【特集:サステナブルな消費】
座談会: SDGs実現のために 消費をどう変えていくか
2019/08/05
変わり始めている企業
岡村 SDGsにはいろいろなゴールがあるので矛盾もありますが、できるところからやっていきたいし、日本中で髙橋さんのような活動をされる事業者の方が増えてくださるのが、私たち消費者にとってもよいことですね。
やはり将来世代に負担を押し付けてまで、今、消費し過ぎることというのは長い目で見て正しくないことに消費者も企業の方ももう気付き始めています。ファッションも、人々が気持ちよく着ることができるために、正しくつくってくださるものを買えるようにしたいと思います。
蟹江 そうですね。僕も最近、服についてもすごく気にするようになってきたんです。でも、そうすると、どれを選べばいいのか逆に分からなくなってきてしまう。
冨永 エシカルな活動をしているブランドを集めたサイトや、スタイリストさんがつくっているサイトもちらほらありますが、やはりまだ定着はしていない感じですよね。
岡村 サステナブルなラベルを知ってもらうための活動をされている団体もありますね。
蟹江 あと、「ここの会社はこういう努力をしているよ」というものがもう少し見えるようになればいいですね。今は企業報告の後ろにちらっと書いている感じしかない。例えばこの会社はサステナブル三つ星ですとか、二つ星ですとかがあるとわかりやすい。
岡村 今は、ペットボトルからつくった背広もありますからね。
買いやすい値段になっていくまでは時間がかかるので、なんとか企業の方と私たち次世代への責任を負っている大人が、頑張っていいものをつくり、それを伝えていきたいですね。
蟹江 今、プラスチックゴミ削減のために、業界はペットボトルも2000年代のいつまでにゼロにするという宣言をして動き始めていますよね。
すぐにはできなくても、「いつまでにこれをやりますよ」と宣言することはすごく大事です。それができないのは、もしかしたら仕組みのせいかもしれないし、マーケットができていないせいかもしれない、ということがだんだん分かってくると思うんです。
岡村 以前よりも企業の方たちの本気度が変わったと感じます。環境に良いことをしているということを積極的に開示して、投資マネーもESG投資を通して呼び込み、それを消費者にも伝えていこうとしている業界も会社もあるので、より広まってほしいと思います。
蟹江 やはり日本は発信は下手ですよね。去年、国連の会議で、マレーシア出身のボンドガールをやった女優のミシェル・ヨーさんが、エシカルファッションについて演説したんですが、プレゼンテーションがすごく上手い。
日本からもそういった発信をしていくのはすごく大事だと思うんですよね。結構よい活動をしているところはあるのですから。
髙橋 ただ、グローバルな世の中だからといって海外に出ることは、私は全然考えていないんです。そう思っていなくても、今、うちに会社には世界中から毎日メールが来るんですよ。
従業員2、30人の小さな会社ですが、トリニダード・トバゴから昨日連絡が来ましたとか、ペルーから来ましたとか、いろいろな話が毎日のようにメールで来て、やたらグーグル翻訳が活躍している(笑)。
「持続可能なことをやっていますよ」と情報発信さえしていれば、向こうからどんどんアクセスしてくれる世の中になっていると思うので、包み隠さず表現していくことが大切なのかなと思います。日本は奥ゆかしい人たちが多いので、情報発信をすることが社会に対して大切だ、ということを浸透させる必要があるのかなと思うんですね。
食品ロス削減のための課題
蟹江 食品ロス削減の法律ができ、消費者庁の今後のアクションというのは、どのあたりがターゲットですか。
岡村 家庭のゴミについては、全国の市町村、都道府県まで全部ネットワークがありますので、気付きを伝えられればと思いますし、いろいろ実験すると、単に測っただけでロスは2割くらい減らせることも分かってきました。
事業系については、例えばレストランのバイキングで、いつもきれいに並んでいないと困ると要求する消費者は、ほとんどいないということもわかってきましたので、そのあたりかと思っています。
髙橋 今、いろいろなメディアで食品ロスを取り上げていただいているので、食品が大量に捨てられている映像を見て、消費者は「もったいない」と思っている。でも、逆に言うと、「もったいない」としか思わない。実はその食品廃棄物というのは、自分たちの税金を使って焼却炉で燃やされているわけです。今、国で廃棄物処理費は年間2兆円使っているんですね。
紙やビン・缶はリサイクルされるので焼却炉で燃やされているのは、食べ物が4割から5割。そうすると、8000億円から1兆円、われわれの税金を使って燃やしていることになる。食料自給率が38%の国なのにです。このことも消費者に知っていただかないといけない。
さらに、自治体の焼却炉は、自分たちの家庭ごみだけではなく、ホテルとかレストラン、スーパーのものも全部自治体で燃やされています。これも一般の人たちはほとんど知らない。
そういったことをやはり知っていただいて、自分自身の問題として、消費行動を変えてもらったり、流通側に伝えてもらうことが必要です。
蟹江 今朝、オランダの環境大臣と、三田で行われたシンポジウムで話をしたのですが、食品ロス削減は、誰にとってもウィンウィンなんですよ。悪いことはない。お金も得する。逆に言えば「なぜやらないのか」ということになる。ちょっと仕組みを変えれば、皆が得する話なんですよね。
冨永 たぶん家庭の生ゴミに関しては、皆さん何が食品ロスなのか、分かっていないと思うんですよ。私自身も、うちからどうやって食品ロスが出ているか分からない部分があります。
普段料理をするときに、私は基本皮は剥かないようにしているんです。だから良質の野菜じゃないと嫌なのですが、子どもが生まれてからそれを気にするようになったのです。
髙橋 それは一番正しい。ほとんどの食品は皮のところや葉っぱに栄養があるんです。
蟹江 そうなんですね。僕は一生懸命皮を剥いていました。面倒くさいなと思いながら。
髙橋 皮を捨ててしまうのはもったいないから、私は今、シェフの人たちや料理学校の先生たちに、皮をもっと使うメニューをつくって提案してくれないか、という話をしているんです。
岡村 楽しい話題で知識が増えると、うれしいですよね。ストイックにどうこうというのではなくて、気付いたところからやって、日々の生活を楽しめればいいと思うのです。そういった消費者が増えてくれば、売るほうも、つくるほうも考えてくださると。
2019年8月号
【特集:サステナブルな消費】
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