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【特集:日本人の「休み方」】
フランスの休み方と「つながらない権利」

2019/04/05

ヴァカンスの実態

CRÉDOC という調査機関が、2014年に2019人を対象に面接方式で、フランスのヴァカンスについて実態調査しました(VACANCES: 2014)。それによると、興味深いことがわかります。

過去12カ月に60%の人がヴァカンスに出かけました。しかし、高所得者は86%がヴァカンスに出かけたのに対し、低所得者は40%にすぎません。車を持っていない人も43%しかヴァカンスに行っていません。様々な手段はとられていますが、ヴァカンスに「不平等」が存在しています。

ヴァカンスで重視することは、49%の人が「地方の生活」と答えています。ここ10年間で最も多い理由になっていますが、10年前より10%減少しています。それに対して、「お祭りや文化的な活気」と答える人の割合は10年前の11%から20%に増えています。3番目に多かった答えは「宿泊」の19%です。

それでは、ヴァカンスではどこに宿泊しているのでしょうか。同じ調査機関の別の調査によると、71%が非商業的施設に宿泊し、商業施設に宿泊しているのは29%にすぎません(2012年)。非商業的施設では、家族または友人のセカンドハウスが59.2%(全体に対する割合。以下同じ)で、48%が家族のセカンドハウスですから、約半数は家族のセカンドハウスでヴァカンスをすごしています。あまりお金をかけないようにしています。

商業的施設の宿泊は29%で、ホテルは10%にすぎません。ここ10年で商業的施設への宿泊の割合は減少しています(33.7%→29%)。

なお、少し古い数字ですが、2004年の調査によりますと、海外でヴァカンスをすごしているフランス人は19%にすぎません。この傾向は現在でも変わりません。フランス人は、海外よりも国内でヴァカンスをすごしています。

侵食される私的な時間と労働法典改正

お休みの日は、仕事から離れて、ゆっくりしたいものです。でも、上司から仕事のメールが来たらどうしますか? メールが来たことを知れば、開いて読んでしまうのではないでしょうか。そして、お休み気分は吹き飛んでしまいます。デジタルツールは便利ですが、仕事が私的な時間を侵食するツールにもなりえます。

フランスでも、デジタル化によって私的生活と職業生活の境目が流動化していることが問題となり、「つながらない権利」に関する報告書が多数出されました。そのなかで、2015年の「デジタル化と労働生活」というタイトルの報告書(前労働関係大臣より委託)は、2016年の労働法典改正に大きな影響を与えました。

同報告書は、いくつかの企業では既に「つながらない権利」に関する労使協定を結んでいること、そして、幹部社員の72%がデジタルツールによる連絡の規制を全く受けておらず、3分の1以上が「つながらない権利」を保障されていないと感じていることを述べています。そして、職業上の「つながらない権利」を創設し、何よりも労働者の生活の枠組みを守るために、企業レベルの労使交渉により、その権利を浸透させていくことを強く提言しました。

「つながらない権利」と団体交渉

フランス労働法典は、2016年法改正により、「つながらない権利」に関する企業レベルの団体交渉を、労働者50人以上の使用者に義務づけました(2017年1月1日から施行)。企業レベルの毎年行う団体交渉では、使用者は、「労働生活の質」を保つ事項の交渉をしなければなりません。その事項のひとつが、「つながらない権利」です。

「個人や家族の生活を守り、休息や休暇の時間を尊重するために、つながらない権利を労働者が完全に行使する方法及びデジタルツールの利用を規制する企業による措置」を話し合うことが使用者に義務づけられました。団体交渉の結果、労使協定の締結にいたらない場合には、使用者は「つながらない権利」の行使方法を定める憲章を策定しなければなりません。

労働法典には、「つながらない権利」の定義はありません。代表的労働組合のひとつであるフランス民主労働総同盟(CFDT)は、組合幹部のために、「つながらない権利の交渉ガイド」を作成しています。C F D T は、1995年に既に「1人になる権利及び中断の権利」を交渉する必要性を認識していました。そのガイドは、「つながらない権利」を、「労働者が常時、特に労働者の休息及び休暇の間、デジタルツールにつながっていないことができること」と定義しています。そして、使用者の責任として、労働者の健康と安全を守るために、つながらない権利と義務の履行の枠組みを定めなければならないとしています。労使協定の例として、労働者がつながることができる時間帯を明確にし、最低限の休息時間を守らせるものでなければならないとしています。

「つながらない権利」によって、フランスのヴァカンスは守られるのでしょうか? 注目したいと思います。

〈参考文献〉
大村敦志『フランスの社交と法』有斐閣、2002年
鈴木宏昌「フランスのバカンスと年次有給休暇」日本労働研究雑誌625号、2012年
石井昭夫「フランス観光政策小史」ホスピタリティ・マネジメント3巻1号、2012年

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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