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【特集:ジェンダー・ギャップに立ち向かう】
座談会:ジェンダー・ギャップに立ち向かう

2020/04/06

ミドルマネジメントの重要性

大谷 男の人たちも「男」とひとくくりにできないぐらい違いますよね。

うちの息子は今、20歳ですが、もう価値観が全然違う。でも、あと何年かしたら、彼らが会社に入ってくるのですね。

後藤 そうですね。世代別の多様性も本当に考えなければいけません。若い人は本当に価値観が違うので、様々な策も取っていかないと、ついてきてくれない。

町田 40代は、管理職としても力を発揮する世代です。育休を支援する「育ボス」の話がよく出ますが、まさに若い世代に対して一番接することが多い中間管理職世代でもあります。

その世代が育休取得を奨励し、休暇の取りづらい職場では声をかけてあげることがとても大切です。とくに男性の育休の場合、その職場で1人取るまでが大変で、1人が取ると、後はわれもわれもと取る流れがあります。最初の突破は、上司の理解と後押しがないと難しい例が多いようです。

そうしたことも含めて、50代以上の経営層世代と若い世代をつなぐ役なので、40代の管理職の役割は重要だと思います。

工藤 40代の方は今まで自分が目指してきたスタイル・価値観では戦えなくなってきており、苦しく感じている人もいるのではないでしょうか。

でも、おっしゃったように、40代のミドルマネジメントはすごく大事な役割ですよね。トップの意志を下に伝播させる、そのミドルマネジメントの人がどのようにフレキシブルに働けるかで会社の競争力がすごく変わってしまうと思います。

岩波 そうですね。慶應でもいわゆる教授クラスの世代と、40歳ぐらいの、まさに育児真っ最中の世代の男性教員の間には、育児への参加に対する意識のギャップが大きいように感じます。世代間のギャップも意識して対応していかないと大学においてもいい人材が確保できません。

企業はもちろんだと思いますが、変革に敏感な感性を持った方がトップに立っていないと、やはり強い組織にはならないと実感しています。

新しいロールモデルへの期待

岩波 女性だけではなく、慶應義塾で今学んでいる塾生や若い塾員たちに、何かメッセージをいただけると有り難いのですが。

後藤 まずは意識の問題として、多様な働き方があるということをきちんと理解して、ライフデザインや人生の目標を柔軟に考えてほしい。大きな企業に入って、一生そこにいればいいという時代ではもうなくなっていると思います。

女性には、可能性は無限大にあるということを前提にしてほしいと思います。ガラスの天井なんか今の学生たちが上がってくる時にはなくなっているでしょうし、自分たちの働き方も含めてどんどん成長してほしい。

また、トップになることを恐れずに進んでもらいたいと思います。女性は2番目のほうが風圧が当たらずに楽だとなりがちですが、一番上にいることで見える世界は本当に違うと思います。全員にトップになれと言っているわけではありませんが、日本だけにとどまらず、世界のどこでも視野を広く持っていろいろな可能性にチャレンジしていただきたいと思います。

町田 私も若い人たちには自分を最初から抑制しないで、まず自分がやりたいことは何かを探りながら、可能性を追求してほしいと願っています。

もちろん、社会の中で生きていくにはいろいろな挫折もあります。ただ志を持ち続ければ、必ずその先に道は開けます。自分たちの可能性を信じ、前向きに生きてほしい。

自分たちが、次の世代のロールモデルとして、様々に枝分かれする道を担っているという意識も持ってほしい。しかも、活躍の場はまさにグローバル化している。日本ではスピード感を持ってジェンダー・ギャップが解消しないなら、私は海外で頑張ります、という人も増えてほしいと思います。

工藤 これからの学生は、より目標も不明確な競争の場に出るわけです。だから、学生時代に正解をすぐに求めることをあえてする必要はないと思います。もっと人との意見交換を楽しんだり、混沌とした世界を楽しむといったことを、優等生にならずにどんどんやってもらえればと思っています。

慶應は、グローバルな開かれた大学だと思っていますが、日本で働こうと海外で働こうと、日本人としての矜持というか、日本人としての良さも持った上でグローバルであることが強みになっていくと思いますので、その両方を大事にした人間の育成をお願いしたいし、そういう人になってもらいたいと思います。

