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【特集:サステナブルな消費】
座談会: SDGs実現のために 消費をどう変えていくか

2019/08/05

ファッション業界の変化

髙橋 もともと私はSDGsという意識はまったくなかったのです。でも、「持続可能な社会」というのは、私が学生のときからずっと言われていて、それを2015年に国連が採択しただけの話なので、「持続可能な世の中にしていかないとこれからは難しい」と感じている人たちは、もともと多いと思うんですよね。

蟹江 それをSDGsは「見える化」したんですね。

冨永さんは、いつ頃からこのSDGsという言葉を知りましたか。

冨永 実は、岡村さんとお会いしたときからで割と最近なんですよ。

岡村 ラグジュアリーブランドというのは、昔ながらのやり方で正しくつくって職人の方たちの生活が成り立つようにしているので、どうしても値段が高くはなりますよね。

そして無駄にしないようにつくって、大切に使う。そういう夢のあるものです。やはりファッションの関係者も、現代の必要に合わせて進化しているんだと知り、冨永さんがアンバサダーにピッタリなのでは、と思ったんです。

蟹江 それまで自分がやってこられたことと一致したということでしょうか。

冨永 そうですね。ファッション業界の中でも90年代ぐらいから「エシカル」な動きがちらほら出ていて、私の事務所の社長でもある生駒芳子さんはファッションジャーナリストなので、10年ぐらい前から自分の雑誌で発信していました。

私がもう1つアンバサダーを務めている国際協力NGOのジョイセフという、アフリカなど途上国の妊産婦のお母さんたちを守る団体も、2010年ぐらいから活動していて、いろいろなところに目が行くようにはなっていました。

2010年ぐらいまで、私はニューヨーク、ミラノ、パリとコレクションをずっと回っていたんですが、動物愛護団体の方たちが、「NO FUR(毛皮はいらない!)」というプラカードを掲げて、裸でランウェイに上がってくることがあるんですよ。毛皮を使うな、とか動物の殺傷問題については、その頃からもう言われていたんです。

その当時は「ファッションの場でなぜそんなことまで」とも思いましたが、その後すぐにいろいろな活動が始まり、時代がエシカルな方向に向いているな、というのは感じていました。

サステナブルである方法

岡村 当時は、あえて先鋭的なことをする、一部の方たちだけの行動と受け取られることもあったと思います。でも、フードロス削減も、エシカルファッションも、普通の人たちにとっても、とても大切なことなので、社会と対立するようなやり方ではなく、今できることから、より正しい方向に少しずつ行くのであれば、それが結局一番確実ですよね。

冨永 そうしなければいけない時代になったのだと思うんです。そのことも消費者は結構分かってきている。

だから、そういった「正しい」商品をどうやって選ぶかということだけですよね。

蟹江 やり方はいろいろあると思うのです。例えばちょっと高いものを買って、その代わり、ほつれてもちゃんと直して着るのもいいと思う。

また、例えばこの名刺入れは、アフリカで食肉用の動物の皮を使ってつくったものです。こういうものは日本まで輸送する際にCO2もたくさん使っていると思いますが、その一方で途上国の人の生活を守り、余計な殺傷もしないでつくっている。

あるいは、日本国内のある地域で、土地のものを利用したり廃棄を少なくしたり、あるいは端切れとなった革を利用したりして、サステナブルな原材料利用や経営をしながら、「正しく」つくっているところもある。だから、答えは1つではなくて、いろいろなやり方があるのではないかと考えます。

冨永 あると思います。それこそそういう背景を知らなかったとしても、安いものをどんどん買い続けるよりも、1つのモノを長く愛することもサステナブルなのです。

髙橋 ホットマンというタオルメーカーは、自分たちがつくる繊維が加工されて、よくない売り方をされてしまっているので、直接自分たちが消費者に届けたいと思い、30年使えるタオルをつくったそうです。卸しの人たちからは、「それでは数が売れないじゃないか」と散々言われたそうですが、100%フェアトレードのコットンで、すごくいいタオルです。

