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【特集:共に支え合うキャンパスへ】
加藤恵里子:多様な性を尊重する信濃町キャンパスの実現 ――安心と信頼につながる環境づくりに向けた活動

2023/03/07

  • 加藤 恵里子(かとう えりこ)

    慶應義塾大学病院看護部長

信濃町キャンパスおよび慶應義塾大学病院では、医療質向上推進委員会の傘下で活動するダイバーシティ・ワーキンググループが中心となり、多様な性を尊重する環境づくりを推進しています。「信濃町キャンパスでは、働く方、学ぶ方、来訪される方の全てが、お互いの多様な性を尊重し、安心で信頼できる環境づくりに努めます」を方針としました。これを受けて、病院のホームページには、「当院をご利用される皆さんがお互いの多様な性を尊重し、患者さんが安心して医療を受けることができる病院として発展するために、教職員が一丸となって取り組みます」と宣言し、病院を利用される方々に向けての取り組みから開始しました。この活動のきっかけとなったのは、患者さんからの一通の「投書」でした。それまで当院では、多様な性に関する方針は設けておらず、一般的に性的マイノリティと称される患者さんからのご希望には個別に対応をしていました。しかし、社会全体の意識の変化、そして実際の患者さんの声から、病院の理念である、「患者中心の医療の提供」を実現するためには、病院内の体制整備と、私たち教職員の意識改革に取り組む必要性に気づかされ、放置できる問題ではないとの考えに至りました。2021年2月当初は、有志4名によるワーキンググループからのスタートでしたが、その後、この活動に賛同いただけた副病院長でもあり性分化疾患センター長である長谷川奉延先生をはじめ有志の職員が加わり、さらにアドバイザーとして佐々木掌子(臨床心理士・小児科非常勤講師)先生を迎えて、みんなで学び理解することから始めました。2022年1月からは、前述のとおり、医療質向上推進委員会のもと公的な活動に発展し、さまざまな課題に取り組んでいるところです。以下、具体的な取り組みついて、ご紹介します。

1.私たち教職員の意識改革

教職員が性的マイノリティへの理解を深めるために、松田前事務局長協力のもと、部課長師長会議の時間を活用し、管理者が学ぶ機会を設けました。今年度は、アドバイザーの佐々木先生に講師をお願いし、病院教職員必須のセミナーとして教職員全員が受講しました。セミナーでは、①なぜ性の多様性を前提とした病院が求められているのか、②性の多様性の要素、③異性愛主義・男女二元論を院内で問い直す、といったテーマで講演していただきました。欧米の病院の取り組み例も織り交ぜながら、入門編として正しい知識を持ち、これからの病院の在り様を考えさせる機会になったのではないかと思います。

2.性別に関する問いは複数回問わない

病院を受診する際には、患者さんに共通問診票、各科問診票を記入していただきますが、これら問診票の項目を見直し、性別変更や性別違和のある方には、記載いただけるように改変しました。そして、この情報を電子カルテや来院受付表等に反映することで、何度も性別を問う必要がない仕組みを構築しました。また、入院時に、医療安全のために患者さんに着けてもらうリストバンドから、性別表記を削除しました。

3.院内の環境整備

幸いにも新病院棟は、外来エリアには多機能トイレが設置され、入院エリアは性別によるトイレの使い分けはしていませんでした。そのため、ご案内さえスムーズにできれば、トイレにまつわる環境整備は特に手を入れなくてもよい状況でした。一方、更衣室は、性別での使い分けをしていたため、個室利用ができるように整えました。また、こうした姿勢が伝わりやすいように、病院が宣言した文言を外来各窓口やデジタルサイネージで案内し、患者さん向け広報誌にも掲載しました。2023年1月からは、東京都パートナーシップ宣誓制度を受けて、帳票類や、インフォームドコンセント等のガイドラインも変更し、パートナーの方が、患者さんをサポートできる体制を整えたところです。

今回の取り組みの中心は、性同一性に関して「不要なことは言わない、聞かない、聞くことがあれば最小限に」というものです。そして、対象者は患者さん、ご家族、パートナーを中心としたものです。医療従事者の対応次第で、当事者が医療機関に抱く最初の印象が決まります。その印象によって、当事者がジェンダーやセクシュアリティについてどこまで話せるかを判断する可能性が高く、病院教職員、医療従事者との関係性も変わってきます。多様な性を視野に入れ、柔軟に対応できる病院となるまでには、まだまだ課題は多く、引き続き活動を継続していきます。さらに今後は、病院のみならず、信濃町キャンパスをご利用されるすべての皆さん、教職員、学生に対象を広げた取り組みを展開していきます。皆さんからの声を聞きながら、ダイバーシティを推進していく所存です。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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