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【特集:「移民社会」をどう捉えるか】
座談会: 移民社会化から考える これからの日本

2019/07/05

グローバル化と移民問題

塩原 お二人から、日本社会の中で外国人の置かれた現状を詳しくお伺いすることができました。

少し視野を広げたいと思います。グローバルに、つまり世界的な動向の中で、移民問題を捉えることも必要になってきます。そういった観点から、施さんには現実はどのように見えていらっしゃいますか。

 マクロな構図から言いますと、私の認識では、やはり、移民の問題というのは、この30年間、新自由主義的なグローバル化が進んできたことが一番大きいと思うんですね。

グローバル化の流れの中では、どうしてもグローバルな企業や投資家の声が非常に強くなる。なぜかというと、グローバル化すると資本の国際的な移動が規制緩和で自由になり、企業や投資家は、儲けやすく、ビジネスがしやすい環境でないと、ある国から出ていってしまうからです。海外の企業であればその国には投資しなくなる。そうやって、どんどんグローバルな企業や投資家の力が強くなってきたんですね。

何に比べて「強くなったか」といえば、それぞれの国の一般庶民に対してです。このような傾向は、イギリス、アメリカでは1980代のサッチャー、レーガンの頃からです。日本では1996年頃、橋本龍太郎政権で金融制度改革、金融ビッグバンが出てきた頃から本格化し、以降、グローバルな投資家や企業に有利な政策が数多くつくられるようになった。

日本は近年、消費税を上げて、法人税を下げる傾向にあります。また非正規雇用をどんどん増やして、人をより安く雇える政策をとりました。私は昨年の改正入管法も、この流れの中で捉えるべきで、これはやはり人件費を下げるための政策の一環だと思います。

日本は、デフレでずっと人件費が下がってきたんですが、2015年ぐらいに底を打ち、少し高くなる傾向にある。これが、バタバタと改正入管法の問題が出てきた一番大きな原因ではないか。つまり、「もっと安く人を雇いたい」ということではないか。

塩原 徹底してグローバル化の論理だというわけですね。

 日本のこの20年間の経済問題というのはデフレの問題です。厚労省毎月勤労統計によると、実質賃金はここ20年ぐらいで15.6%ぐらい下がっている。つまり庶民がお金が使えないから経済が回らない。日本はGDPの半分以上は個人消費ですので、デフレを脱却するためには、個人消費を回復させないと経済の回復はあり得ない。

しかし、ここで単純労働に従事する外国人労働者をたくさん入れてしまったら、デフレ脱却は無理ですよ。人件費が下がりますから。実はそれが狙いなんですね。この政策はデフレを悪化させ、そして庶民の生活をどんどん苦しくするだけです。

『移民の政治経済学』(ジョージ・ボージャス著)という本にはこうあります。アメリカで移民を入れることによって、確かに年間でプラスが500億ドルぐらいはあると言われる。移民が安い労働力で働いてくれるので企業が儲けた部分です。ただ、それ以上に問題なのは、同時に5000億ドル程度、労働者から企業に財の移転が行われているというのです。

ですから移民を受け入れることで誰が儲けているかといったら、圧倒的に企業や投資家なのです。一般の労働者はその陰で、どんどん雇用が不安定になり、賃金が下がる。いわゆる社会的コスト、教育や様々な福祉についても政府が出さなければいけない。

ですから、私はこの改正入管法の問題を論じるときは、そういった背後の非常に不公正な問題を見ることが重要だと思います。この問題はもっと国民的な議論を積み重ねていかなければならないのです。

技能実習制度の問題点

塩原 とても重要なご指摘ですね。望月さんや毛受さんの議論にもあった平成の30年間というのは、ネオリベラリズム(新自由主義)と言われる動きが明確になり、その中で格差社会と言われる一連の現象が顕在化してきた時期でもあった。そこを忘れてはいけないということですね。

この30年間の「外国人労働者」の受け入れとは、サイドドアとか言われる、日系人、そして技能実習生、さらに留学生という形の受け入れです。これまで労働者を、「労働者ではない」形で補填してきたということと、コストをかけずに、安い外国人を企業の側が雇いたいという、施さんのご指摘が一致するように思えます。

毛受 おっしゃる通り、技能実習生や、最近では出稼ぎ留学生みたいな形は、企業にとって「安く使える」ということで日本に来たわけです。

技能実習制度というのは企業にとっては麻薬のようなもので、非常に企業の体質を危うくすると思います。技能実習生は、日本人3人に対して払う賃金で最大15人雇えてしまうので、使い始めると、とても日本人を雇えなくなってしまうのです。

四国では、今、在留資格で一番多いのは、4県とも技能実習生です。この5年ぐらいで急速に増えた。みかんも、うどんも、カツオも技能実習生がいないと回らない。うどんに至っては、技能実習生が作って、留学生が販売して、外国人観光客が買っている。

塩原 完結してしまっている(笑)。

毛受 問題は、技能実習生は企業に囲い込まれていて一般の人たちには見えない。だから、実際は外国人労働者がいないと四国の産業は回らないのに、一般の人たちの意識は遅れていて、外国人に対する偏見も強い。そのようにして安い労働力という安易な形で外国人労働者を使ってきたのです。

これから技能実習制度と特定技能資格を併用するようになるわけです。そうすると企業の側からするとオプションが2つあることになる。特定技能は人数制限いっぱいになっても、技能実習生は数に制限がない。つまり上にふたをしても底が抜けているような話になっている。

もう1つの問題は、技能実習も特定技能も学歴要件がないことです。ですから、実態として途上国で最貧層の人たちがかき集められて来ている。私は、ブルーカラーの分野でも、ある程度勉強をした人に来てもらって定着してもらうべきだと思うのです。

今のままだと使い捨て的な感覚が残ったままで、また同じような問題が起こり得る。そして日本は「外国人を使い捨てにする国だ」と思われて、いい人が来なくなると思います。

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