三田評論ONLINE

【特集:防災とコミュニケーション】
宮川 祥子:令和6年能登半島地震から学ぶ災害時の情報課題

2024/12/04

「災害時の情報マネジメント」から「生活再建に向けた情報マネジメント」へ

令和6年能登半島地震の災害対応では、ドローンやICカードなどの情報技術を用いた災害対応が試みられる一方で、情報インフラと情報マネジメント、特に広域避難者など避難形態が多様化する中での課題が浮き彫りになった。広域避難者を把握し自治体の災害対応やインフラの復旧状況などをタイムリーに届けることは、被災者と地域のつながりを保ち能登での暮らしを取り戻していくために不可欠な施策である。また、高齢者など支援を必要とする被災者のケアニーズが、1次避難所→1.5次避難所→2次避難所→仮設住宅と居場所を変えていっても次の支援者に引き継がれていくことは、被災者1人1人に合わせた継続的な生活再建支援として国が推進している災害ケースマネジメントの観点からも重要である。「災害対応」という目の前の課題を切り取って解決しようとする情報マネジメントから、被災者目線に立った生活再建を変化する災害のフェーズを通して一貫して支援する情報マネジメントへの転換が求められているのである。

一方で、このような情報マネジメントを現場の努力に任せてしまうと、避難所運営者の負担が増加し実施の濃淡の発生にもつながる。現場の担当者は被災者と支援者双方の安全に注意を払いながら慣れない避難所運営を常に緊張感を持って行っている。このような中で、それが被災者にとって有益であるとわかっていても、情報を引き継ぐ相手との調整や情報のまとめなどを継続して実施することは容易ではない。現場の負担を軽減しながら適切な情報マネジメントを実現するための「しくみ化」が今後の課題となる。

令和6年能登半島地震では、スムーズな広域避難を実現するための1.5次避難所の設置と運営、避難所や在宅の被災高齢者のニーズを把握し適切な支援につなげるための情報収集事業、収集したニーズ情報や県域全体の被災者の状況のデータベース化など、様々な新しい施策が実施された。他方で避難所のIT環境が不十分であったこと、1.5次避難所のケア記録が紙ベースであったこと、また市町と県で被災者データベースの二重化が起きたことなどの課題も生じたが、これらは県、市町、そして民間を含む多様な支援者がより良い情報マネジメントに果敢に取り組んだからこそ明らかになった「未来への宿題」とも言える。広域避難を前提にした情報マネジメント計画、行政と民間支援の協働を前提とした情報共有体制、それを支える情報システムの構築と環境整備には、国としての取り組みが求められる。令和六年能登半島地震での経験を風化させず教訓としていくための課題の振り返りと政策提言が行われるべきであり、筆者も微力ながらそれに取り組んでいく所存である。

最後に、9月に発生した能登半島での水害に関連してコメントしておきたい。大きな地震は地盤の沈下や脆弱化をもたらし、水害や土砂災害リスクを高める。また、十分な土地がない日本において応急仮設住宅の設置場所が災害リスクの高い場所にならざるを得ない場合もある。夏には日本各地で台風や線状降水帯による大雨の被害が多発している。今回のような被害を繰り返さないために、今後復旧に1年以上かかることが見込まれる地震災害では、高い確率で複合災害になるという認識のもと復興計画を立案すべきであろう。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事