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【特集:サステナブルな消費】
経済学からみるサステナブル消費

2019/08/05

  • 山本 雅資(やまもと まさし)

    富山大学極東地域研究センター教授・塾員

はじめに

我々の生活は、途切れることのない消費活動の連続である。あなたは今朝、仕事に向かう道すがらコーヒーを買って飲んだかもしれない。昨日の帰り道には、近所のスーパーに立ち寄って、食品の買い出しをしたかもしれない。コーヒーを買って飲むとき、もしかするとお気に入りのコーヒー店で、いつものお気に入りを注文したかもしれない。

しかし、その店がお気に入りになる前には、もう少しリサーチをしたのではないだろうか。味、お店の雰囲気、値段などを総合的に判断して、ライバルチェーンよりも(例えば価格が少し安いなど)自分の満足度が高いと思うからこそ、このお店がお気に入りになったのではないだろうか。

一方で、スーパーでは何を買っただろうか? 仮に茹でたブロッコリーを食べたいと思って野菜売り場に向かったのに、ブロッコリーが想像以上に高かったらどうだろうか? 私なら、すかさずアスパラガスに目を移し、安売りしていたら(高くないと判断したら)、代わりにアスパラガスを購入する。私にとっては茹で野菜としてブロッコリーとアスパラガスはほぼ同じだから、相対的に価格の安い方を選択するだろう。自分が消費するものの質を一定とすれば、代替品との相対価格の差が消費選択の意思決定に重要な役割を果たすのである。

サステナブルな消費行動に必要な情報提供

相対価格は我々の行動を規定する重要な情報であるが、社会全体に目を向けた場合、必ずしも完全な指標ではない。市場経済が最もうまく機能したとしても、売り手が負担している費用以外は価格に反映されないためである。代表的な問題がCO2などの地球温暖化ガスの排出である。気候変動による自然災害などの被害は世界中に広がっているが、(途上国や島嶼国など)影響の受けやすい地域とそうでない地域があり、これは各地域の地球温暖化ガスの排出規模とは関係がない。自らに被害をもたらすことがなく、特に規制がない場合、企業にとっては無関係に映る。CO2を排出することがもたらす社会全体への費用を価格に転嫁することが望ましいのであるが、グローバルな株主の意向を汲む企業経営では、法令遵守以上のコスト負担は簡単ではない。これは「市場の失敗」と呼ばれている。

この失敗を是正するためにはどうすればよいであろうか? 消費者の視点から考えると、まずは情報を得たいと考えるであろう。もし、自分にとって同質の製品が同価格で販売されており、一方はCO2排出量が少ないとすれば、進んで購入する消費者もいるであろう。相対価格の差の大きさ次第では、多少高いとしても購入するケースもあるかもしれない。特に使用時のエネルギー効率については情報提供の効果が大きい。利用コストの削減につながるためである。自動車はもちろんのこと、エナジースターや省エネルギーラベルという形で家電製品でも盛んに情報提供が行われている。こうした動きは、森林管理協議会(FSC)による持続可能な森林経営の認証や、「海のエコラベル」と呼ばれる海洋管理協議会(MSC)による漁業認証といった自然資源の分野にも広がりをみせている。

その後押しをしているのが世界的なESG(環境・社会・ガバナンス)投資の流れである。2015年に我が国の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連の責任投資原則(PRI)に署名した。PRIはESG投資の基準に従って投資先を選定することを掲げた原則である。世界でも影響力のある機関投資家のカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)もPRIに署名しており、非財務情報も含めて「環境・社会・ガバナンス」に配慮のない企業は投資が受けにくくなっている。また、2017年には東京オリンピック組織委員会が「持続可能性に配慮した調達コード」を策定しており、環境リスクや人権問題を抱えるビジネスは国際的イベントに関わることが困難な状況になっている。

エコラベルなどによる情報提供で消費者がサステナブル消費を選択しやすくなることは間違いない。ただし、ラベルによる情報提供の設計には、慎重に取り組む必要がある。ある研究によると、スーパーの魚に資源保全の状況に応じて、危険な順に赤、黄、青の異なる色をつけたエコラベルをつけて販売したところ、黄色は大きく減少したものの、それ以外の色の魚の販売に統計的に有意な変化は起こらなかったという(Hallstein and Villa-Boas(2013), JEEM)。この理由としては、(1)黄色の魚を買い控えた消費者にとって、青の魚に十分な代替性がなかった(質的な妥協をするには相対価格が高すぎた)、(2)既に赤についての知識があり、もともと購入する予定がない消費者が多かった、という可能性が挙げられている。

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