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【特集:中国をどう捉えるか】
座談会:中国を動かすダイナミクスの受け止め方

2021/08/05

米中対立の若者世代への影響

小嶋 加島さんに伺います。中国が経済発展のために必要な改革を行うためには、例えばTPPへの加盟を目指すにせよ、ある程度の外圧が必要なのではないかと思います。どういった要因が今後の中国の経済方針に影響をもたらしていくとお考えですか。

加島 中国経済に影響を与える要因について、全体的な見通しを示すことはなかなか難しいので、今後の中国経済を考える上で私が関心を持っている個別の論点をいくつか提示させていただきます。

まず、岩間さんがおっしゃったソフトパワーは非常に重要な点で、経済的な面ではコンテンツ産業と関連します。一般に、中国の国際企業の発展の1つのパターンとして、相対的に保護された国内市場で力を付けて、それから世界に出ていくという形があります。

その点はコンテンツ産業にも当てはまる可能性があって、中国の2021年5月の労働節休み期間(5月1―5日)の映画興行収入を見ると、5日間だけで、中国全体で16億元(約256億円)以上、1位の『你的婚礼』が6.5億元(約104億円)に上っています。

『你的婚礼』は韓国映画のリメイクのようですが、中国国内で作られた映画も多数ランクインしており、国内市場だけでそれだけの興行収入を上げているわけです。こうして国内市場を母体に力を付け、その後、優秀なコンテンツが輸出されていくという可能性はあると思います。

ゲーム産業もかなり強く、スマホやタブレットの無料ダウンロードゲームでは中国製のものも見られますし、日本の子供が知らず知らずのうちに中国製ゲームで遊んでいることもあるでしょう。こうした形で中国のソフトパワーが世界中に広まることはありうると思います。

また、私が今回の米中対立で非常に関心があるのは、米中対立が激化する中で、中国政府が長期にわたって公式にアメリカに対する批判を展開していることが、中国の若者の心理にどういう影響を与えるのかということです。今までの中国の若者にとって、学歴としてはアメリカの大学に留学することが1つのゴールだったわけです。共産党のリーダーの子息もアメリカへ留学しています。

今後、中国の若い人たち、特にこれから大学への進学を考える小中高校生くらいの子供が、アメリカという国をどのように認識し、それと関わっていくのか。果たしてアメリカへの留学を目標とするのか。この問題は長期的に見て興味深いと考えています。

それともう1つ、IT技術の発展と中央・地方関係についてです。先ほど官の民に対するコントロールについて話題になりましたが、中国史の文脈からすると興味深いのは、デジタル化とかITを通じた統制技術の発展が、中央政府による地方官僚や地方党幹部へのコントロールにどういう影響を与えるかという点です。

伝統的に中国では中央がいかに地方をコントロールするかが統治の大きな課題となってきましたが、デジタル化による統制技術の発展は、中央政府の地方に対するコントロールを強化する作用がありそうです。そうすると、それまでの中国国内の統治スタイル、特に官の中でのコントロールにどういう影響を与えるか。これは非常に重要なテーマだと思います。

試される中国外交のレジリエンス

小嶋 川島さん、先ほどお話しになった理念が前面に打ち出される外交は、コロナ後、経済交流が活発化する中で、変化していくのでしょうか。中国が外交スタイルを再び転換するとしたら、何がそのきっかけになるでしょうか。

川島 今後の中国にとって、分岐点になりそうなことはあります。ハイテク産業にしても、エンジニアが中国に残りたいような居住環境を共産党政府がつくれるのか、ということなどです。

外交について多様性を取り戻せるかが焦点ですが、それは当面難しいでしょう。民間が多様性を取り戻すにしても、それが結果的に政府の対外行動にフィードバックされるのには時間がかかりそうです。

農業移民から各企業、地方政府に至るまで、それぞれ自らの論理で動いている以上、一定程度は中央政府に反映されるでしょう。しかし、共産党中央が硬化していると、フィードバックにも限度が生じます。

例えば先ほど岩間さんが触れた広東にいた10数万人のアフリカ人たちですが、彼らは、コロナ下で急減しました。感染対策の過程でアフリカ人の間で感染が広まっているという話が現地で広まり、広東の官憲が一気に彼らを取り締まりました。そのやり方が「乱暴」で、現地のアフリカ人からも、知らせを受けたアフリカ諸国のメディアからも猛烈な反発がありました。この件、どの程度フィードバックされたのか。

孔子学院もまた1つの事例です。孔子学院も途上国では、現地学生が中国語を学んで、中国に留学して中国語をマスターして母国に帰ると、現地の中国企業に就職できるので結構上手くいっている。ところが、それを先進国でやっても、学生たちが中国企業に行きたいわけではないので結果は出ない。ですから、先進国では孔子学院批判が噴出しました。

この件もフィードバックがどれだけされているのでしょう。習近平は、「愛される中国」になると言うけれど、そのためには現場からのフィードバックが肝要です。

外交面では、新型国際関係をつくると中国は言います。しかし、国内からの不満の声、それに諸外国からの声は届いているでしょうか。それだけの調整能力、柔軟性があるかが問題です。

政治的に敏感な2023年ぐらいまでは厳しいかもしれませんが、その後、習近平が任期を延長するならば、多少余裕が出た時に再調整できるかもしれません。そこでそれができず、社会や諸外国と認識がずれると非常に厳しいかなと思います。

小嶋 中国外交がレジリエンスを取り戻せるかどうかは、何が決め手になるのでしょうか。

川島 これがわかれば、小嶋さんが国家主席になれると思います(笑)。現在、9500万人の党員の忠誠心を確認していますが、そうした心理的圧力だけではなく、ビッグデータなりを上手に活用して、いわゆる「自発性」を引き出すよう、調整していくことが必要でしょう。

習近平の「愛される」発言も、嫌われているのはわかっているものの、「間違えた」とは言えないことを示します。こうした姿勢でレジリエンスを回復できるのか、疑問です。

今ひとつ問題となるのは、やはり鄭さんが言及した財政問題でしょう。ない袖は振れなくなってくるし、地方財政が危機に頻すれば地方政府の選択肢が減少して硬直化し、国内世論も多様性を失うかもしれない。

そして、最悪のケースは、習近平の夢と共産党の夢と中国の夢がバラバラになることです。だから、習近平としては、党の、そして社会の夢を常に把握し、それらを揃えていかなくてはいけない。これができれば、柔軟性は担保できると思います。ずれていることに気付かない、ずれていてもいいと思うのなら、もうレジリエンスは期待できないでしょう。

小嶋 コロナ禍で硬い党政府がつくられ、それが共産党建党100周年の今年、政治の年を迎えてより一層硬くなっていると。けれども、皆様のお話を聞く限りにおいて、軟らかい民間社会やしたたかに生きる人々の活力は維持され、コロナ禍や政治の年が過ぎ去れば、再び動き出すと予測されます。

共産党政権に問われてくるのは、果たしてそういった活力や多様性を汲み上げて国の活力に変えていく力を持てるかどうかということですね。川島さんのおっしゃったことを私なりに解釈するならば、習近平への忠誠を求めながらも、地方が、企業が、また人々がある程度自由に夢を追える空間をどこまで確保できるか、彼らの要望にどれほど応えていけるかにかかっているんだろうと思います。内政や外交を通じてそれが確保された時、習近平の夢、共産党の夢は中国国民の夢になるかもしれません。

本日はどうも有り難うございました。

(2021年6月11日、オンラインにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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