三田評論ONLINE

【特集:ジェンダー・ギャップに立ち向かう】
座談会:ジェンダー・ギャップに立ち向かう

2020/04/06

リスク・テイクに慎重な女性

岩波 大谷さんは、いろいろな企業をご経験し、業界の違いも肌で感じているのではないかと思いますが。

大谷 私は最初に日本の会社で9年ほど働き、その後、外資系で20年ぐらいマーケティングをやり、また、一昨年日本の会社に戻ってきました。

以前、日本の会社にいた時と、今、日本の会社に戻って感じることは、「進んではいるものの結構ゆっくりだな」ということです。20年経って、まだこれだけしか進んでいないのかと思うところもあります。勤めていた外資系では男女のジェンダー差もなく、チャンスがあれば手を挙げて、ポジションを取りに行くのが一般的でした。海外赴任なども、男女問わず力があって行きたい人が行きます。もちろん責任も取らなければいけませんが、そこでは、女性として差別されていると感じることはほとんどありませんでした。

最初に勤めていた日本の会社では、結婚や出産があっても2年おきに転勤があるため、人生の組み立てが思い通りにできないと感じました。自分で専門領域を磨いて東京にいられる働き方はないかと思い、外資系企業に転職し、マーケティング領域で経験を積むことにしました。

今の勤務先であるローソンでは、政府が勧めるいろいろな仕組みなどを取り入れていますが、管理職をやりたがる女性があまりいません。「抜擢してくれるな」という声も聞こえます。「あなた、できるんだから」と言っても、積極的に手を挙げる人は限られています。

女性の取締役も半数近くいますが、全員社外取締役の方々で、中から叩き上げで上がってきた女性はまだいませんし、私も外から来て役員になっています。中から上がれるようトレーニングをしたり、私の頃にはなかった、うらやましいような産休、育休制度も取り入れてサポートしていますが、ペースはかなりゆっくりです。

岩波 おっしゃるように、チャンスはあるけれども手を挙げるのを躊躇する、自ら手を挙げることに慎重になる傾向が女性にはあるように思います。

慶應義塾の女性職員も大変優秀で、本来ならばマネジメント職としてもっと大勢活躍して欲しいのですが、思っているようにはなかなか手を挙げていただけていません。優秀だからこそ自分に課すハードルが高くて、失敗するリスクと責任を担うマネジメント職には二の足を踏みがちなのかもしれません。その背景にはチャレンジに消極的な日本人的なメンタリティがあるようにも感じています。

女性を登用する仕組みづくり

後藤 おっしゃる通りです。私どものグループでも管理職になることが非常に高いハードルになっているようです。「リーダーシップを発揮するような教育を受けていません」とか、「私は男性をリードなんかできません」、と言って手を下ろす人たちがいます。「頑張れ、頑張れ」と言うだけではなく、彼女たちが安心して上がれるような仕組みをつくっていくことが大事です。

そこでスポンサーシップ制度を入れようと思っています。今はまだ経営層だけですが、キャリアを上げる時だけではなく、その先の仕事にもずっと寄り添い、多角的に助言を行う制度です。

男性の場合は上司の「引き」が普通にあると思いますが、それを意識して行うようなものです。管理職に上げただけで、後は自分で頑張れと放り出したら、特に女性は厳しいと思います。男性だと自然にネットワークができていて、普通に皆がサポートしているようですが。

岩波 スポンサーシップというのは、メンターという言葉に置き換えられると思いますが、工藤さん、銀行ではいかがですか。

工藤 当行では、女性向けに課長になる前後にメンタリング制度があります。経営のメンバーや部長候補レベルではありません。

後藤 私たちは逆に上から強化していて、今は次のボードメンバーにするかしないかぐらいのところに制度を導入していて私も数名面倒を見ています。メンタリングをするだけではなく、上下の関係も使って挑戦の機会を提供したり、積極的に応援するものです。

役員クラスの女性は数名しかいないので、男性が女性を引っ張れるような仕組みもつくろうとしています。

工藤 いいお取り組みですね。自分はメンターがいなかったのですが、役員というのは重要な職務なので、就任前後にアドバイスいただける方がいてもいいのではないかと思いました。

男性同士はメンター制度などではなくアドバイスを受けているのか、というとわかりませんが、長い歴史の中で、いろいろなところで、なぜか男性は嗅ぎ取っているところがあるように感じる時があります。

後藤 私もそう思います。自然発生的にネットワークができている。DNAに組み込まれているのかどうかはわかりませんが(笑)、男性だけの中に女性がポンと入って活躍しろと言われた時は非常に大変ですよね。

工藤 そうなんです。「教えてもらう立場じゃないだろう」と言われればそうでしょうが、ご自身の経験ややり方を教えていただいたり、私へのフィードバックをいただけるだけで違うと思うのですね。

また、もしかしたら、日本の会社は経営層への教育全般が、男性、女性関係なく、弱いところがあるのではないかとは思います。

岩波 メディア、特に新聞というと一匹狼的なイメージが男女問わずありますが、マスコミ業界はいかがですか。

町田 当社では男性、女性に限らずメンター制度はありません。それぞれの役職を経て、経験を積みながらやっていくので、あまり必要とされなかったのかもしれません。

ただ私の場合、女性プロジェクト担当ということで外部の企業とも交流する機会があり、「生真面目な女性ほど管理職に手を挙げない」という話はよく聞きます。でも、そういう人を少しだけ後押ししてポストに就かせると「なんだ、できるじゃない」という例が増えてくる。そうやって、いろいろな背景を持つロールモデルが増えると、若い人たちも安心して、一歩前に踏み出せます。

先週、元厚労省事務次官の村木厚子さんにインタビューした際(3月6日朝日新聞夕刊掲載)、手を挙げる人が必ずしも仕事ができるとは限らない、とおっしゃっていました。むしろ、おずおずと遠慮がちな人の方が、いざやってみるとすごくできることも多いと。ですから、チャンスをためらいなくつかめるよう、まわりの後押しは大変重要だと思います。

後は、やはりトップのリーダーシップ。強い意志を持続的に示せるかどうかです。ただ無理に推進すると、どうしても「無理して就けたけど駄目じゃないか」という否定的な意見が出てくる。それより、ためらっている人たちに対し、「あなた、やってみれば」と背中を押してあげる。その人たちが結果を出せば成功例となりますし、少なくとも無理な話ではなかったと証明されれば、後に続く人たちは増えます。

ジェンダー・ギャップ指数の改善には、多くの企業が当事者意識とスピード感を持って進めていく、という流れをつくることが肝要です。それは少子高齢化の中で、女性の力がさらに発揮されることにもなるでしょう。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事