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【特集:「移民社会」をどう捉えるか】
座談会: 移民社会化から考える これからの日本

2019/07/05

フローとしての移民と人口減少問題

松元 ここ2、30年の政治思想や政治哲学の理論的なトレンドを考えてみますと、90年代ぐらいから政治思想や政治理論において多文化主義論が活発になってきました。

そのときに念頭にあったのは、やはりカナダやオーストラリアという、いわゆる多民族国家において、どのように共存、共生していくかという話です。少数の民族をどう処遇していくか。シチズンシップ(市民権)の問題や政治代表の問題ということです。私も2007年に、多文化主義の本を書きましたが、そのときに日本の文脈で主に念頭にあったのは、アイヌ民族や琉球民族、あるいはオールドカマーと言われる在日の韓国、朝鮮人の方々でした。

一方、2010年あたりから移民研究がすごく盛んになってきました。これは多文化主義の問題とは似て非なる問題だと思うんですよね。移民というのは人口移動の問題で、望月さんの本にあった言葉を使えば、ストックではなくてフローの問題です。

その背景にあるのが、1つには施さんが言われたグローバリゼーションです。グローバリゼーションは生産要素(ヒト・モノ・カネ)の国際移動を促進させるので、当然フローは生じるわけです。

このフローの動きというのは、やはり人口減少の問題と切っても切り離せないと思うんですね。今回の入管法改正の様々な政策の背景にあるのも人口減少の問題だと思います。

移民問題を語る上では、やはりそういったグローバル化の問題、人口減少の問題がセットで生じていることなので、そこは合わせて考えていかないといけないのではないかと思います。

毛受 政府は、今回の政策は、人口減少対策ではなくて、「人手不足対策」と言っています。つまり「定住を前提とはしていない」というところが私は問題だと思っています。

人口減少は今はまだ序の口で、国立社会保障・人口問題研究所のデータでは、これから2020年代には620万人の人口が減るとしています。

しかし、すでに地方では深刻です。地方創生というのはこれまで日本人だけを考えていたんですが、結局、1兆円の予算を使っても、出生率もほぼ上がらなかったし、地方から東京への人の移動は逆に増えている。人口を維持するということは、全ての人が結婚して2人以上の子どもがいることが前提ですから、今の世の中ではどう考えても無理だと思います。

ですから先進国は移民政策をとって、どうやったらいい人材が入ってくるかを考えているわけですが、日本はこれまでそれをしてこなかった。つまり、日本人で回るだろうという想定をしてきて、それが駄目だったときの方策がなかったわけです。

やはり日本の人口減少について真剣に考えていかないといけない。そう考えると、外国人の受け入れは、もっと早くやるべきだったと思います。

塩原 結局それはフローとストックを分けて考えていたということでもありますね。もし人口減少への対応として、移民を考えるのであれば、実際に地方に住んでもらわなくてはいけないし、前からの住人となんらかの形で統合をしていくことが必要になる。つまり、移民を受け入れるということは、どうやって移民の人たちに社会の一員になってもらうかということと、セットで考えていかないといけない。

そこでストックについての議論である多文化主義について、もっと考えていかないといけないのではないか。日本の場合、多文化共生という言葉がそこに当てはまるとされていますが、多文化主義とはちょっと違うのではないかという議論がありますね。

松元 多文化主義の理論の中で、ウィル・キムリッカという人は、先住民と移民というような形で大きくカテゴリーを分けています。多文化主義において、移民の問題はある種副次的な問題で、メインの問題は独自の言語とか宗教やマナーを持った人々が、ある程度集住して暮らしているということが前提です。彼らの文化、生活慣習をどのように維持していくかということが、特にカナダやオーストラリアで発達してきた多文化主義政策の1つのあり方だったと思います。

だから、そこでは良くも悪くも、マジョリティ社会に対して、いかにマイノリティ社会の独自性を維持していくかというのが多文化主義の課題だったように思うんですね。

それに対して、近年の移民の問題は、マジョリティ社会の中に溶け込んで、どうやってその一員として暮らしていくかということです。自分で選んで来たという背景もあり、「どのように統合していってもらうか」ということですね。

それは同化とは違います。独自の生活とか物の考え方を維持しつつ、その上でホスト国の中に統合していってもらうことが新しい移民の課題だと思うんです。多文化共生という場合の共生には、そういう意味合いが含まれているのかと感じています。

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