三田評論ONLINE

【特集:ジェンダー・ギャップに立ち向かう】
女性政治リーダーをどう増やすのか――女性の意欲を削ぐ男性社会にメスを

2020/04/06

  • 三浦 まり(みうら まり)

    上智大学法学部教授・塾員

世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダー・ギャップ指数」によると、日本は2019年末にとうとう史上最下位の121位にまで下がった。日本の順位の低さは政治・経済ともに指導的立場にある女性が圧倒的に少ないことに起因する。なかでも政治において少なく、今回の指標は女性閣僚が1人しかいなかった時点のデータを反映し、121位まで落ち込んだ。政治における男女格差を解消しないと、社会や経済におけるジェンダー平等の達成が一層困難になるため、政治における女性の少なさを極めて深刻な問題として受けとめるべきである。

2018年には政治分野における男女共同参画推進法が全会一致で成立した。政党は候補者を擁立する際には男女の数の均等、すなわち男女同数をめざすことが基本原則として定められた。多くの野党は数値目標を立てるなどして女性議員の増加に成功している。ところが、与党の取り組みが遅れているために、昨年の統一地方選や参議院議員選挙では、女性候補者は微増にとどまった。引き続き、政党が候補者発掘に努力すると同時に、手を挙げる女性たちを支援する取り組みも欠かせない。

女性議員が少ない理由は、企業や行政の管理職において女性が少ないことと相当程度重なる。しばしば指摘されるのが「女性は昇進意欲がない」という点だ。モチベーションが低いこと、そしてワークライフ・バランスの確保が困難であることが、その背景にはあるともされる。ワークライフ・バランスは働き方改革を進め、子育て・育児への社会的支援を充実させていくしかない。

ではモチベーションはどうだろうか。女性の「モチベーション」がたとえ低いとしても、それは女性自身の問題ではなく、男性社会が生み出していることに気づいていかないと、指導的地位における女性比率を上げることにはつながらない。

自信の壁

アメリカで女性政治リーダー養成セミナーを実施する14団体を視察したことがあるが、どのセミナーも女性の自信の欠如を問題視し、自信をつけるためのプログラムを提供していた。なぜなら、女性は自分への自己評価が低く、声をかけられても自分には経験が足りないとか、能力が低いと思ってしまい、辞退しがちだからだ。

なぜ女性は男性と比べて自信がないのか。これは、ジェンダー規範の影響が強い。女性は勉強や仕事で評価を受けるよりも、容姿や異性への魅力で評価を受けやすく、このことが社会的な活動に対する自信の持ちにくさにつながっている。また、女性の役割だとされる育児・家事労働の社会的・金銭的評価が低いことも、女性の自己評価の低下につながる。この問題に対処するには、広告やメディアが拡散する有害なジェンダー・ステレオタイプに敏感になり、それを突き破るような取り組みが必要だ。

さらには、女性自身が自分の価値に気づけるような教育や研修も有効である。私自身が申琪榮(シンキヨン)・お茶の水女子大学教授と共同で主宰する一般社団法人パリテ・アカデミーでは、若手女性政治リーダーの養成を行っている(http://parity-academy.org)。ここでの取り組みでは、政治のイメージ転換と動機の掘り下げを組み合わせながら、自分が一歩を踏み出し、政治に参画する志を高めるトレーニングが効果をあげている。

仕事の魅力を伝える

女性が政治家あるいは管理職に手を挙げない、あるいは辞退する理由として、その役職に魅力を感じないということがある。政治家の場合は職務がよく理解されておらず、メディアを通じて接する政治家のイメージが悪いことも女性たちを政治から遠ざけている。仕事の内容とその醍醐味が伝わっていなければ、なり手不足に陥るのも無理がない。

政治家の仕事とは何だろうか。パリテ・アカデミーでは、この質問を12人の女性政治家にぶつけ、その返答を編集した動画を教材として用いている。収録の際には12人全員が「聴くこと」とまず答えた。選挙区のあるいは全国の声に耳を澄ませ、みんなの悩みや困っていることを聴く。そして、その問題の背景にある法律や予算の不備を見つけ出し、改善策を探り当てる。それぞれの悩みを個人的に解決するのではなく、制度に落とし込み、政治的に解決を図るのである。法律がないなら法律を作り、予算が足りないなら予算をつける。そして、合意形成に向けて調整を行い、議会での決定に持ち込まなくてはならない。

ビデオ教材を見せると受講者は一様に驚くのだが、その反応に私自身が驚いている。どうやら有権者に見えている政治家の仕事は選挙か国会中継での質問ぐらいで、自分たちの声を聴く存在だとは、ほとんど認知されていないようなのだ。「政治家とは、一方的に言いたいことだけを言い放つ人だ」と思われている限り、その仕事に就く人は限られてしまう。自己顕示欲の塊のような人しか政治家にならないのでは、民主主義の発展を阻害する。

したがって、女性政治リーダー養成セミナーが果たすべき使命の1つは政治のイメージ転換である。そのためにも、きちんと仕事をしているロールモデルに引き合わせることが必要だ。ビデオ教材はその1つであるが、実際に議員を招いてパネル・ディスカッションやワークショップを行うことも効果的であると実感している。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事