【特集:日本の宇宙戦略を問う】
座談会: ❝人類のフロンティア❞をどう切り開いていくか
2019/03/05
宇宙探査の可能性
青木 宇宙探査については、日本はもちろん2024年までは国際宇宙ステーションの運用に関わっていますし、それ以外の有人・無人の様々な探査の計画もあるかと思います。この先、どのように進んでいくのでしょうか。
髙田 宇宙探査の中で事業規模的にも分けて考えたほうがいいのは、1つは国際宇宙ステーションです。これはやはり多額の費用がかかっていますし、今、まさにここに宇宙飛行士が行っています。
もう1つは、米国が掲げている「ゲートウェイ構想(月軌道プラットフォーム‐ゲートウェイ(LOP-G))」です。これは、昨年の3月に国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が東京で開かれた頃からアメリカが提案し始めたものです。これは地球の軌道ではなく月の軌道上にモジュールをつくっていく、国際宇宙ステーションの6分の1ぐらいのものをイメージしているわけですが、これを国際協力でやっていこうということです。
そして、米国はその延長線上で、再び「アメリカ人宇宙飛行士を月に」と考えています。国際協力している日本人も月に着陸する可能性があるかもしれません。アメリカはそれに当たってのモジュールを2026年に完成させたいと考えており、多国間で協議中です。
河井 このトランプ政権の「ゲートウェイ構想」、そしてその先に広がる火星への有人宇宙飛行はぜひ日本も積極的に関わって実現したいですね。
まず国際宇宙ステーションの後の枠組みをどうするかという課題があります。現状では日、米、ロシア、ヨーロッパ宇宙機関、カナダでやっているわけですが、それに、インドやオーストラリアなどの有志連合にもぜひ加わってもらいたい。でも、何と言ってもアメリカが世界最大の宇宙大国ですから、彼らが責任感と義務感を持って主導してもらわないと物事は進んでいかないでしょう。日本はそれを促す重要な役割を担っています。
日本では、「ゲートウェイ構想」のことを「月近傍有人拠点」と言っていますが、日本企業の得意分野の1つが水です。もう1つは輸送、それとローバーですかね。「オールド」、「ニュー」、「アザー」を全部含めて、日本の民間企業の参画推進が私は絶対に重要だろうと考えています。そして将来的には、ぜひ日本人の宇宙飛行士が月に着陸する。そしていつの日か、火星に行く宇宙飛行士の胸に、日の丸が輝いていることが私の夢です。
先だって中国が、米国も到達したことがない月の裏側に初めて着陸しました。実際にどういう活動を行ったのか分かりませんが、明らかに彼らは長期的な計画の中で月の探査、深宇宙の探査に取り組んでいますから、日本もしっかり行っていくべきだと思いますね。
しかし、有人活動をするにはリスクはもちろん、お金がかかる。年間予算が3千億円では十分ではないですね。宇宙関係の人と話していていつも言われるのが、国の宇宙予算をもっと増やしてほしいということです。
仮に年間1兆円ぐらい宇宙関係の国家予算を用意するとして、その財源をどこに求めるかです。特定財源を含めて、もっと思い切って国の資源を宇宙開発と利用に投じるべきだと私は考えています。
民間による宇宙探査
石田 僕は探査には3つあるように思います。1つは科学探査です。これはどちらかというと国が中心となって進めていくものだと思います。
もう1つは国のプレゼンスやそれに関連する安全保障なども含めた探査的な活動です。それこそ中国がなぜこのタイミングで月の裏側へ行くのか。それは、まさに国威発揚であったり、プレゼンスであったり、ひょっとしたら月に眠る資源に対する権益などを含めてなのかもしれません。これも国が主導でやることだと思います。
3つ目として民間主体で始まっているのは、もはや探査という言葉ではなく、多くの人が宇宙へ行く時代をつくり、人類の文明を宇宙に広げましょうという活動かと思います。そういう方々の興味は「多くの人が宇宙に行ける時代をつくりたい」ということが根源にあると思います。
その理由は純粋に行きたいという探究心もあると思いますし、地球環境問題として人類のエネルギー消費量がどんどん増えていく中で、宇宙に出ていくことによって、地球環境をよりよくする、人類の持続可能性を高めるという課題解決型の考えもあります。
最大の挑戦は輸送系です。2019年の宇宙イベントで1番大きなマイルストーンは、スペースXとボーイングが宇宙飛行士を宇宙ステーションに運べるかどうかだと思います。これは民間企業がサブオービタルを超えて、オービタルまで人を運んでいけるのかどうかの大きな実証だと思います。輸送系以外にも、人々が宇宙空間で暮らすための拠点やインフラづくり、衣食住などの環境づくり、各種ロボット技術などが求められますし、日本が世界に貢献できることは多々あると思います。
神武 宇宙予算を1兆円にしようという話はそう簡単にはいかないわけですが、そうするためには国民が共感を得るムーブメントをつくることが重要です。ロケットを一生懸命つくった先に何があるか、宇宙ステーションで何をしているのか、というところに共感を得られないと、なかなかそういうムーブメントは起きないと思います。
ロケット技術がある程度確立され、選択肢も増えてきた中で、宇宙に行ってからどうするかという部分にもっと投資して、行った先の価値をつくっていくことも重要でしょう。
そして、そこを日本がやれる準備が整っているというような、ゴールを示し、関係する方々から理解を得て、投資を促すアプローチもある気がします。
2019年3月号
【特集:日本の宇宙戦略を問う】
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