三田評論ONLINE

【特集:サステナブルな消費】
経済学からみるサステナブル消費

2019/08/05

注目される廃プラスチック問題

サステナブル消費を考える上で近年注目を浴びているトピックとして、廃プラスチックの問題がある。2018年のカナダでのG7シャルルボア・サミット前後からにわかに注目を集めたように感じるが、学術的には2014年頃から権威ある学術誌でマイクロプラスチックや海洋ゴミの問題に警鐘を鳴らすなどの大きな流れが始まっていた(Eriksen et al. (2014), PLoS ONE, Jimbeck et al. (2015), Scienceなど)。社会的な関心が高まったきっかけは、EUが2015年前後から資源効率性(resource efficiency)および循環経済(circular economy)という政策を相次いで打ち出したことであろう。資源循環やリサイクル政策を環境政策としてだけでなく、経済政策として位置付けたことがブレークスルーであった。同時期にエレン・マッカーサー財団から『New Plastics Economy』が出版され、2050年には海の中の廃プラスチックのほうが魚よりも多くなるという試算が2016年のダボス会議などを通じて広まっていくと、世論は一気に高まっていった。

上記ジムベック氏らの研究では、プラスチックごみの海洋流出量を国別に集計しているが、上位4カ国は中国、インドネシア、フィリピン、ベトナムで、いずれもアジア諸国である。日本は30位とされており、流出量も中国の数十分の一となっているが、日本からアジア諸国に大量の廃プラスチックが輸出されていることを考えれば人ごとではない。実際、国連環境計画(UNEP)の報告書『Single-use Plastics』によれば、日本の一人あたり廃プラスチックの発生量はアメリカについで2位であり、世界のプラスチックごみに大きな責任を負う立場にある。既に魚だけでなく人体からもマイクロプラスチックが検出されており、豊かな海を次の世代に確実に引き継ぐためにも、早急な対応が求められている。そこで我が国では、2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」を策定した。これは「3R+Renewable」を基本原則としたもので、2030年までに使い捨てプラスチックを25%排出抑制することなどを含むマイルストーンが定められた。

世界的にみても野心的なこのマイルストーンを達成するためのヒントは、前述のUNEP報告書にみられる。同報告書では、世界規模でみると2015年のプラスチックごみのうち、約50%はレジ袋を含む容器包装であると推計されている。プラスチックごみ問題の核心の1つは容器包装であり、容器包装の発生抑制なくして解決することはできないのである。これは言い換えると、我々の日々の消費が解決の鍵を握っているということである。過剰な容器包装の商品は消費者の判断で取捨選択することが難しい側面もあるが、着実に選択肢は増加している。また、レジ袋有料化について、環境省は東京オリンピック前の義務化を目指すと大臣が発言している。レジ袋有料化は典型的な相対価格の変化による発生抑制手段であり、無料で配布される場合と比べると、確実に削減が見込めるであろう。

ただし、注意すべき点もある。1つはレジ袋有料化に伴い過剰なエコバッグの消費が行われないようにすることである。一般的なエコバッグはレジ袋に比べて厚いため、100回程度使用しないとレジ袋との代替効果が出ないと言われている。イベントなどで安易な(特にプラスチック製の)エコバッグの配布は慎むべきであろう。もう1つはレジ袋有料化が本当にプラスチックの使用削減になっているかを確認することである。カリフォルニア州の一部の地域でレジ袋を有料化した際にレジ袋そのものの消費は減少したものの、ゴミ袋の購入が増加したという研究がある(Taylor(2019),JEEM)。もともとレジ袋をゴミ袋代わりに使用していた消費者が代替物を求めて、より厚手のゴミ袋を購入した結果であり、レジ袋削減量のかなりの部分を相殺していたと報告されている。

おわりに

2017年末より中国が廃プラスチックの輸入を原則禁止している。年に約130万トンの廃プラスチックを中国に輸出していた日本は、少なくとも短期的には大混乱となった。輸出されていた廃プラスチックはリサイクルしにくいグレードの低い混合プラスチックであったため、処理先が見つからずヤードに山積みになっているケースもあると聞く。

今後、日本国内での処理能力や再生材としての需要をいかに増やせるかが課題であるが、同時にこれまでの廃プラスチックリサイクルのあり方を見直すチャンスでもある。低グレードな混合プラスチックとして集められたものから高付加価値の再生材を作ることは困難であるし、残渣(ざんさ)も多く出るため歩留まりが悪い。これまでは分別収集するよりも相対的に安い価格で引き受けてくれた中国という「ラストリゾート」に任せることができたが、今後は発生抑制を進めつつ、コストはかかるものの、より上流での丁寧な分別が重要となる。そのためには消費者がサステナブル消費の視点を忘れずに日々の消費行動を行うことと、その選択を後押しする製品情報の正確な提供が求められる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事