三田評論ONLINE

【特集:「移民社会」をどう捉えるか】
座談会: 移民社会化から考える これからの日本

2019/07/05

社会統合への課題

塩原 特定技能外国人労働者の導入という今回の法改正は、政策の決定プロセスで、ほとんど議論が深まらずに決まってしまい、かなり拙速だったと思います。

これから、より慎重かつ思慮深い受け入れと社会統合政策が求められているのは間違いありません。きちんと社会統合を進めていけば、外国人も市民になっていくわけですから。今後の課題について最後に伺います。

望月 社会統合については文化や生活だけでなく、雇用のあり方も重要です。現在は低賃金の外国人労働者がどんどんキャリアを上げていくことを想定した仕組みになっていないことが大きな問題だと思っています。移民労働者でも、日本人と同じようにキャリア形成ができなければいけないはずです。給与が上がれば、家族を形成する可能性も高まっていくし、日本人と一緒に仕事をする可能性も高まっていきます。

今の外国人労働者政策、特に技能実習などとこの考え方は乖離があるので、考え直すべきだと思います。

毛受 今まで、技能実習という制度がずっと続いてきたので、外国人労働者イコール安い労働力と見なしている企業が非常に多い。この企業の意識を変えることが大きな課題だと思います。

韓国では、産業研修制度という技能実習制度のようなものから雇用許可制という制度に移りました。日本は現在、併存しているので、新しく労働者として雇う制度ができたのであれば、期間を定めて技能実習はやめてしまうことだと思います。

そして日本人並みの給料を出す。それができない企業は退場してください、ということにしないといけないと思います。

 私は安定した政治秩序をつくる際に、慣習や文化というのは、ばかにできないところがあると思います。多くの国でそういう非法律的、非権力的なものが大きな役割を果たしている。そういうものを取っ払ってしまうと、非常に権威主義的、管理国家的な政策を取らざるを得なくなる可能性が高い。

例えば中国では今、キャッシュレス社会をつくろうとしていますが、これは「デジタル権威主義」の社会をつくろうとしているのではないかとよく言われる。つまり、キャッシュレスにすると金の移動が政府に見えるのでデジタルで管理主義国家をつくれるのです。

中国というのは、本来、多文化で、いろいろな人種、宗教があり、グローバル化をある意味、先取りした社会です。日本も、今後ますます移民を受け入れていくと、秩序をつくるのが大変になる。そのときに、デジタル権威主義という形が出てくる可能性もあるのではないかと思います。日本が移民国家化してデフレも進み、管理国家化も進んでいくことを懸念しています。

松元 外国人の子どもに、義務教育の就学義務がないという今の方針が、在留外国人の子どものドロップアウト、就学率の低さ、進学率の低さにつながっていると思います。やはり学校というのは重要な社会統合の機会ですし、望月さんが指摘したように、外国人にとってはキャリア形成の機会でもあります。

施さんがおっしゃった、文化やマナーを重視していくという点でも、やはり教育の機会は大変重要だと思います。われわれだって日本人として生まれるというよりも、教育を通じて日本人になっていくわけですから。

塩原 今日の議論を通して私が思ったことは、「われわれ」というものの範囲と中身をどのように考えていくのかということです。「われわれ」は今までも多様であったし、これからも多様にならざるを得ないということが前提なのか。いや、これ以上、多様にしていくということに対して躊躇を感じ、とどまるという立場なのか。

しかしながら、案外、皆さん、似たような現状認識を持っているというのが僕の正直な印象です。この問題は保守VSリベラルのような単純な構図で語れるものでは全くなく、保守と言われている人たちのなかにも異論があり、リベラル・左派と言われる人たちでも、無条件に移民受け入れに賛成する人はほとんどいない。従来の構図ではないやり方で、議論していくことが重要だと改めて思いました。

今日は長い間、有り難うございました。

(2019年5月28日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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