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【小特集:東京2020と慶應義塾】
〈東京2020空手競技の運営〉運営を振り返って

2021/12/16

  • 村田 利衛(むらた としえ)

    (一社)三田空手会理事、(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会空手スポーツマネージャー[大会時]

私は東京2020空手競技の責任者を務めました。世界の空手界が待ち望んだ初めてのオリンピックを無事運営することができ、ほっとしています。それも組織委員会で空手チームとして共に働いたメンバー、ボランティアの皆さん、場所を提供くださった日本武道館・東京武道館の方々をはじめご協力をいただいたすべての皆様のおかげであり、あらためて心より御礼申し上げます。

コロナ禍による延期も含めて長い準備期間も、大会が始まってしまえばあっという間でした。運営の現場でまず感じたのは、国際試合も含めて通常の競技団体が運営する大会運営とは比較にならない、何十競技の世界選手権を同時に行うという超巨大プロジェクトの難しさです。「縦割りの組織体制・機能」、「多様な出身母体の組織」、「IOC/国/都との関係」、これらの難しさに加えて「コロナ禍の中で安全・安心な大会を実施する」という課題がのしかかりました。

現場としては「アスリート・審判が最高のパフォーマンスを発揮する」、それを見て「観客・視聴者がスポーツを通じて感動や希望を得る」、そして「オリンピズムの実現」。このために皆が力を合わせているのですが、あまりに複雑に組織や機能が絡み合っているために意思決定の調整には苦労をしました。

このような中であらためて感じたのが「独立自尊」の教えです。複雑に絡み合う機能部門間の利害の中で空手競技成功のための考えをしっかり持って主張し、相手の考えも聞きつつ調整し、権限範囲内で意思決定するだけでなく、必要な決定を働きかけていくことも重要でした。

不勉強であった自分でしたが、慶應義塾や三田空手会で学んだことはまさにこういうことであったと実感しました。前例や固定概念、あるいは権威的な考えに縛られずに、独立自尊や半学半教といった考えを胸に、今後も冷静に着実に実務を進めていきたいものです。

今回のオリンピックに際しては、COVID-19の感染拡大やそれによる医療現場の逼迫という状況の中で、社会では開催についての賛否がありました。大会運営に携わる身としては大会が実施できるのかと不安に感じる期間もありました。大会を中止という判断もあったとは思いますが、それによって得られる価値よりも、オリンピック大会を実施する過程・結果によって得られる価値がはるかに大きかったと確信しています。

同時にスポーツや音楽・演劇等を安心して行える社会を維持することの大変さと重要性をあらためて痛感しました。1年半にも及ぶコロナ禍の状況の中で、学業だけでなく、體育會の各部や音楽・演劇などの各会がリモートなども活用して稽古・練習を継続していることに敬意を表します。

オリンピック空手競技の後、パラリンピック柔道競技のお手伝いもしました。両競技を終え、少々くたびれましたが、最高の達成感と爽快感を感じることができました。このような役を与えていただきました奈藏稔久さん(三田空手会の先輩であり世界空手連盟(WKF)の事務総長)、WKF・全日本空手道連盟に感謝いたします。そして何よりも一緒に苦労した大会組織委員会の各部署の方々、空手チームメンバー、ボランティア、関わったすべての方々のご尽力にあらためて感謝いたします。

さらに、大会組織委員会職員の中にも多くの塾の方がいらっしゃり、部署を超えてコミュニケーションできたことは幸いでした。ボランティアの中にも塾生や塾員、なかには同級生もおり、塾の仲間が要所にいて責任感をもって活動してくださることが大変心強いと感じる4年間でした。

世界空手連盟役員と競技終了後に。右下が筆者。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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