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2023/01/10

多様な日系アメリカ人社会

伊藤 フクシマさんは以前、日系人には4種類のパターンがあると言われていたと思うのですが。

フクシマ 私の経験から言うと少なくとも4種類の日系アメリカ人がいます。

1つ目ですが、日本の米軍基地には、アメリカ軍で働いていた日系アメリカ人が子供の父親で、母親は日系人あるいは日本人という人が結構いました。そういう人たちは学校では英語を習っても、住んでいる環境は日本なので日本語はある程度できる。日本とある程度なじみがある。私が小さい時に付き合った日系人にはそういう人が多かったです。

しかし、ロサンゼルスのガーディーナ・ハイスクールの大多数のように、日系アメリカ人だけど日本には行ったこともなく日本と接触がなく日本語ができない人がいる。ケビン・イケダさんのようにアメリカ人としてアイデンティティを持っている人が2つ目です。

3つ目ですが、私がスタンフォード大学に行った時、初めてハワイの日系人との付き合いができました。当時、スタンフォード大学の学部ではイオラニとかプナホウとか、ハワイの名門私立高を卒業した日系アメリカ人が結構いました。彼らのアイデンティティは相当日本に近い。小さい時から日本のテレビ番組を観たり、日本出身の祖父、祖母が一緒に住んでいる。彼らは本土の日系アメリカ人には「コトンク(空っぽの頭)」というハワイ語を使います。これは本土の日系アメリカ人をけなす言葉です。

伊藤 違う世間なのですね。

フクシマ そうです。あまりにも白人化してしまっていることを揶揄している。われわれは日本文化、伝統を維持しているという意識の人が結構ハワイにいます。

4つ目が、私がハーバードに行った時に付き合ったフランシス・フクヤマやケネス・オオエのように、東海岸で育った日系アメリカ人です。彼らはほとんど他の日系人との付き合いがない。主に白人、中でもユダヤ系アメリカ人との付き合いがかなり強い。日系社会とも日本とも関係ない。そのように少なくとも4種類ぐらいの日系アメリカ人がいると思います。

このように日系アメリカ人のことを一般化して考えるのは非常に難しいです。特に日本に関してどう考えているかは本当に個々で違います。日系アメリカ人の中には全く日本に関心がない、あるいは日本のことを嫌いだと考えている人がいる。それと正反対で日本が大好きと言う人もいます。多様性があることを日本の皆さんに理解していただきたい。

日系コミュニティとどうつながっていくか

伊藤 フクシマさんは、今、日本に住む日本人コミュニティから仲間として受け入れられていると感じていますか?

フクシマ それは相手によると思います。私のことを完全にアメリカ人だと考える人とアメリカ人だけれども日本語もでき、日本のことをある程度理解していると考えている人もいる。「仲間」の定義にもよりますが、日本の人たちの5割から6割ぐらいの人たちは私を積極的に受け入れてくれていて、1割から2割ぐらいは何か抵抗と言いますか警戒と言いますか、本当の理由はよくわかりませんが、距離をおいている人もいることは事実だと思います。

伊藤 よく日本の新聞でも、例えば海外に渡った日本生まれの人がノーベル賞を取ると、「頭脳流出」という言葉を使ってポジティブに捉えない。またすぐオールジャパンという言葉を使いますし、世界とつながる以前に日本単位で考えたいという、この2つの世間のせめぎ合いを今でも感じることがあります。

私は慶應義塾がこれからより国際化する時には、いかに世界の人たち、また日系コミュニティともどうやってつながっていくかはとても大切だと思います。

フクシマ 先ほど言いましたように、日系アメリカ人と日本との関係は他のアジアから移民してきた人たちとアジアの国との関係とはかなり違う。その理由は2つあると思います。

1つは、日系アメリカ人側から見ると、第二次世界大戦の際、12万人ほどが強制収容された。だから、日系二世の親たちから、これから日本と付き合っても何のためにもならないと言われてきた三世の友人もいる。とにかくアメリカ人として生活するのが一番賢明なことであって、日本とはむしろ関係を持たないほうがいいと見ている日系二世は結構いたと思います。

私はいとこが3人サクラメント周辺にいます。皆、白人と結婚し、日本に一度も来たことがないし、日本に全く関心がない。だから日系アメリカ人の中で、少なくとも三世ぐらいまでの世代は、日本とあまり関係を持ちたくないという人が結構いました。

もう1つ、日本側は明治維新の頃からアジアではなくアメリカ、ヨーロッパと付き合うことが優先されてきた。そして欧米との付き合いというのは白人の男性だ、という感覚が結構強いです。

アメリカに戻ってから私は慶應・スタンフォードプログラムのスタンフォード大学の議長になりました。過去の書類に慶應の国際関係会(IIR)の代表からの手紙があって、「毎年12名、夏にスタンフォードから慶應に来ているけれど、最近日系アメリカ人の数が多過ぎる。われわれとしては日系アメリカ人を本当のアメリカ人として見ていない。だから金髪の白人、本当のアメリカ人を送ってくれ」と書いてありました。

また当時、日本は英語教育に熱心で、英語の先生のアルバイトの仕事がたくさんありました。しかし当時は白人の金髪の人が本当のアメリカ人という認識でしたので、学校でも日系アメリカ人を雇わないということがあり、一時、日系アメリカ人の中で話題になりました。教育レベルが非常に高く、アメリカの名門大学を卒業し、SATの英語の成績がよい日系人よりも、教育レベルが高くなくても白人で金髪で青い目をしている人のほうがちゃんとした英語を話せるはず、という誤った感覚だったのでしょう。

私も通商代表部に入って一カ月後にワシントンの日本大使館でパーティーがあった時、当時の日本政府高官から「あなたはアメリカ側の代表としては一番ふさわしくない人だ。なぜかというと、日本人はあなたのことをアメリカ人とは思わないからだ」と言われたことがあります。そう言われて、周りにいたアメリカ人たちは皆、ショックを受けました。

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