「居場所を見失った思春期・青年期の人びとへの統合的アプローチ 通所型地中間施設のもつ治療・成長促進 的要因」心理臨床学研究、18(3)221-232

・ 日本学生相談学会編(2020)「学生相談ハンドブック 新訂版」学苑社

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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