【特集:変わるインドと日本】
座談会: 大国化するインドとどうつきあうか
2019/11/05
存在感の薄い日本
竹中 いろいろな動きのある中で、アメリカ・トランプ政権の厳しい移民政策は、インド人の思わぬ動きをもたらすかもしれません。例えば、シリコンバレーにいるインド系の人々のビザがどこまで更新されるのかが注目されています。アメリカを去る人々が少なくないとも予想されます。逆に言えば、そうした人々を日本に招き入れるためには、またとないビジネス・チャンスとなるかもしれません。
さらに、米中が貿易戦争で対立し、中国製品に頼ることが困難になりつつあり、先端的なソフトウエア開発や工場生産について、インドに期待したいという声は強まっています。
武鑓 アメリカのビザが厳しくなったら日本がチャンスというのは、その通りです。しかし、インドの若者が将来どこに行きたいか、というとやはり圧倒的にアメリカなのです。アメリカに行くと、マイクロソフト、グーグルのCEO、ハーバード・ビジネススクールの学長になって活躍をしています。
では、日本に行ったらどうなるかというと、まったく先が見えないわけです。そういう話を日本人にすると、「じゃあインドのIITに日本語学校をつくろう」という話が出てきます。日本の考え方は、インドを東南アジアと同じように捉え、インドのトップ大学で日本語教育をしてもらい、日本に来てくださいという発想なのです。
しかし、日本が必要としている技術系人材を獲得するには、いかに日本が魅力的な国で、ITだけではなく、様々な技術分野が進んでいることを上手くアピールすることが重要です。
実際、アメリカに留学しているインド人の留学生の総数は、10万人以上なのに対し、日本は約千人と、まさに1%以下です。日本と同じく言葉の問題がある中国やドイツへは、1万人以上が留学しています。やはり日本の魅力がインドの若者に伝わっていないのでしょう。
日本側が危機感を持って、もっと積極的に動いていかないと、何も起こらないというのが私の考えです。
竹中 日本に優秀なグローバル人材を迎えようとすると、困難なのは給与面だそうです。MITを出たばかりでも4、5千万円の年収を稼ぐような研究者を、日本の大学や研究機関、日本企業が雇用できない。
中国の大学や研究機関は、潤沢な資金をもとに巨額の給与や研究費をオファーして、優秀な外国人を採用しています。独特な文化や言語も理由に挙げられますが、何よりも日本的な組織と給与体系、研究費の規模やあり方が、外国人には魅力がないと指摘されます。この点はとても深刻です。
武鑓 彼らはやはりキャリア志向で、自分が何を学べ、成長できるかを考えるのです。日本と違って大手企業に長く勤めたいという発想を持っている若者は少ないと思います。逆に、尖ったテクノロジーを持っている中小企業ややスタートアップ企業であれば、優秀なインド人材を採用できる可能性があります。ただ、「日本語をしゃべってほしい」と言った途端に難しくなる。
インドのトップ人材を受け入れられるかどうかは、まさに、その企業がグローバルに勝負するのかどうかの、1つの試金石になるのではないかと思っています。
二階堂 日本でインドの話をすると、少し前までは「インドなんて女性をレイプする国で、貧しくて、発展するわけがない」という、頑なな考えを持っている人たちが少なからずいたように思います。
日本で流れるインドのニュースもすごく良いニュースとすごく悪いニュースしかない。かなり偏向したニュースが入ってくるので、ネガティブな印象を持った人も少なくない。それは私たちがまだ発信できていないのかなとも思い、反省もしています。
やはり、日本には少し上から目線でインドを見ている方が多いように思います。だから、インド人のほうから日本に来てくれるだろう、という思い込みがある。他方、ソフトバンクはいち早くインドのユニコーン企業に投資して、その技術を使ってOYO LIFEやペイペイ(Pay Pay)を開発しているのです。
神田 ペイペイとインドのペイティーエムの画面は一緒ですものね。
二階堂 今までのモノと情報の技術、人は、先進国から途上国という流れでした。でも今は逆になってきている。そのことは認めないといけない。まさに武鑓さんの本にあった「多様性と困難がたくさんあるからイノベーションを生む素地がある」ということなのだと思います。
ITやフィンテックを使って困難な社会をよりよくしていこう、といった考えが出てくるのは、インドならではだと思うのですね。インドが抱えている問題は全世界の課題でもあると思います。そういった意味からも、日本でインド理解がもっと深まるといいと思います。
企業のセミナーに呼ばれても、あまり情報をお持ちでなく、割と基本的なことを知らないので、インドに進出したいと思っている企業は、統計では増えていても、まだ遠い国なんだなと思います。
2019年11月号
【特集:変わるインドと日本】
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