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【特集:ジェンダー・ギャップに立ち向かう】
座談会:ジェンダー・ギャップに立ち向かう

2020/04/06

アファーマティブ・アクションをどう考えるか

岩波 アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)について、皆さんがどうお考えになっているか伺いたく思います。アファーマティブ・アクションは、女性の登用を積極的に行うという意味ではいいのですが、逆差別になると言われることもある。教員採用等で実施している大学もありますが、皆さんのところではいかがでしょうか。

後藤 私どもデロイトトーマツグループには公認会計士や税理士、コンサルタントや弁護士まで様々な職種の人たちがいますが、基本は銀行と同じで人が財産です。いかに優秀な人たちに気持ちよく個性を発揮してのびのびと働いてもらうか、が顧客の満足度に直結します。

そのような環境の中から、いかにイノベーティブな、柔軟な考えを生み出していくのかが非常に大事で、そのために埋もれている女性を掘り出して、力を最大限に発揮してもらうことが経営課題になっています。

少し前までは、女性の活躍推進は社会貢献のような感じでしたが、今や重要な経営戦略として絶対にやらなければいけないと思っています。そこで、私どもは、CEOの直下にD&I(Diversity&Inclusion)のコミッティをつくり、数値目標を立てて達成するという強いコミットの下で女性の活用を推進しています。

数値目標はとても背伸びしたものを立てるので、その中でアファーマティブ・アクションというわけではありませんが、時として女性を優先しているのではないかと思われるようなこともあります。

私も社内で、女性を優先して男性が差別されているのではないかと聞かれることもあります。その時には、今まで女性は差別を受け続けてきた。その人たちは、今まであなたたちが下駄を履いている間に鉄下駄を履いて、苦しい思いをしながら頑張ってきた。「その鉄下駄をちょっと下ろしたっていいじゃない」というような話をします。

「平等になるまではやるのよ」ということです。トップが抵抗に屈せず、ひるまずに頑張ることが大事だと思っています。

大谷 私が勤めていた外資系の会社では、アファーマティブはありませんでした。マネジメント職の半分ぐらいが女性だったり、役員も、もう女性のほうが多い会社もありました。

日本の会社だと男性同士がお酒を飲んだり、たばこを吸いに行ったりして、そこで重要な意思決定がされてしまうことがありますね。そういった公式ではない場で話をして、なんとなく物事がそちらに行ってしまう。そこに女性は呼ばれていないし、入り込めないので、そこはちょっと壁を感じます。

後藤 本当にそうですね。今、私どもでは、意思決定はきちんとインクルーシブにやってくださいと言って、そういったインフォーマルな場で意思決定がされることを徹底的に問題視しています。どこかよくわからないところで根回しして、こそこそと決めましたというのは駄目です。文化を変えなくてはいけません。

「働き方」と家庭での役割分担

大谷 難しいですよね。また、積極的に管理職になりたがらない女性を問い詰めていくと、結局、「家事や育児をワンオペで(1人で)やらなければいけなくなる」と言う。

男の人はとにかく早く家に帰って来ない。「なんで私がいつもお迎えに行って、ご飯作って、寝かせてということを1人でやんなきゃいけないの」と。そうすると、「管理職は無理」という話にも当然なってきますね。会社の中でメンターをつけることも大事ですが、家庭や社会での体制も整えないと正直難しいと思います。

町田 2016年の総務省の調査では6歳未満の子をもつ夫婦の1日あたりの家事・育児時間は、女性が7時間34分に対し、男性は1時間23分です。男性は微増傾向にはあるものの、この極端な差が結局、女性にばかり負荷がかかることにつながっている。それが、管理職に就くことをためらわせている主因にもなっています。これは社会的な働き方の問題と一緒に変えていかないといけません。

岩波 そうですよね。26歳から35歳までを対象に実施した厚労省の成年者縦断調査では81.4%の女性が結婚後も仕事を継続しています。共働きに関して世代間でも大きな意識の違いがあるように思います。

工藤 ジェネレーション・ギャップも大きいですよね。今、会社の制度・施策を決める側が40代以上なので、ルールのつくり手と使い手のギャップがなかなか詰めきれてないのかもしれません。

一方で、今の話に水を差すつもりはありませんが、海外でも女性が企業のトップになっている場合は、逆に男性が仕事を辞めているケースもあります。すごく忙しくなっていくと、もしかしたら、ある時はどちらか片一方に家庭のことを頼らざるを得ない時もあると思います。今までは女性がついていく立場だった。それが役割を自由に選べて、女性でも男性でも、偏見もなくできるようになればいいのでは、と思っています。

