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【特集:サステナブルな消費】
座談会: SDGs実現のために 消費をどう変えていくか

2019/08/05

消費者と流通側のギャップ

髙橋 食品ロスの問題も、やはり「正しい消費」ということが大切だと思うんですね。食品ロスというのは、サプライチェーン全体の問題でもありますが、その一方で、消費者の買い方の問題もすごく大きいのです。

今までは「きれいな色のトマトだ」とか、色や形、値段が重視され、傷付いているジャガイモに、「なんでこんなものを置いているの」とお客様がクレームをつければ、スーパーはそれを並べないようにしていた。でも、実際にそう思っている方はごく一部の方だけなのですね。

冨永 そうなんですよね。

髙橋 たいがいの日本人は大体文句を言わずに買っているのですが、店長会議などで、「きれいな色のトマトじゃない、とクレームがあった」という全体の1%ぐらいの声に影響を受けてしまう。そうすると、そうやってはじかれた食品がどんどんロスを生んでしまうのです。

ですから、消費者のほうも、例えば「傷付いているジャガイモが30円引きなら買うよ」と言ってくれればよいのです。私が行っている居酒屋さんは、余った刺身のつまを戻すと、ドレッシングをかけてサービスとして出してくれるのですが、それは消費者が言ったからできるようになったんです。買う側が言わないと、それが廃棄されてしまうんです。

消費者が、われわれはこういうものを買いたいと発信をしていくことがすごく大切です。それが世の中を変えていくと思うんですね。

冨永 私もバナナはフェアトレードのものを選ぶようにしているのですが、なかなか売っていないですよね。それがはっきりわかるマークも少ない。私は結構選んで買っているタイプだと思うんですが、世の中のお母さんたちは時間もないので、近くのスーパーに買い物に行ったときに、やはり、そこにあるものを買ってしまいがちだと思います。

髙橋 やはり、情報が足りないんですね。今、置いてあるものの値段や見栄えだけでしか判断できないような状況になっている。少し昔であれば、例えば商店街の八百屋さんが、「ちょっと形の悪いトマトだけど、有機だからうまいよ」とか、「今が旬でおいしいから2つおまけしとくよ」みたいな形で、逆にロスをなくしていたと思うんです。

蟹江 なるほど、そうですね。

髙橋 結局、消費者と流通側のコミュニケーションがないためにギャップがどんどん生まれてしまい、それが食品ロスを生んでしまっている1つの要因になっているかと思うのです。

本当に消費者が求めているものが、安全性やおいしさ、ヘルシーさであるのならば、例えば生産者の顔が見える写真を貼ってほしいとか、梱包のことを考えてほしいとか、産地情報がわかるQRコードを増やしてほしい、と言っていただいたほうがよいと思います。

私1人の力では変えられないと、皆さん言うのですが、店長会議などを見ていると、消費者1人の声はすごく大きくて、その声に右往左往している。むしろ声を上げていただくことで、かなり流通側を変えられるのではないかと思います。

蟹江 意見が反映される場をつくることが重要ですね。意見箱みたいなものでもいいかもしれないし、SNSだともっと言いやすいかもしれないですね。

髙橋 そうですね。また、昔と比べると、365日、野菜などもいつでも食べられるようになっているので、食べ物の有り難みや生産の難しさを、消費者の方が実感しにくくなっています。そして、流通側も文句を言われるのが嫌なので、いつでも品物を並べて置く。そうすることでロスが出てしまうところもある。

そういった意味では、やはり食べ物の生産現場のことをキチンと知る必要もありますね。食育と言うだけではなく、いろいろな生産者の体験をしたり、見学をするような教育や啓発も大切ではないかと思います。

変わる若い世代の意識

髙橋 ヨーロッパなどでフードロスの問題に積極的に取り組んでいるのは、若者たちなんです。大学生など20代のメンバーがディスコ・スープと言って、皆で音楽を聴きながら、余ってしまった食べ物をスープにして、通りがかりの人たちに渡していくようなことをいま盛んにやっています。

冨永 ファッションもそうですね。若いデザイナーの人たちは、自分のコレクションラインをつくる一方で、リサイクルのラインをつくったりしています。やはり若者のほうがエシカルに対しての感度が高いですよね。

生まれたときから「環境問題」と言われ続けて育ってきている。私の息子もそうですが、10代の人たちはすごく意識があります。

髙橋 私の会社は余った食品を発酵飼料にする事業をしていますが、若者たちが工場見学に来るんです。今日も大学生たちが見学に来ていました。彼らと話してみると、お金持ちになりたいという時代ではないんですね。

例えば自分はこんな社会課題に関心があるから、それを解決していきたいといったことにやりがいを感じている若い人たちがとても多いと感じます。

岡村 「たった1つの地球を守ろう」という意識が高いですよね。最近知ったのですが、今の中学生は公民の授業で、普通に「持続可能」とか「サステナブル」ということを習い、SDGsを知るのだそうです。

冨永 素晴らしい。

蟹江 それが大事ですね。実は、親は自分が勉強するよりも、子どもから言われたから勉強することのほうが多いと思うんです(笑)。

髙橋 うちの工場には毎週バスで高校生が修学旅行で来るんですよ。京都や奈良へ行くのではなく、東北のほうから相模原のうちの工場までわざわざ来て、午前中に工場見学をして、そのあとホテルに帰り、消費者のチーム、食品工場のチームに分かれて、どうやって課題を解決するかというワークショップをやるそうです。

今の高校生はお寺よりもむしろ、社会問題に皆、興味を持ってくれるらしい。そういう若者がこれから社会に出ていってくれるといい方向に向かうと思います。

蟹江 今日もここへ来る前にある会社の社長さんと対談していたんですが、どの会社も創業の理念などの言葉を見ると、ただ儲けるために会社をつくっているのではなく、「社会の何らかの課題を解決するために会社をつくる」と書いてあるんですね。

だから、社会課題の解決というのは、目的として絶対にあるはずなんですよ。でも、会社を続けているうちにその部分が薄れてきて、金儲け優先になってしまったりする。原点はそちらなので、若い人たちは、よりピュアな目で考えているんだと思います。

髙橋 うちは新卒で従業員を毎年採っているのですが、離職率ゼロなんです。

仕事自体は、食品の廃棄物をひたすら選別したり、かなり劣悪な職場なんですが、朝礼や社員会議で、皆さんのやっている取り組みがこれだけ社会に貢献しているんですよ、こういったことで世の中の仕組みが変わっていくんですよ、と常々私が話をするので、やりがいを持って仕事をしているようです。

今、人手不足と言われていますが、うちで働きたいという人は絶えず来るので、社員募集に広告費を使ったことがないんです。そして誰も辞めない。それは、これから持続可能な社会をつくっていくために、この部分をうちはやっていこうと思っている、と情報発信しているからではないかと思っています。

蟹江 なるほど。それはすごいことですね。

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