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【特集:「移民社会」をどう捉えるか】
座談会: 移民社会化から考える これからの日本

2019/07/05

少子化の経済的要因

 移民推進派の方の大きな論拠は、やはり少子化だと思うんですね。しかし、私は少子化を自然現象として捉えてしまうと、新自由主義の罠にはまるのではないかと思うのです。

少し古いですが厚生労働白書(平成25年度)を見ると、若い男性が正規雇用か非正規雇用かで、「結婚しているか、していないか」に顕著な差があるんですね。正規雇用の労働者は、34歳までに59.3%が結婚している。ですが非正規雇用の人は28.5%しか結婚していない。

だから少子化問題は、経済的要因がかなり大きいと言えます。グローバル化の中で、日本も人件費を下げないと国際競争に負けてしまうからと規制改革を続け、90年代から非正規雇用をどんどん増やした結果、若い男性の生活が不安定になってしまった。日本では男性が非正規の場合、なかなか結婚しないんですね。当然子どもの数も少なくなる。ですから、やはり少子化というのはかなり新自由主義的施策の結果が大きいと思います。

本当に政府や産業界が少子化で日本はこれから回らなくなってしまって大変だと思うならば、まずは若い男性の雇用を安定化させることです。これをしないと少子化問題は解決しない。

もう1つ、東京一極集中をどうにかしなくてはいけない。これも政府はほとんど真面目に政策を打ってこなかったと私は思います。日本で出生率が一番低い都道府県は圧倒的に東京です。都市部ほど出生率が低い傾向があります。政府は、出生率の問題というと、保育所だ、待機児童だという話ばかりしますが、むしろ若い男性の雇用を安定化させることが大切なのです。真面目に少子化問題に対応しているとは思えません。

これは日本だけではなくて、ヨーロッパも同じです。まず現在の新自由主義的な政策のあり方を見直し、もう一度、「経世済民」の路線と言いますか、各国の一般庶民の生活を安定化する政策を第一に考えて政治をやっていかないといけません。

毛受 私は外国人を入れることは絶対に必要だと思うのですが、おっしゃるように日本の人口維持のために経済問題が大切だというのは同感です。

ただ、経済が安定したら、出生率が2以上になるかと言えば、これはなかなか難しい。現にお金はあるけれど、独身で生活する人たちは男女共に結構いるわけです。

もう1つ、年齢が若いほど人口が減っているのです。年齢別の人口統計で女性を見ると、20歳から39歳と、0歳から19歳を比べると、0歳から19歳のほうが22%も少ない。つまり母数が減ってきているので、出生率を上げても、子どもの数は増えていかない。このような状態では、子どもの数を増やすことはほぼ不可能だと思います。

それから、本国では子どもの数が多い外国の人たちでも、日本に住むと出生率が低くなるんです。なぜかと言えば、施さんがおっしゃったように経済的に不安定だからです。日本人も外国人も経済的に安定しないと、子どもの数は増えない。そういう意味ではおっしゃる通りですね。

問い直されるこの30年の政策

塩原 望月さんも、日本に住む外国人の苦境は、実は非正規雇用のような不安定な状況におかれた日本人が経験してきた苦境と通ずるものがあると書かれていましたね。

望月 移民問題を語るときにはいくつかの視点やテーマがあります。1つはやはり外国人に対する差別の問題など、文化や偏見に関わることです。

平成期のニューカマーの急増の理由の多くは、おっしゃる通り、グローバル化に伴う、「労働コストを下げたい」という資本の論理がメインにあるのは間違いない。その論理からすると、「外国人か日本人か」というのは、正直どちらでもいいのであって、要はどちらが使い勝手がいいか、くらいの差でしかないと思うんですよね。

仮に人口問題という文脈で移民のテーマを捉えた場合、今の形で受け入れるならば、外国人であっても子どもをつくることは難しいでしょう。日本人が家族をつくっていくことが難しい状況にあるのと同じです。これでは、いつまでたっても、人口が自然増する力学は生まれません。

また、「そもそもなぜ人口を維持するべきなのか」ということ自体の議論も必要だとは思います。人口を維持すること自体が目的化してしまい、その結果として、日本の中で生活が苦しい人だけがどんどん増えていくのであれば、何も良くはないじゃないですか。

ある程度の経済的な安定があって、生活の中に幸福があり、将来に対する希望がある人が増えていくことが重要なのであって、人口が多くないとGDPが下がるというだけの論理だと、大きく道を誤ると思っています。

日本全体のことを考えることも大事ですが、日本人であれ外国人であれ、個人の生活の視点に立って、どういう道を行けば一人一人が幸せになれるのか、ということを考えていかないとまずいのではないかと思います。

移民社会化が進んだこの30年、日本が下り坂で、貧しい外国人だけではなく、貧しい日本人も非常に増えてしまい、そこからの出口も見えないような状況に陥ってしまった。産業や国家の目線で政策を作ってきたのだ、と言う方もいるかもしれませんが、結果だけを見ると、一体何のための最適化をしてきたんだろうと思います。過去を冷静に振り返り、考え直さないといけない時期に来ていると思います。

移民政策も、そうした大きなフレームワークの中で、考えていくべきだと思います。日本人であれ外国人であれ、普通に暮らしていける賃金と、社会保障の仕組みをどうすれば実現できるか。そのことをベースに政策を考え直さないと、一般の庶民が幸せになれない国になってしまうと思っています。

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