後藤 私の夫は「専業主夫」なんです。

工藤 そういう方は、弊行にもいらっしゃいます。それでいいと思うのです。

町田 私も家事の大半を夫に負担してもらっています。あまり胸を張って言えないですが(笑)。

問題はアンコンシャス・バイアス。例えば双方の両親から女性だけが、結婚した際に「あなたは専業主婦になるんでしょう」、子どもができると「いつ会社を辞めるの?」と言われたりする。

結局、そうした悪気のない、今までの文化背景から当たり前だと思っているようなアンコンシャス・バイアスを周囲や上司が見せてきた。それが男女とも知らず知らず刷り込まれている。

これはメディアの役割でもありますが、気づきを増やしていくことは大事です。経営者や管理職、周囲の方々が自覚を持って接することで、ずいぶん変わってくると思います。

「ガラスの天井」は感じたか

岩波 皆さん、今のポジションに就くまでにいろいろなご苦労もあったと思います。女性であるから良かったこともあると思いますが、見えないガラスの天井を破らなければいけなかった経験もたくさんあるのではないでしょうか。

後藤 私と町田さんは雇用機会均等法以前の世代ですね。私は就職の面接で「女性の幸せは結婚と子育てなのに、何で公認会計士なんかになったの」と言われ、その会計事務所はあっという間に失礼して外資系に行きました。そのあたりから始めるともうキリがないのですが(笑)、幸いなことに私は仕事の上でひどい差別を受けたことはありません。

私が入所した時、1人だけ先輩に女性がいたのですが、「大丈夫よ。差別なんかされないから。男性の2倍働けばいいだけよ」と言われたので、そうかと思い、私生活をかなり犠牲にして長時間働きました。今では問題ある働き方ですが。

そのこともあり、しかも、女性が非常に少なくて他の人よりちょっとだけ上手くできると目立ったので、いろいろチャンスをいただいたということはあったと思います。そのちょっとしたチャンスを、できないかもしれないと思わずにポジティブに挑戦してきました。

私の場合、チャレンジは上に行けば行くほどありました。スペシャリストとしてやっている時は、自己研鑽をすればいいわけですが、組織のマネジメントをするとなると、まったく必要なスキルが異なります。

リーダーシップが必要になり、人を動かしていかなければならず、皆の心を1つにするのはどうしたらいいのかと、悩んでばかりでした。そのあたりは、段階的に経験したり体系的に学ぶ機会がもう少しあると良かったと思います。

特に、役員レベルで組織を横断的に束ねる仕事は、ものすごいチャレンジでした。モチベーションがバラバラでしかも一家言ある男性リーダーばかりを、人とお金を握らずにビジョンと影響力だけで思う通りに動いてもらうということは非常に難しかったです。

翻って思うと、男性は昔から組織の中で上手く立ち回ることを学ぶ機会があったり、まわりがサポートすることがあるのかなと思います。私は相当孤軍奮闘してしまった感じがします。

町田 私はあまりガラスの天井は感じませんでした。1つには私が新聞社の中でも非常に特殊な文化事業を中心に歩んできたということがあります。私はプロパー第1号だったので、その道を専門にされている方があまりいなかったのです。

業界的に女性はまだ珍しかったものの、文化事業ということもあり、海外交渉を含め、とくに不利になることもありませんでした。たまたま幸運だったのかもしれませんが、大きくトラウマになるような経験はなかったですね。

西部本社代表として九州に赴任した時、地元企業の社長に「え、女性が新聞社代表?」と驚かれました。女性初の本社代表という重圧より、私はとにかく毎日が営業だと思って、いろいろな会合に出て人と会い、「文化」が助けになって、本当に楽しく皆さんと交流してきました。そのつながりが今も生きている。

だから、トライして挫けてもいいけれど、トライする前から諦めてはもったいない。多くの人たちがまずトライすることが大事ではないでしょうか。

後藤 そう言えば私が総責任者というポジションになった時に、「女性は腹を割って話せないから、やっぱり女はやめてくれ」と言われたことがあります。でも、私の上司が「使えば分かるから、ちょっと付き合ってみてください」と言ってくれて、2年後には、その人は私の大ファンになってくれました。この上司の存在は有り難かったです。

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