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【特集:共に支え合うキャンパスへ】
中峯秀之:「障害学生支援室の立ち上げと@easeプロジェクトの開始」について

2023/03/07

  • 中峯 秀之(なかみね ひでゆき)

    慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス事務長兼協生環境推進室事務長代理

慶應義塾大学では、障害のある学生を数多く受け入れ、その学修をさまざまな形で支援してきた。一方で、法改正に伴い「合理的配慮の提供」が義務化されたことを受け、2022年11月、日吉キャンパスに「障害学生支援室」を設置すると同時にすべての学部・研究科に在籍する障害のある学生を支援するためのあたらしい枠組みをスタートさせた。それが「@easeプロジェクト」と名付けた取り組みである。ここでは、このプロジェクトについて紹介することで、慶應義塾大学における「合理的配慮の提供」のイメージをお伝えできればと思う。

なお、「@ease(at ease)」という言葉には「安心して、気持ちが安らぐ、落ち着く、心身を楽に……」などの意味がある。「障害学生支援」という言葉が持つ固いイメージに引きずられることなく誰もが安心でき、気持ちを落ち着かせることができる環境の実現に向けたさまざまな取り組みを行っていきたいという願いをこの言葉に込めている。

では、「@ease プロジェクト」の6つの取り組みを順に紹介したい。

「@easeプロジェクト」のイメージ図

①ポートフォリオの管理:慶應義塾大学には10学部・14研究科があり、そのそれぞれに障害のある学生が学んでいる。ただし、それぞれの部門の担当者が異なることもあり、学部・研究科をまたがった情報共有にはどうしても限界がある。特に高い個人情報に繋がる障害のある学生への対応については、基本的には当該部門内クローズな情報となってしまっている。今回、「障害学生支援室」が設置されたことにより、同室で障害のある学生への対応を「ポートフォリオ」という形で統一的に管理し、そのノウハウを蓄積していくことが可能になった。これにより、障害のある学生の支援にスムーズに対応していく環境を構築できると考えている。

②障害学生支援パッケージの整備:障害のある学生の支援は、支援を希望する学生から「合理的配慮申請書」が提出されることを起点として開始される。しかし、高等学校での学びと大学の学びではそのスタイル含め大きな違いがあり、高等学校以前に受けていた支援が大学における支援に必ずしもふさわしいと言い切れない状況もある。この状況の解消に向け、今まで提供してきた支援の内容を予め学生に伝えることで、それぞれの障害にあった支援の内容を見つける参考とすることができると考えている。そのためには、今まで提供してきた支援内容をパッケージとして整備し、その提供を前提として支援内容を話し合っていくことでより最適なゴールへと辿りつけるようにしたいと考えている。

③支援機器などの整備:音声認識等科学技術の進歩に伴って障害のある学生を支援するためのさまざまな機器が日々登場している。その一方でこれらの機器は非常に高額である場合も多い。この点について、「障害学生支援室」で支援機器を一括管理し、資源の有効活用とスムーズな提供を実現したいと考えている。

④e-learningコンテンツの提供:大学には「合理的配慮の提供」が義務付けられているが、その考え方を組織のすべての構成員が正しく理解することは何よりも大切である。この理解に向けて、e-learning コンテンツを整備し、Webサイトを通じて提供する取り組みを進めていく。

⑤学部・研究科との支援連携:10学部・14研究科には障害のある学生が数多く在籍しており、そのすべてを「障害学生支援室」単独で出島的に対応することは難しい。各部門における学びは当該部門の理解があってこそ進むものであり、当該部門の学習指導担当教員、科目担当者、そして窓口となる学部・研究科の事務担当が一丸となって支援する仕組みの構築が何よりも重要である。その支援の輪に「障害学生支援室」が加わることで、「合理的配慮の提供」をサポートしていく体制を構築したい。

⑥「@easeサポーター」の運営:障害のある学生の支援には教職員だけではなく、共に学ぶ学生が無関心でいるのではなく、支援の輪に一緒に加わることが何よりも大切だと考えている。「@easeプロジェクト」では、実際の支援を行う学生を「@easeサポーター」と名付け、臨時職員として雇用することで必要な支援の提供を行いたいと考えている。

以上、協生環境推進室では、このあらたなプロジェクトの継続した運用により、障害のある学生の支援を、多角的かつ積極的に進めていきたいと考えている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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