【特集:日本の宇宙戦略を問う】
宇宙ビジネスと企業法務
2019/03/05
文系でも宇宙について勉強したい。大学案内で見つけた「宇宙法」の文字に惹かれ、慶應義塾大学総合政策学部に入学した。学生時代は青木節子教授に指導を仰ぎ、卒業後は宇宙ビジネスを行う企業にて約10年間企業法務に携わっている。本稿では、目まぐるしく変わる宇宙ビジネスとそれにまつわる法律及び法的問題についてご紹介できればと思う。
意外と身近な宇宙ビジネス
宇宙ビジネスというと、どんなイメージを抱かれるだろうか。やはり宇宙旅行だろうか。宇宙旅行も数年後には現実のものになりそうな状況にあるが、今日でも宇宙を使ったビジネスは意外と身近なところにある。たとえば衛星放送。その名の通り宇宙にある衛星を使った放送で、BS放送やスカパー! サービスと聞くと馴染みのある方がいらっしゃるのではないだろうか。また飛行機のなかでもインターネットを使うことができるようになっているが、これも衛星を介した通信サービスによって実現されている。さらに最近は人工的に流れ星をつくるベンチャー企業も見られ、エンターテインメントを提供する場として宇宙を利用しようとする企業も出てきている。
日本における電気通信事業もかつては国有事業として行われていたが、鉄道等の他事業における民営化と同じように1980年代に自由化され、新規参入が可能になった。当社スカパーJSATもその自由化に伴って電気通信事業に参入し、現在では17機の衛星を保有することで衛星通信サービスを提供している。衛星通信サービスは地上回線を利用した通信サービスに比べて地上災害の影響を受けにくく、安定したサービス提供が可能である。このようなメリットを生かし、安心・安全な社会の実現に貢献している。
宇宙ビジネス市場
世界の宇宙ビジネスの市場規模は約30兆円と言われ、2009年から2016年の年平均成長率は約5%とも言われている。市場規模の拡大に伴い新しいビジネスが生まれているが、現状行われている宇宙ビジネスの大部分は衛星を使って通信をしたり、地球の画像を撮影したり、位置を特定することによって実現されている。そこで、これらのビジネスに共通して必要となる衛星の調達、打上げ、運用について概要をみていくことにしたい。
まずは衛星の調達である。世界には複数の衛星メーカーと呼ばれる企業があり、それらのメーカーから衛星を購入することになる。日本のメーカーとしては三菱電機などがある。次に衛星を希望する宇宙空間の場所に配置するためのロケットの調達が必要になる。世界にはロケットを製造し、衛星の打上げサービスを提供している事業者がいくつかある。日本でいえばH-ⅡAロケットを使ったサービスを提供している三菱重工がある(その他打上げサービス事業に参入しようとしている日本のベンチャー企業も複数存在する)。
衛星メーカーから衛星が納品されて、ロケットサービスを利用して無事に希望する宇宙空間に衛星を置くことができたら、衛星の運用がはじまる。衛星の運用を簡単に言えば、①衛星の健康状態をチェックすること、②衛星を正しい位置に維持することである。当社の衛星は地上から約3万6000km上空の宇宙空間に配置されている(飛行機が飛んでいる高度は約10kmで、地球から月までの距離は約38万kmである)。衛星は一度打上げてしまうと宇宙空間までいって壊れた箇所を修理することは現状の技術では困難なので、常に衛星の健康状態をチェックして、壊れないように必要な対策を事前に取ることが重要である。また宇宙空間は無重力と言われるが、少しずつ太陽や月の重力の影響を受けて、衛星は当初の位置から動いてしまうものである。衛星が一定の場所にないと、通信をするうえで不都合が生じるため、「スラスタ」と呼ばれる衛星に搭載された小さなエンジンで燃料を少しずつ噴射して、衛星を正しい位置に置いておくことが必要になる。
このように調達・運用する衛星をどのように応用するか、それによって多様な宇宙ビジネスが生まれているのである。
2019年3月号
【特集:日本の宇宙戦略を問う】
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渡邉 亜希子(わたなべ あきこ)
スカパーJ S A T株式会社法務部・塾員