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【特集:サステナブルな消費】
座談会: SDGs実現のために 消費をどう変えていくか

2019/08/05

  • 岡村 和美(おかむら かずみ)

    前消費者庁長官

    1980年早稲田大学法学部卒業。88年ハーバード・ロースクール修士。89年米国ニューヨーク州弁護士登録。97年モルガン・スタンレー・ジャパン法務部長。2000年検事任官。金融庁、最高検察庁を経て2014年法務省人権擁護局長。16年8月~19年7月まで消費者庁長官。

  • 冨永 愛(とみなが あい)

    ファッションモデル

    17歳でNYコレクションにデビュー。以後約10年間にわたり、世界の第一線でトップモデルとして活躍。その後、拠点を東京に移し、モデルの他、テレビ、ラジオ等のパーソナリティなどとして活躍。本年5月、消費者庁エシカルライフスタイルSDGsアンバサダーに就任。

  • 髙橋 巧一(たかはし こういち)

    株式会社日本フードエコロジーセンター代表取締役

    1992年日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。経営コンサルティング会社、環境ベンチャー、株式会社小田急ビルサービス環境事業部顧問を経て現職。一般社団法人全国食品リサイクル連合会会長。2018年第2回ジャパンSDGsアワード SDGs推進本部長賞を受賞。

  • 蟹江 憲史(司会)(かにえ のりちか)

    慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授

    塾員(1994総、2000政・メ博)。博士(政策・メディア)。北九州市立大学法学部助教授、東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授等を経て2015年より現職。内閣府地方創生推進事務局「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」幹事等を務める。

サステナブルな消費への取り組み

蟹江 今日は持続可能(サステナブル)な消費をテーマに皆さまと話していきたいと思います。この問題でよく取り上げられるのは、まず「食」の分野ではフードロス(食品廃棄)です。ちょうど「食品ロス削減推進法」という法律も本国会で成立したところで、これからいろいろな取り組みが進んでいくと思います。髙橋さんはこの分野でジャパンSDGsアワードの大賞を昨年取られていて、その事業が大変注目されています。

それから、やはりわれわれが身近に感じるのはファッション分野です。「エシカルファッション」という形で、地球に優しく、持続可能なファッションが理解されつつありますが、この5月にファッションモデルである冨永さんが消費者庁の「エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー」に就任されました。冨永さんのような有名な方にこうした課題をしっかり取り上げていただき、「エシカルファッション」「サステナブルなファッション」を世の中の人におしゃれなものと認識してもらうことはとても大事だと思います。

そして、そういったサステナブルな消費、エシカル(倫理的)な消費を行政から牽引していらっしゃる岡村さんの役割は大変重要なものだと思っています。

まず、岡村さんのほうから消費者庁の取り組みについて簡単にご説明をお願いできますか。

岡村 消費者庁では、「エシカル消費」というものを、消費者基本計画の中で、「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会、環境に配慮した消費行動」としています。さらにもう少しわかりやすく、「消費者それぞれが、各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」として啓発をしています。

その中でお話がありましたように本国会で、「食品ロス削減推進法」が成立しました。これは半年以内に施行されますが、消費者庁では、関係省庁と連携して、すでに食品ロスについては大きな行動を起こしています。2013年にはロゴマーク(ろすのん)をつくり、全国的な啓発活動を始め、2、3年前ぐらいから、フードロスについての報道も増えてきています。

そうした機運が高まり、全会一致で食品ロス削減を推進する法律ができました。毎年10月が食品ロス削減の月間ですので、今年の10月を目標に具体的な施行準備を固めるため、今、動きだしているところです。

食品ロスの現況は現在、年間643万トン(2016年)で、そのうちの約半分は家庭から出ています。国民1人あたりに換算すると51キロにもなるのです。

蟹江 ものすごい量の食品がムダになっているわけですね。

岡村 そうですね。消費者庁は、安心安全な生活のためにある役所ですから、安心安全な暮らしが持続可能でなくてはいけないと思っています。

そこで、持続可能な社会の実現のための活動をいろいろとやってきたわけですが、2015年の国連サミット採択によるSDGs(エス・ディー・ジーズ)(持続可能な開発目標)の開始によってこれらの活動が統合され、様々な方たちと連携ができたのはよい機会でした。今まで国の政策決定に関与していなかったような人たちの参加も求められていますので、役所の仕事である未来の設計(フューチャーデザイン)に多様性を与えてくれています。

消費者庁というのは、企業(事業者)と消費者の間に存在しています。つまり、企業の方がビジネスとして支持されるようなことをやってくださるのが最も効率的なのです。そこで企業の方たちが社会の構成員全員である消費者を大事にする経営をしてくださることを促進しようと、消費者志向経営の優良事例表彰を始めました。

選考委員には蟹江さんにも入っていただき、去年、その消費者志向経営の第1回の表彰をしました。まだ始まったばかりの活動ですが、事業者団体と消費者団体と連携して消費者志向経営推進のプラットフォームをつくり、推進しています。また、愛称として、これを「サステナブル経営」と呼んでいます。

蟹江 SDGsという言葉が浸透する前から、非常に意欲的にいろいろなことをずっとやられていて、今、形になりつつあるということですね。

岡村 「正しい消費をしましょう」ということが、消費者庁の目的です。もともと経済官庁ですから、「経済活動としてお買い物をする、あなたの今日の選択が世界の未来を変える」という形で発信しています。

「ラグジュアリー」の意味が変わる

蟹江 そういった中で、今回冨永さんにアンバサダーをお願いしたのですね。

岡村 ええ。なぜ冨永さんにお願いしたかというと、蟹江さんがおっしゃったように、発信力の高い冨永さんが志を共にして活動することによって、正しく考えて、自分で選ぶお買い物が「スタイリッシュ」なことだと皆に感じてほしいからなんですね。

スタイリッシュが分かりにくければ、「素敵なこと」でもいいですが、正しい消費をすることに意義があるということを全年代に向けて発信したいのです。冨永さんの今までの活動を拝見していると、正しい価値のために力を尽くされている方だと思い、アンバサダーになっていただきました。

トップモデルとして、素敵だなと憧れる思いももちろんありますが、単にファッションの世界だけではなく、ライフスタイル全体について、発信してくださることで、この活動の意義が広がることを期待しています。

冨永 よろしくお願いします。岡村さんがおっしゃるように、「正しい消費をすることがスタイリッシュである」ということは、今のファッション業界のブランド自体が目指していることでもあるんですね。今、「ラグジュアリー」ということの意味が変化しつつあるんです。

今までは、シーズンごとに流行りのものが生み出されていって、その新しいものを身に付けることがラグジュアリーだと思われていた。要するに、人間の欲望を満たしていくことだけをラグジュアリーと捉えてきたと思うのですが、今はやはりその背景にあるもの、人道的支援だったり、環境問題だったり、そういうことを支援しているブランドを選ぶようになっています。

そして「そういったブランドを買うことが豊かさである」ということを皆さん考え始めている。今、まさにそういう時代に入っているんですね。

やはりSDGsという言葉が登場してきたことも意義深いと思います。

岡村 持続可能な責任ある生産と消費の輪の中に、生活している人も入って、自分で参加すべき時代になってきているんですね。

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