大谷 私は会社も変わっていますし、国もまたいで働いてきました。常に変化の中でアタフタしてやってきましたが、それなりに楽しかった。だから「楽しいことをやる」のが大事だと思っています。

誰かに押し付けられてやるのではなく、とにかく「楽しそう」と嗅ぎつけたらやってみる。そうでないと続かない。それで自然と力はついてくるし、続けられると思いますので、ぜひ楽しいことを見つけてほしいと思います。

好奇心を持って活躍できる社会に

岩波 慶應義塾は女性がのびのび活躍できる学塾だと思います。男女の差別をあまり意識しないで学生生活を満喫できる。

ところが、今まで大学では性別による制約なんて考えたこともなかったのに、社会には実はガラスの天井というものがあるらしいと気づいて、幻滅してしまう若い世代の女性塾員が少なくないようなのです。

町田 今のガラスの天井は、過渡期のものであって、社会はまさに変容しています。グローバル化の中で、おそらく日本も急激に変わらざるを得ない。

ですから今、仮に天井に気づいて失望したとしても、あまり、それにとらわれすぎる必要はありません。変わりゆく社会の中で自分らしさを大切に、可能性を探りながら、好きなことを追い求めていくことが大切です。人生は長いので、自分を見失わずに一喜一憂せずにやっていくしかないでしょう。

先ほど出たネットワーク化はとても重要です。昔よりも様々な仕事を選べる時代です。合わなかったら次の会社に行けばいいという選択の自由、あるいは国をまたいで仕事ができる時代になっている。そうなると、いろいろな出会いを大切にすることで、ネットワークが仕事にも生きる。私自身もすごく助けられてきました。

社内もそうですが、社外でも出会いを大切にネットワークを構築していくと、いろいろな助けが自然と舞い降りてくるという実感があります。だからすぐに失望しないでほしいです。

後藤 私もそう思います。ガラスの天井はいつまでもあるわけではない。

多少の我慢も必要というか、「ここ、やだわ」とすぐにほかへポンと行ってしまうと自分の糧にならないので、そこは石の上にも三年ぐらい。今は、3年も待っていられないかもしれませんが(笑)、多少の忍耐はした上でフレキシブルに考えたらいいのではないでしょうか。いつまでも悪いことはない。時代は動いていると思います。

工藤 大谷さんがおっしゃっていたように「楽しい」と思えることが大事だと思います。自分も20代、30代の頃を振り返ると、「もう、やめちゃおうか」と思ったことは何度もありましたが、仕事は楽しかったので、続けてきました。楽しいことを見つけてほしい。そのために職を変わる必要があれば、いろいろな情報に触れられるように、ネットワークを広げることも大事です。

また、嫌なことは受け流すということも大事だと思います。真正面で受け止めすぎるとストレスになってしまうので、「また言ってる」と流しながら、あまり相手にしないという選択肢もありますから。

後藤 鈍感力ですね。

大谷 私も毎日一番に会社に行って机を拭いて灰皿を洗って、お茶を入れてとか本当に嫌でした。「こんなこといつまでやるんだろう」と思いながら。

後藤 私も人より1時間前に行って、先輩の机の掃除をして、ポットにお湯を汲んでとかやりました。でも、1年後輩の男性にもやらせました。それは一番下がやるものだからと。

工藤 すごい。でも、そうですよね。

大谷 いろいろ嫌なこともありましたが、好奇心が非常に旺盛だったので、これもやりたい、あれも知りたいというのがモチベーションとなってここまでやってこられました。「これもいつか笑い話になる」と思って頑張りました。そういうふうに乗り切ってもらいたいと思います。

岩波 慶應義塾の女子学生たちは学校の中では自由に、男性と伍して、というよりも男性を御して、活躍してくれていると思います(笑)。

慶應義塾出身の女性社長数は東京商工リサーチでは3位ですが、帝国データバンクでは2年続けて1位です。女性の教員数も朝日新聞出版のデータによれば慶應が10年間1位です。性差を感じさせない自由闊達な学風で育った女子学生たちが、今後も元気よく楽しく好奇心を持って社会で活躍できるようにと願ってやみません。

そのロールモデルを皆さんが示してくださいましたので、皆さんの後を追いかけて、次の世代を担うロールモデルが義塾から次々と羽ばたいて、日本に限らずグローバルに活躍することを期待しています。

今日は本当に有り難うございました。

(2020年2月17日収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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