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【特集:防災とコミュニケーション】
座談会:自然災害に備える"ことば"のちから

2024/12/04

風水害の危険への呼びかけ

大木 危機をどう伝えるか、だいぶ踏み込んで話していただきました。もし補足があったらお願いします。

矢島 風水害の呼びかけで気を付けていることは「過去」「現在」「未来」と「3階建て」にして伝えることです。

例えば土砂崩れや氾濫に対しては、まず「過去」から伝えます。過去24時間の降水量や土壌雨量指数、流域雨量指数などを伝えて、これまでに降った雨で崩れそうになっている、溢れそうになっていることを説明します。また、降り始めからの雨量が「平年1カ月分の何倍に達しているか」というたとえを使い、これまでに降った大雨による危険度を伝えます。

次に「現在」を伝えます。例えば情報カメラのLIVE映像を映して、「こちらは、現在の◯◯市です。激しく雨が降っています」と実況します。また、雨雲レーダーを見せて「1時間に80ミリ以上の猛烈な雨が降っているようです」と説明します。これで、「過去」と「現在」の2階建てになります。つまり、先行雨量の多さに加え、現在も降り続いているという事実を重ねれば、事態の深刻さが伝わります。

さらに、この2階の上に「未来」という3階部分を乗せます。例えば、「この後、明日正午までの24時間で200ミリ、その先24時間でまた300ミリ降ると予想されています」という、今後の予報を加えるのです。

こうして、過去、現在、未来と、時間を追うごとに危険度が増すということを強調できれば、今すぐ逃げなければならない理由を理解してもらえます。

一方、能登半島地震以来、アナウンサーの命令口調の呼びかけを評価する風潮がありますが、私は違うと思います。命令口調の文章は、強い言葉に聞こえるかもしれませんが、事前に書いた想定原稿に過ぎないので、実際の危険度を表していません。それよりも、映像や数字を使って実際の危機感を伝えることが、本物の呼びかけだと思います。

宮本 矢島さんのお話は説得力があると感心して聞いていました。過去、現在と情報を整理して大きなメディアの方々がニュースを流してくれたら「ああ、こういう感じなのか」と視聴者も把握でき、この先どれだけまずいかが想像ができると思います。そこに降水量などの未来予測が加わるとさらに危機感を伝えられると思います。

研究者としては、未来予測情報を重視するイメージがあったのですが、やはりこれまで起きた、過去がどれだけまずい状況なのか、精緻かつわかりやすい形で示すことも同じくらい大切なことだなと感じました。

齋藤 子どもの命を守る側としては、やはり未来予測はすごく大事で、風水害に関して言えば、短期集中豪雨が多少なりとも予測可能になったのはすごく有り難いことです。十数年前だと予測精度のレベルが低い上に、情報がこちらまで伝わってこなくて、対処できなかったと思います。

精度の問題は改善の余地があるにしても、「この先、まずいぞ」という情報が多少なりとも届くようになっているので、それに応じて生徒を帰すかどうかを判断する場面が今年も何度か起きています。下校時刻を過ぎても、しばらく生徒を止めるといった判断ができるのは、未来予測の精度向上と、情報発信いただいている皆さんのお蔭です。

宮本 気象情報を役立てていただいて大変うれしく思います。もう少しこうなってくれたら、というものは、何かありますか。

齋藤 降雨の時間予測でしょうか。例えば画面上で豪雨が迫ってきていると、直撃する前に生徒を下校させようと思うのですが、もう1回データを見るとその表示が変わっているというようなことは起きがちです。難しいとは思いますが、分刻みでの通過予測の精度がさらに上がるといいなと思います。

あともう1つ、風が強いと小学生の場合、結構大変なことになるので、雨と同様に時間帯によって風がどれぐらい強く吹くのかがわかるといいですね。

高齢者に危機をどう伝えるか

大木 岡田さん、行政の立場からはどうですか。

岡田 少子高齢化が進んでいる田舎の現状を話しますと、お年寄りが得ることができる情報の少なさが問題です。例えばスマホをお持ちでない方も多い。その中で防災行政無線で判断してもらいますが、実際、お年寄りが得るのはテレビの情報が多いです。しかもテレビで流れる九州の情報を今、土佐清水市で起こっていると勘違いされたりする。このように世代によって情報の格差が生まれる状況が発生しています。

高齢者にどう伝えていくのかという部分が鍵になってくると思います。

大木 矢島さん、テレビは高齢者のことは意識されていると思うのですが。

矢島 確かに、災害に弱い皆さんに、真っ先に避難してもらうということは最重要なのですが、十分には放送できていない現状があります。大雨警戒レベル4の避難指示の1つ下に高齢者等避難(レベル3)があります。それが大事だとはわかっているのですが、最も切迫度の高い緊急安全確保(レベル5)のようには、大きく放送で扱えていません。その一方、データ放送では、お住まいの自治体に出されている避難情報を表示しているので、高齢者等避難が出ていることも確認できます。

大木 レベル3だと、少なくともL字の画面とかにはならないわけですね。

矢島 はい。他局さんの対応はわかりませんが、L字は大規模な災害になった時に表示しています。地上波で高齢者等避難を的確に伝えていくことは、今後の防災報道の課題の1つです。

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