そこの会社は売り上げがすごく伸びているんですね。宣伝などしなくても、口コミで、「これはすごいよ。本当に30年持つタオルだよ」と周りの方が勝手に営業してくれる。それでどんどん注文が入り、1000万円分タオルを買う会社があるそうです。

フェアトレードだからこそ現地で持続可能な生産をしてもらって、安定的に原料を供給してもらい、化学薬品を一切使わないタオルをつくり、肌にもすごくよいので、アレルギーを持つ人たちにとっても、大変よいらしいのですね。

大量生産・大量消費からの離脱

岡村 そういう企業の人たちがつくった物やサービスを、消費者が自分で価格も納得して買うというのが、消費者志向経営とエシカル消費の流れですね。いいものをつくってくれる企業があるから消費者は買える。消費者が支持して買ってくれるから企業は伸びるのですね。

『三田評論』は、企業の経営者の方がかなり読んでおられると思いますが、日本の企業にものすごく期待しているのです。日本企業の技術力は、本当に素晴らしいと思うのです。

冨永 私もそう思います。

蟹江 今までやっていないことをできるようにすることこそ、まさにイノベーションで、それが商売になっていくのだと思います。

SDGsの目標は世界全体で合意している目標なので、皆、そこに向かっているはずです。そうすると、何か新しいことができるとなると、それが売れるようになる世界が来るはずなんですよね。逆にそれが来ないと、地球がなくなってしまうことになる。

髙橋 SDGsは、その考え方がすごく大切なんですよね。産業革命以降、どうしてもGDP、経済優先で走ってきた世の中が、いろいろな歪みを生んでしまっている。それを「なんとかしましょう」という考えがSDGsの考え方の根底にあるのかと思います。

やはり、大量生産・大量消費からいかに離脱して、皆がウィンウィンでいいものをきちんとつくり、皆がそれを使っていく方向に持っていかないと、地球は厳しくなるのかなと。

冨永 そうですね。とくにアパレル関係が多いかと思うのですが、価格競争が激化する中で、海外に安い工場をつくって、安い賃金で大量につくって安く売るということがまかり通ってきたんです。でも、一方で日本の企業は、先ほどおっしゃったように素晴らしい技術を持っていて、エルメスとか、大手のいろいろなブランドが日本のニットの工場を使ったり、岡山のデニムを使ったりしています。

そういったものづくりの技術が日本にはあるんですね。国外に工場を持つのではなくて、日本の工場でつくったものを日本のブランドが売るという形に少し戻ればよいと思うのです。地産地消をアパレルでもやっていく。実際に、若手のデザイナーさんでは、そのように地産地消で、問屋さんを通さずに工場と直接取引してブランドをつくり、少しでもコストを落として消費者に届けている人もいます。

「日本のものは日本で」と企業のあり方、ブランドのあり方を見直していったら、素晴らしいことになるのではと感じるんです。

蟹江 地方創生とかも、そういう中でできると思いますね。

岡村 これは日本の企業がつくった光発電の時計なんですけど、太陽光でなくてもLEDでも蓄電できるんです。

日本の企業の技術でこんなに薄くなって、ベルト部分も日本でつくられた伝統工芸の西陣織なんです。さらに製造工程で洗うときに化学薬剤も流さないと徹底している。

 体にも環境にもいいと。

岡村 私もちょっと無理して買ったんですけど、それはほかのものを買うのを我慢すればいいわけです。

生活様式というのは、いっぺんに全部は変わらないでしょう。でも、10回買い物するうちの1回だけ、意識するだけでも変わっていくはずです。チョコレートが好きなら、このカカオはアフリカの子どもが学校に行かないで摘んだのだと分かれば、そうではない商品を選べばいいと思うのです。

消費者がそれぞれきちんと責任を持って選ぶなら、方法はいろいろあっていいと思います。そして、冨永さんが「こんなこともやっている」とつぶやいていただければ、「あ、そうか」と思う人たちがたくさんいる(笑)。

蟹江 そうですね。僕らがやるよりも、これは冨永さんがやると、やはり「かっこいいな」という話になる。

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