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【特集:日本の宇宙戦略を問う】
座談会: ❝人類のフロンティア❞をどう切り開いていくか

2019/03/05

日本の宇宙産業の可能性

青木 世界的には一企業が射場も持ち、小型ロケットもつくるという例もありますね。例えばアメリカのロケット・ラボ社はニュージーランドのマヒア半島に自社の射場を保有し、72時間に1回打ち上げをする許可をニュージーランド政府から得ている。

ビジネスとしては、自らがロケットや衛星をつくり運用するだけではなく、軌道を利用する様々な活動のビジネスプランを提唱し、周波数や活動許可の取得に向けて法的援助も行うという宇宙事業サービスなども増えているように感じます。

今、2024年以降の国際宇宙ステーションの商業化、民営化の話もありますし、小型の宇宙ステーション、オーロラステーションをつくり宇宙旅行者を滞在させるということを考えているアメリカの企業もあります。ビジネスとして日本が希望の持てる分野はありますか。

石田 宇宙ビジネスは6つのセグメントがあると捉えています。1つがいわゆる打ち上げ。そして衛星をつくるビジネス。それを地上で利活用するようなビジネス。軌道上でいろいろなものをつくったり、科学実験をするサービス。宇宙旅行や滞在など人に関わるビジネス。最後に深宇宙探査や開発です。僕は日本はそのすべてに可能性があると思っています。

日本で新たな宇宙ビジネスを始めようとしている企業は約30社です。アメリカには1000社ぐらい、中国にも80〜100社あると言われています。背景にある産業規模の違いもあり、アメリカや中国と比較すると少ないですが、それぞれのセグメントで世界的に見てもユニークな企業が多いのが日本の大きな特徴ではないかと思います。

ものづくりでは小型系のものは様々な分野で強いです。世界最小のローバー(探査車)をつくったのも日本企業ですし、超小型衛星や小型ロケットをつくる日本企業も存在しています。日本のものづくり企業を支えているのは、いわゆる下町工場の方々の巧みな技術であることが多く、他産業で培われた技術力や基盤が日本の強みです。

また、実は、過去10年間で新たな宇宙ビジネスに投資した投資家の数は、1位がアメリカで2位は日本なのです。特に過去4、5年で投資した企業は日本で70社ぐらいありますが、最も数が多いのは宇宙と関係ない企業による投資です。例えばエアライン、商社、エレクトロニクスメーカー、自動車メーカーなど一部上場企業でこれまでは宇宙に携わってこなかった企業です。

しかも、そういった企業は、地上の産業で使われている要素技術、生産技術、オペレーションのノウハウ、サービスなどを持っていて、投資するだけではなく、そういった資産を宇宙分野に投入することで、いろいろな新しいサービスを生む可能性があります。これは、他の国にはない大きな特徴で、これから日本の宇宙産業が非常に強くなる可能性があるのではないかと思います。

青木 日本の新興宇宙企業は、結構資金面で恵まれている部分もありますね。例えば、ispace社などを見ていても、夢や可能性に投資しようとする投資者が多いです。

河井 私が宇宙基本法の草案を書いたのが2006年ですが、1996年の衆議院初当選からの10年間は、宇宙関係の人は皆、おじさんだったんです。今は石田さんもそうですが、若い人が本当に増えて、話を聞いていて楽しくてしょうがない。それまでは伝統的な重厚長大の大企業の人たちが多かった。いわば「オールド・スペース」です(笑)。

今、私が意識的に交流を持とうとしているのは、いわゆる「ニュー・スペース」の人たちです。それも1人、あるいは数人で立ち上げる宇宙ベンチャーです。欧米の教育機関を卒業していて、語学もできるし、大変優秀で有能な人が宇宙分野に入ってきてくれています。HAKUTOもそうですし、サブオービタル(準軌道)を使って、アメリカとアジアを結ぶ、日本で宇宙港をつくろうという動きもありますね。

その人たちは優秀だから、別に宇宙の仕事をしなくてもいいにも拘らず、また、宇宙の新しい仕事に挑む危険性があるにも拘らず、どんどんこの分野に入ってきてくれています。

強いて分類すれば、石田さんがおっしゃったのは3番目のカテゴリー「アザー・スペース」でしょうか。日本を代表するような大企業が異業種から入っています。今、「オールド・スペース」と「ニュー・スペース」と「アザー・スペース」がお互いに協力し合いながら、新しい日本の宇宙産業文化をつくりつつあるのではないかと期待しています。

多様な人材育成の必要性

青木 そういう中、やはり人材育成は大事ですね。

神武 私が所属している大学院は10年前に開設したシステムデザイン・マネジメント(SDM)研究科ですが、宇宙業界から多くの方が入学され、修了生が就職していて、例えばH3ロケットのプロマネや気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)のプロマネはSDM研究科で博士号を取得された方です。

最近の流れでおもしろいのは、アザー・スペースの方が宇宙業界に参入したい、と入学されることです。宇宙に関する知識は少ないけれど、自分たちが考えてきたものがどう宇宙業界にフィットするかを考えられています。10年前と違い、今は自分たちでつくった人工衛星をロケットで打ち上げるとか、宇宙データを使って何かやるということが、大学でもすぐにできるのです。

宇宙技術の良いところは、人工衛星は国境を越えて活用できるので、日本で上手くいったことは比較的すぐに海外展開できるところです。そこで、私の研究室では、東南アジア各国の政府や企業と共に農業や都市開発、金融に関するサービスの研究開発や事業化を進めています。10以上のプロジェクトが進行していて、様々な国籍の学生と月に2回程度海外出張しています。

人が育たなければ産業が育たず、産業が育たなければ人も育たないので、仕組みを強化し、人材育成と産業創出を両輪でダイナミックに進めようと思っています。

青木 神武さんの研究室の修了生でスペースデブリ除去をやっていらした方や、自衛官の方で宇宙状況把握(SSA)の民生利用と安全保障利用の最適解を追求していらっしゃる方がいますね。

神武 前者は日本の宇宙ステーションのロボットアームの母と呼ばれることもある大塚聡子さんで、日本電気で宇宙ロボットの利活用を研究されています。大塚さんはスペースデブリ除去のために、技術だけでなく、国際ルールやビジネスの考え方を取り入れた研究をし、博士号を授与されました。

後者は防衛省航空自衛隊の大谷康雄さんですが、大谷さんはこれから日本が本格的に運用する予定のSSAについて、限られたリソースの中で、デュアルユースを適切に行うためのシステムデザインの研究をしており、近々、博士号を授与される予定です。

アザー・スペースの方と共に、ニュー・スペース、オールド・スペースも成長しつつ、三者ともに元気になっていくという相互補完的な関係を促すことも含めて、研究・教育はとても重要だと思います。

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