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【特集:防災とコミュニケーション】
宮川 祥子:令和6年能登半島地震から学ぶ災害時の情報課題

2024/12/04

  • 宮川 祥子(みやがわ しょうこ )

    慶應義塾大学看護医療学部准教授、一般社団法人情報支援レスキュー隊(IT DART)代表理事

令和6年能登半島地震および9月の水害で被災された皆様への心からのお見舞いを申し上げます。

地震発生後の民間支援団体の活動状況

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、石川県輪島市、珠洲市、能登町、穴水町、七尾市、志賀町を中心に最大震度7の揺れと津波、火災による大規模な家屋被害、道路やインフラ寸断、上下水道の長期にわたる断絶が発生した。被災地域の避難所や在宅での生活は困難を極め、特に「災害時要援護者」となる妊産婦・乳幼児・高齢者・障害者など特別な支援を必要とする人たちの健康が危険にさらされた。この対応として、被災自治体、石川県、国による救援活動に加えて、多くの民間支援が実施された。

当初、脆弱なルートをレスキュー優先で使用するという観点から、ボランティアの参加を控える呼びかけがなされたが、民間支援団体のいくつかは安全確保をしながら早期から能登半島北部に入り、医療支援、物資・食糧支援、移送支援などの救援活動を行った。このような支援団体は、一般の個人ボランティアとは異なり、多くの経験を積んでいる災害支援のプロフェッショナルである。チーム間で被災状況を共有しつつ、後方支援者から情報を得ながら、時には公的な救援活動と連携する形で、また、時には独自の判断での支援を行ってきた。全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)の集計によれば、2024年7月末までに現地で活動を展開した民間支援団体は少なくとも324にのぼる。支援内容は、避難所の運営支援、炊き出しやセントラルキッチンからの配食等の食事支援、子供・高齢者・外国人など特別な支援を必要とする被災者への対応、ペットを連れた避難の支援、被災家屋からの貴重品の取り出し、災害ごみの廃棄、重機による倒れたブロック塀などの除去、道路の啓開、地域コミュニティ構築など、それぞれの団体の専門性により多岐にわたっている。9月には大規模な水害に見舞われたこともあり、多くの支援が11月現在も継続して実施されている。

情報支援レスキュー隊の支援活動

筆者の参画する情報支援レスキュー隊(IT DART)は、災害発生時に被災地に入って支援を行う団体に対して、IT機材の貸与、ボランティア募集情報の発信、データ収集・入力・データベース構築の支援、その他支援に関する情報システム構築の支援などを行っている。発災直後から機材の整備や現地の活動拠点の確保などを進め、1月7日から金沢市を拠点に活動を開始し、先行して奥能登で活動を開始した団体や避難所などからの支援要請に対応した。

支援開始当初は奥能登への道路が通行制限されており物資の個別輸送は困難であった。この時、金沢市の福祉施設「シェア金沢」や「がんとむきあう会・元ちゃんハウス」などが物資の中継地点として活動しており、我々もこれらの施設を経由することで輪島市や珠洲市に機材を届けることができた。

インターネット通信環境支援

道路・水道・電気だけでなく、基地局の損壊と停電により電話やインターネット通信も大きな被害を受け、通信の途絶は長期間にわたった。持ち運びのできる衛星インターネットシステムであるStarlinkがKDDI株式会社から大規模に提供され、被災地の役場、自衛隊やDMATなどのレスキューチーム、避難所などに設置された。IT DARTは被災地に届いたStarlink 機材のセットアップ、簡易マニュアルの作成などを通じて被災地域の通信インフラ確保を支援した。

IT環境支援

避難所には十分なIT環境が整わないことも多い。ITDARTは輪島市内の15箇所の避難所をはじめ、志賀町避難所、能登町福祉避難所、各地の災害ボランティアセンターなどにPC、プリンター、モバイルルータを設置した。また、輪島市、穴水町で避難所の入所者管理のためのデータベース環境構築の支援を行った。

志賀町避難所でIT機器のセットアップを行う筆者(中央)

デジタルサイネージコンテンツ支援

災害復旧・復興に関連するタイムリーな情報は自治体のWebサイトに掲載されるが、スマートフォンを持たない高齢者などはそれらの情報にアクセスしづらい。このため、役場や避難所に、最新の情報が閲覧できるよう紙媒体の掲示板と合わせてデジタルサイネージが導入された。IT DARTは、このデジタルサイネージ向けのコンテンツ支援を行っている。行政Webサイトから最新の情報をピックアップし、デジタルサイネージ向けに加工してインターネット経由でコンテンツ更新を行っている。

ボランティア情報支援

奥能登の各市町、また石川県が募集するボランティア情報をまとめてXで日々発信を行っている。9月の水害による多重被災で未だ多くのボランティアが必要とされていることから、11月現在でもこの活動を継続している。

1.5次避難所での情報マネジメント支援

1月から2月にかけて、家屋・インフラ被害の大きかった奥能登地域から県南、また他県への広域2次避難が行われた。1万人を超える人々が県内・県外のホテルや旅館等へ2次避難を行う中継地点となったのが金沢市などに県が設置した1.5次避難所である。数日間の滞在での通り抜けを想定して設置された避難所であったが、実際にはホテルでの生活が困難な高齢者などの長期滞在者が一定数発生することとなり、保健師、福祉職、リハビリ職、看護師、ソーシャルワーカー等による継続的な健康支援が実施された。IT DARTは日本YMCA同盟とともに1.5次避難所の運営支援を行い、主に入所者のケア情報のマネジメント支援を行った。また、入所者が自宅や仮設住宅に移った後の切れ目のないケア提供のために、紙で管理されていた入所者のケア情報をデジタル化して移動先の自治体に提供する取り組みを県とともに実施している。

このような活動は1団体のみで実施できるものではない。被災地域の行政・社会福祉協議会との連携や支援コーディネートを行う団体であるJVOADの協力、直接支援を行う団体との平時のネットワーキングが被災地域のニーズに合ったタイムリーな支援活動を支えている。

さらに、活動に当たっては、IT DARTのメンバー以外にも様々な方々/組織のご支援を頂いている。特に、山内慶太慶應義塾常任理事、三谷充慶應義塾評議員および三谷忠照君(石川県三田会事務局長)を通じて、石川県に本社を置く三谷産業株式会社の有志の方々が現地での活動に参加してくださった。同じく石川県に本社を置く株式会社PFU、また株式会社NTTドコモ、ソフトバンク株式会社、株式会社インターネットイニシアティブ、一般財団法人移動無線センター、PSCP株式会社、有限会社咲楽屋、その他多くの企業・団体からもIT機材やソフトウェアライセンス、通信機器、情報端末等のご支援を継続していただいている。この場を借りて御礼を申し上げる。

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