【特集:中国をどう捉えるか】
座談会:中国を動かすダイナミクスの受け止め方
2021/08/05
習近平の管理体制の課題
小嶋 今、川島さんが論点を整理してくださいました。国家の統治におけるテクノロジーの適正な利用、人権や自由といった価値と文化相対主義、グローバルな市場と安全保障、これらはいずれもコロナ後の秩序を考える際に重要ですね。
そこで最後に、皆さんご自身の研究分野に関わる論点をめぐり、中国の統治がコロナ後にどう展開していくのか、その方向を規定する要因は何かということを伺えればと思います。
コロナ禍で強められた社会に対する統制管理は今後とも維持されるのか、それともある程度緩むのか。それを規定する要因はどこにあるでしょうか。
鄭 川島さんがおっしゃった、ハイテクノロジーの課題はすごく大きいと思います。管理体制を維持していくための高いコストがかかります。人口ボーナスという面がなくなる中、ハイテクノロジーの発展が、どこまで経済を牽引していけるのかということですね。
習近平の管理体制は歴史の視点から見れば、やはり毛沢東時代の遺産が大きかったと思います。ただし、毛沢東時代の遺産というのは諸刃の剣という面があり、ある程度のところで限界が来ると思います。
例えば農村の土地の集団所有という点で言いますと、この制度は、社会の安定化に寄与したところがあると見ています。この制度を基盤に、1980年代には独自なやり方、つまり郷鎮企業が牽引役となって農村経済が発展しました。90年代には土地を失った農民が出るといった不平等の問題がありますが、全体的には土地に対する農家の経営権が安定しているため、大量の流民を生み出すような状況ではなかった。土地の集団所有制は、むしろ都市で働いている出稼ぎ労働者が失業した時の受け皿になっていた。今の方針では、土地に対する農家の経営権は今後も30年間は変わらないということになっています。
一方、この方針だと、土地の規模経営や農業の機械化の進展には障害が出てくるのではないかと思っています。この問題に関しては、以前はかなり議論がありましたが、最近はあまりそういった議論がなくなっているようです。
もう1つ、党がすべての社会をカバーしている以上、その責任も大きいです。いかに党内の統一性を保つのかという問題が出てくると思います。地方レベルの幹部は、必ずしも情報を忠実に上にあげるわけではないので、情報をいかに伝達させるかが重要です。
そして何か問題があった時、日本やアメリカと違い、一党体制の下では党や政府に批判が向かいやすいので、そのあたりにリスク、不安定性が潜んでいるのではないかなと思います。
中国の持つソフトパワー
小嶋 岩間さんはいかがでしょうか。
岩間 社会の問題に関しては、鄭さんや川島さんのお話に付け加えられる点はありませんので、特に文化面の話をしたいと思います。
文化相対主義的な考え方が定着するかどうかは難しいんですが、もしそういう契機があるとしたら、外国と触れ合う機会なのだと思います。
中国はソフトパワーが弱いところがあると思います。私は文学部にいますが、今年も中国史で卒論を書く学生が少ない。文学部の学生は文化への興味で研究テーマを選ぶので、今の中国はあまり人気が出ません。大衆文化、つまりドラマや音楽などは、まだ日本や韓国のほうが先進国だと思うのです。
ただ、近年、芸能界や博物館、美術館はどこが一番景気がいいかというと完全に中国で、日本とは比べものにならないぐらいの資金が流れている。また、中国はこの10年ぐらい、韓国を文化産業のモデルとしてすごく勉強しているので、華流が韓流に続くのは、意外に遠くないという感じもするんですね。
もう1つ、ソフトパワーで言うと、孔子学院の話が思い浮かびます。孔子学院と言うと、すぐ宣伝とか洗脳という話になってしまうのですが、そういったある種の文化交流機関というのは、中国以外にもブリティッシュ・カウンシルや、日本の国際交流基金だとかいろいろあるわけで、中国がすぐに宣伝とか洗脳と言われてしまうのは、やや一方的という感じがします。
しかし、孔子学院がより受け入れられるようになるためには、多文化主義や文化相対主義的な考え方が浸透して、相手国の文化を自然と尊重することが重要になると思います。外国との関わりの中で中国も徐々に中国的な多文化主義、文化相対主義の議論が成熟していくのではないかといった希望的観測も持っています。
2021年8月号
【特集:中国をどう捉えるか】
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