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【特集:日本の宇宙戦略を問う】
座談会: ❝人類のフロンティア❞をどう切り開いていくか

2019/03/05

新しい世代による宇宙産業創出を

青木 宇宙は様々な問題があると言いながらも、話していて夢があって楽しいですよね。

石田 これからの宇宙産業は新しく参入される方はもちろん、今までこの産業をリードしてきた方にとっても可能性のある産業だと思います。

アメリカはNASA、安全保障、新たなビリオネアという結集軸があり、そこに皆が集まる、ある種分かりやすいコミュニティーだと思いますが、日本の場合、政府も民間も、大手企業も中小企業も、アザー・スペースのような方々もいたり、すごく多様性があるような気がします。

これはヨーロッパにもアメリカにも中国にもない形なので、これからつくっていく楽しさはすごくありますよね。そして、それができた先には世界中のどこにもない、日本ならではの新しい宇宙産業コミュニティーができると思うのです。

青木 面白がって何かをやるという、日本が得意なところですよね。

髙田 2008年の宇宙基本法に沿い、宇宙基本計画をつくる中で文部科学省、経済産業省、総務省などの役所が何をやっているかが互いに見えるようになりました。その中での連携では、例えば文部科学省の衛星に防衛省の試験センサーを搭載するようなことをやっていこうとか、予算の制約の中で、より効率的な利用という方向に進んできました。

今後はさらに、政府や関係企業ばかりでなく、若い人、あるいは今まで宇宙に関係なかった人も含めて、日本全体としての総力をこのフロンティアである宇宙に結集し、どう日本の強みを伸ばしていくかが、すごく大事なのではないかと思います。まさに今、いろいろな方が入ってきて、それが力になっています。

石田 日本の宇宙起業家の方は、1979年前後生まれが多いのです。ガンダムが1979年生まれらしい(笑)。とにかく40歳前後の起業家の方がなぜか日本の宇宙業界にすごく多い。

青木 人工流れ星のエール(ALE)の方もその世代でしたね。

石田 そうなのです。僕は自動車産業や機械・電機産業などいろいろな産業のコンサルティングをやってきましたが、これらの産業は雇用という意味でも、税収という意味でも、日本のプレゼンスという意味でも、日本を支えてきた産業です。2世代、3世代前の方々が戦後の復興の中でつくってきた産業を世代を超えて継承して、維持していているわけです。

しかし、私自身はどこかで自分の世代だからこその産業をつくりたいという思いがあります。宇宙というのはこれまでの市場構造や業界構造が大きく変わる転換点にあるとも言えます。上手く行けば今の時代だからこそできる新しい産業になるかもしれない。

宇宙産業は宇宙安全保障や科学や産業などいろいろな顔を持っているがゆえに、雇用だけではなく、経済や社会への貢献、国際社会でのプレゼンスなどが期待される産業だと思います。漠然とそのような期待を感じている人も多いのではないでしょうか。

神武 そうですね。1つ付け加えれば慶應の卒業生の宇宙飛行士、星出彰彦さんは、2020年に日本人2人目の国際宇宙ステーションの船長になることが決まっています。

今、多くの国民が、オリンピック・パラリンピックに向けて前向きな気持ちになっていますが、その次のことを考えると、まさに宇宙というのは皆が共感してチャレンジしやすい領域なのではないかという気がします。

2020年、地上で日本代表がオリンピックで頑張っているときに、日本代表の1人である星出さんが宇宙で頑張っている。選手だけが頑張ってもアスリートは勝てるわけではなく、そのためにコーチやファンがいて、家族や友達がいる。宇宙ステーションの場合も宇宙飛行士だけでなく、フライトディレクターやエンジニア、家族、友達がいて上手くいっている。そこがあまり知られていないので、このタイミングでスポーツと共に宇宙開発が知られ、国民の生活に浸透していけばと思っています。

これから人工衛星によって得られた様々なデータをいろいろな形で誰もが使える時代になっていきます。今までは他人事だったことが自分事に変わることで、プレイヤーが爆発的に増えますので、そこから生まれたアイデアやチームを、国や企業や大学が後押しする仕組みやムーブメントをつくっていくことが未来につながると思います。

河井 具体的な国民の夢と希望ということで言えば、やはり月面に日本人宇宙飛行士を送るというのが、私は一番分かりやすいことだと思いますね。もちろんお金はかかりますが。

私は宇宙に行く最初の国会議員になりたいと、20数年間ずっと言っているのです。だんだん年取って難しくなってきていますけれどね(笑)。

青木 是非実現なさってください。

地球温暖化に伴い災害も多発していますが、宇宙からのデータ・情報を用いての災害軽減や環境保護など地球全体の問題を解決していくことに、これまでも日本は貢献してきました。今後も官民の力を結集し、地球全体の広い意味での安全保障に貢献するために日本の宇宙開発利用がますます発展することを願ってやみません。今日は長時間どうも有り難うございました。

(2019年1月24日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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