三田評論ONLINE

【特集:防災とコミュニケーション】
座談会:自然災害に備える"ことば"のちから

2024/12/04

学校での防災の課題

大木 さて、様々話してきましたが、この先風水害については頻発化し、激甚化していく方向になるかと思います。地震は南海トラフ地震についてはもちろん、その時が近づいていますが、首都直下地震が先にくるかもしれません。

それだけではなく、日本全国どこでもマグニチュード7程度の直下型タイプの地震は起こりうるわけで、課題や対策をお1人ずつ伺いたいと思います。

齋藤 学校は生徒の命を守ることが第一ですので、そのための備えをしていく必要があります。生徒のいる場所別に整理してみると、大きく3つに分かれます。1つは学校管理下の時。次に、家庭に戻っている時。それから、もう1つが通学中ということになります。

学校管理下ということで言うと、今回、大木さんに監修いただいた避難訓練をよりリアルなものに近づけていくことが必要です。当然、生徒たちを大地震の後に勝手に帰すわけにいかないので留置きが必要になり、備蓄の体制もより一層充実させていく必要があります。

そして、保護者の方の迎えをどうするかが非常に大きな問題です。全校生徒は648人いるのですが、その生徒分の車を一度に収容することは到底不可能です。去年の6月初旬、豪雨の日があり、宿泊行事から帰ってきた3年生全員を対象に、開校以来、初めて車での迎えを許可しましたが、1学年分の車の出入りで目一杯でした。

次の家庭に戻っている時ですが、今年初めて地震発生を想定して、安否確認のメールを発信し、各家庭から返信していただく訓練をやってみました。すると、こちらが発信してから約3時間以内に76%の家庭から返信を受けました。ただ、未回答のままだった家庭もあります。これを毎年繰り返しながら、災害が起きた時にはこのように学校から連絡するので、皆さんに素早く反応していただくということが周知できればと思っています。

最後に通学時です。3・11の時、私は幼稚舎に勤務していましたが、低学年生はちょうど下校途中でした。地震が発生して幼稚舎に戻った生徒もいれば、家に帰った生徒もいますが、途中で一般の方に保護された生徒もいて、安否の確認が夜中までかかりました。これは先ほど大木さんがおっしゃったように、電車通学が多い、私立小学校の大きな問題です。通学中に生徒が災害に見舞われた場合、学校にも家庭にも簡単には戻れない可能性があります。学校は、この問題にどう対応していったらいいのか、考えていかなければいけないと思っています。

少子高齢化というリスクへの対応

大木 では岡田さんお願いします。

岡田 まず、私どもの地域は少子高齢化が進んでいるので、自主防災組織が超高齢化していて、地域の自主防災力が弱ってきているという現状に直面しています。

その中で、どう対応していくかということですが、時間帯によって考えられるリスクとして、学校がある時間は保護者の方たちは仕事に行っていて、地域にはお年寄りしかいないことが多い。その時、地域をどうやって守っていくべきか。能登半島地震でも同じような課題があったと聞いていますが、高齢者ばかりの地域にどう連絡を取っていくかという課題があります。

その一方、うちの地域は中学校も1校で、しばらくすると小学校も1校になる可能性が高く、子どもたちが街中に集約してくる。その子どもたちが避難所となる小学校、中学校でどう力を発揮できるか。災害発生時の働き手として活動できるための知識や取り組みが必要ではないかと思います。

そのためには、やはり防災教育を充実させて、自分たちでできる力を、それぞれの生徒に身に付けてもらうのが私たちの役目だと思っています。またぜひ、大木さんに力を貸していただければと思います。

大木 少子高齢化は土佐清水市だけではなくて、遅かれ早かれ日本のすべての地域が抱える問題となるので、参考になる先進的な取り組みを土佐清水から生み出したいですね。

皆で考え、実践する防災へ

矢島 今後に向けてという視点で2点お話しします。まず1点目ですが、私はアナウンサーとして、いつもマイクの前で伝えていますが、同じように自治体にも学校にも放送室があり、住民に向けた防災無線や、学校放送をする立場の方が必ずいらっしゃいます。その方たちがどういう呼びかけをしているか、とても関心があります。例えば学校の近くで大雨が降った時に、どんな言葉を使って呼びかけているのか。共通の悩みもあるかもしれませんね。

2点目ですが、テレビ局も自治体も学校も防災訓練をします。ただ、その訓練は内輪で完結してしまっていると思います。しかし、地震も津波も水害も、大きな災害が起きた時の被災状況は、どの業種どの立場でも同じはずです。そこで、業種を超えた合同訓練をしてみるというのはいかがでしょうか?

まず、地震発生時刻や被害想定などの統一シナリオを作ります。そして、いざ地震が発生したという設定の中で、テレビ局はどんな報道を始めるのか、土佐清水市はどう対応するのか、また学校現場ではどんな判断を下すのかなどを、一緒に検証するのです。異業種が同じシナリオで合同訓練をすれば、リアルなものになりますし、質を高めることもできます。私も、災害時のテレビ報道が被災地でどのように見られているのかを、訓練の場で検証してみたいと思います。ぜひ合同訓練をしませんか? もちろん、プロデューサーは大木さんでお願いします(笑)。

大木 いいですね。いつも小学校と中学校が別の日に訓練をやっている。地震は同じ日に起きるのに、なぜ別の日なのかと思っていました。お兄ちゃんと弟のどちらを先に迎えに行くかなどを考えなければいけないはずです。

この前、医療従事者の訓練を見学させていただいたのですが、それは丸2日間、リアルに時間を合わせて、首都圏にある医療従事者が同じシナリオで同時にやっていました。神奈川県庁に岩手県と群馬県と静岡県のDMATの人たちが詰めていて、「透析の患者をそちらに受け入れできますか」というようなやりとりをしていました。このようなことを業種を超えてできるといいですね。

宮本さんはいかがでしょうか。

宮本 今日は勉強させていただくことばかりで、これからできそうなことがたくさん考えられました。

印象深かったのは、たぶん皆さんが必要とされている気象情報は、われわれが思うものと少し違うのかなということです。やはり共通情報の他に、それぞれに最適な情報、仕事場で必要とする情報があるはずです。そのデータは気象庁がある程度作ってくれているので、その間の部分を担える人がいたら、もう少しスムーズにいろいろなことが進められるのではないかなと思いました。今後、何か貢献できればと思っています。

大木 地震学もそうですが、やはり他大学のように理学部の中にある気象学・地震学ではなくて、社会に目を向ける学問としての気象学・地震学であることはとてもSFCらしいですよね。福澤先生が志された実学(サイヤンス)とはそういうことなのかなとも思います。

本日は皆様、大変有意義なお話を有り難うございました。

(2024年10月23日、オンラインにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事