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【特集:新春対談】
新春対談:夢を育てる学塾

2020/01/06

品格を身につける教育

長谷山 いろいろとお話を伺ってきましたが、演出家、監督としての福澤克雄は、これからどこへ向かっていくのでしょうか。

福澤 分かりませんね。僕らの生きているこの場所がどう変わっていくのか、非常に難しい。テレビは確実に縮小していきます。でも、もう1回ラグビーものをやりたいなとは思っています。

長谷山 来年は2度目の東京オリンピック・パラリンピックがあります。慶應はイギリスのオリンピック・パラリンピックの選手団の事前キャンプを引き受けて、去年から競技チームが日吉に来て交流しています。塾生がオリンピック選手を目の当たりにするということは、その後の人生に非常に大きな影響を与えると思うのです。

古代オリンピックというのは選手が事前にキャンプして、哲学、歴史を学ぶような、学問と一体のものでしたので、大学が学問の府としてオリンピックとどう関わっていくかは重要だと思っています。特に慶應は、それこそ福澤諭吉の教育理念が、「まず獣身を成して後に人心を養え」ですから。

福澤 オリンピックというのは、とてつもない大会ですからね。イギリスの選手が日吉に来て練習をするのですか? 

長谷山 去年から、もうイギリスのオリンピック・パラリンピックのいろいろなチームがやって来て、塾生とも一緒にコラボレーションをしてくれたりしています。特に、パラリンピックのチームは本当に感謝してくださっています。なぜなら、施設を完全にバリアフリーにするため、慶應は要望をよく聞いて大改修をしました。協生館の宿泊施設の部屋を2つぐらいぶち抜いて、バスルームなど全部をバリアフリーにしたのです。

イギリスとはいろいろなご縁があって、BOA(英国オリンピック協会)のCEOだったビル・スウィーニー氏が慶應と事前キャンプの協定を結んだのですが、一昨年イングランドラグビー協会の会長に転出したのです。この間、天皇陛下の即位の礼の時にチャールズ皇太子が来られて、英国大使公邸で開かれたレセプションにお招きいただいたらスウィーニーさんもいて、ラグビーの話で盛り上がりました。

オックスフォードのラグビーチームのクラブハウスには、世界のいろいろなラグビールーツ校のジャージが飾ってあるそうですが、「日本は慶應のジャージが飾ってある」と話してくれました。このようにイギリスのスポーツ関係者は、有り難いことに慶應に対する親近感をかなり昔から持ってくれています。慶應と世界の大学やあるいは組織などと、人的ネットワークをつなげるという意味でとても貴重な財産になっていると思います。

人間関係といえば、120年前に塾生にラグビーを教えてくれたのはケンブリッジ出身の英語教師だったクラーク博士ですが、昨年の蹴球部創立120年記念のイベントには博士のお孫さんのヘザーさんがご高齢にもかかわらず来日して、ラグビー早慶戦を観戦されたり、祝賀会で関係者と懇親してくださいました。少女時代には博士やご家族と神戸に住んでいたそうで、慶應のこともご存じでした。

福澤 そうなんですね。慶應の体育会はとにかく、そんなに強くなくてもいいから一生懸命練習をして、品格や規律を身につけてほしいと思います。特にラグビーは、出身大学がものを言う世界です。おそらくイギリスもそうだと思います。

長谷山 慶應はどの競技でも、卒業したら終わりではなくて、指導者や連盟の幹部人材を、かなり生み出していますよね。スポーツを通じて身につく人格は大切だと思います。

福澤 私の時は、尋常ではない猛練習で、殴ってすむなら殴ってくださいという感じでしたけれど、体罰は一切なかったです(笑)。

長谷山 まさに気品の泉源を目指している大学ですから。どこに行っても、慶應を出た人は一味違うね、と言われる人材を世間にたくさん送り出せば、まさに日本は品格のある近代国家になるという創業者の理想にも適うことです。そういう教育を、これから慶應義塾は頑張ってやっていきたいと思います。

福澤諭吉という人は芝居や相撲、落語というものは若いうちは遠ざけていたのですが、晩年は歌舞伎の改良運動を始めて、自分で歌舞伎の脚本を書いたり、大横綱常陸山と親交を結んで、常陸山も弟子たちに、これからの相撲取りは品格が大事だと説いたりしている。そういうDNAがちょっと福澤さんにもあるのでしょうか。また体格的にも福澤諭吉はあの時代としては大変大きな人だったので、それも継がれているのかなと(笑)。

これからも、福澤さんには「人間って本当にすごいんだな」と思わせるような作品をつくっていただければと、大いに期待しています。

福澤 有り難うございます。また今年の春から『半沢直樹』の続編が始まりますので。

長谷山 楽しみにしております。本日は有り難うございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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