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【特集:ジェンダー・ギャップに立ち向かう】
座談会:ジェンダー・ギャップに立ち向かう

2020/04/06

  • 後藤 順子(ごとう よりこ)

    デロイト トーマツ グループ ボード議長

    塾員(1981経)。慶應義塾理事・評議員。有限責任監査法人トーマツ金融本部長、デロイトトーマツグループ金融インダストリーリーダー等を歴任。元公認会計士三田会会長。 30 % Club Japan Vice Chair。

  • 町田 智子(まちだ ともこ)

    朝日新聞社上席執行役員(CSR/教育事業/女性プロジェクト担当)

    塾員(1982経)。1982年朝日新聞社入社。文化事業部長、役員待遇企画事業担当兼同本部長等を経て2013年取締役西部本社代表。17年取締役東京本社代表。18年より現職。

  • 工藤 禎子(くどう ていこ)

    三井住友銀行常務執行役員

    塾員(1987経)。1987年住友銀行入行。2014年執行役員 成長産業クラスターユニット長、2017年より常務執行役員。ファイナンシャル・ソリューション部門統括責任役員、国際部門副責任役員。

  • 大谷 弘子(おおたに ひろこ)

    ローソン執行役員マーケティング戦略本部副本部長兼商品本部副本部長

    塾員(1987政)。1987年日本電信電話株式会社入社。日本コカ・コーラマーケティング本部マネジャー、日本ケロッグ合同会社執行役員等を経て2019年ローソン理事執行役員マーケティング戦略本部副本部長。

  • 岩波 敦子(司会)(いわなみ あつこ)

    慶應義塾常任理事、理工学部教授

    塾員(1985文、90文博)。ベルリン自由大学にて博士号(Dr.phil.)取得。2008年理工学部教授。13年より常任理事(人事・労務、協生環境推進、学生(共管)担当)。 慶應義塾協生環境推進室室長

「30%Club Japan」の設立

岩波 本日はお忙しい中、お越しいただいて本当に嬉しく存じます。今日は、『三田評論』では初めての女性だけの巻頭座談会になるそうです。

さて昨年、企業の役員に占める女性割合の向上を目的に、「30%Club Japan」が設立され、後藤さんがVice Chairに就任されました。そして、大学もこのプロジェクトに参画するにあたり、慶應義塾にもお声がけいただき、長谷山塾長がメンバーになっておられます。

このように女性活躍の動きが日本でも活発化する一方で、昨年発表された世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」では、前年の110位から121位へと大幅に後退してしまいました。これを見ると、まだまだ日本の女性活躍は道半ばかなと感じます。

こういった状況を踏まえ、今日は企業経営の最前線で活躍されている女性役員の皆さま方にお集まりいただき、女性活躍社会の実現に向けて議論してまいりたいと思います。

まず、30%Club Japanについて、後藤さんからその趣旨をお話しいただけますか。

後藤 30%Club自体はイギリスで2010年に発足した非営利の世界的キャンペーンです。現在14カ国で展開されており、展開国の数は増え続けています。始まりは、イギリスで取締役などの企業経営のトップ層において女性比率が低いままでなかなか伸びない状況があり、クォーター制の導入が喧伝される中で、「上から押し付けられるのではなく、企業サイドが自らの力で女性経営陣の比率を上げていこう」ということでした。

イギリスでは、デロイトからも発起人の1人として参加しており、そのご縁もあって、日本での立ち上げをサポートすることになりました。

その目的は取締役会を含む経営の重要意思決定機関における多様性のうち、特に一番数の多いマイノリティーである女性の比率を健全な割合まで引き上げていくことです。健全なバランスは、企業のガバナンス強化、持続的成長の促進、そして国際的競争力の向上、ひいては持続可能な日本社会の構築に寄与すると考えています。重要意思決定機関の女性比率向上は、女性の活躍、登用全体の推進なしには語れませんので、そのための活動もしていきます。

企業の経営トップ自らがコミットしてそれを推進しようという方が集まり、いろいろな意見交換をしたり、ノウハウを共有して進めていこうとしています。

岩波 今、どのぐらいの数の会社が入っているのですか。

後藤 全体で51名、うち日本のTOPIX100、400の企業から20名です。

先日、経団連と女性活躍推進に関する協力の覚書を締結し、情報交換と意見交換、イベント開催や対外情報発信を協力して展開しようとしています。大切なのは、主要企業のトップの方々に「自らのこと」として参加していただくことです。日本の社会を変えるのは、それが早道なのです。

いろいろとワーキンググループもつくっています。今、一番活動が活発なのはインベスターズグループです。そのほかにメディアグループも立ち上がっています。

町田 ぜひ大きく発展させていきたいですね。

後藤 そうですね。日本をより活性化し、成長のスピードを高めていくために女性が活躍できるような社会を実現していきたいと考えています。

会の目標は2030年までに監査役や執行役を含むトップ層の女性割合を30%にすることですが、各企業に絶対にそこまで行ってください、とお願いしているわけではなく、各社が自らに合った目標値を定め、それに向かってトップがコミットしてリードしていただければ結構です、とお話ししています。

女性活躍の場は広がっているのか

岩波 有り難うございます。今日は様々な業界の方に来ていただいていますので、それぞれご自身の関係する分野でのお話を伺えればと思います。町田さんからいかがでしょうか。

町田 私は2016年から女性プロジェクトの担当役員をしています。これは社内やグループ企業内の多くの関連媒体やプロジェクトをネットワーク化したものです。年齢やライフスタイルなどを異にする、様々なステージの女性たちを応援し、社会で元気に活躍していただこうと発足し、今に至っています。

先日の「ジェンダー・ギャップ指数121位」は衝撃でした。しかし、ピンチこそチャンス。危機感を共有し、問題意識を持った人たちが結集することで、社会を変えていく力になるのではとも考え、そこにメディアの果たす役割があると思っています。

3月3日には弊社のGLOBE編集部とお茶の水女子大学が共催し、ニューヨーク・タイムズの特別協力で、米国から同社のジェンダー系のエディター、ディレクターを招いて、国際女性デー記念シンポジウム「121位の私たち~ジェンダー格差をどう変える」を開く予定です(注:新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期)。

また、毎年3月8日の国際女性デーに展開する「Dear Girls」という紙面企画では、女性をめぐるテーマを扱い、例えば昨年は「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)を取り上げました。一連の記事をまとめた小冊子は、高校生や大学生の授業でも活用されています。授業で使うことで、考えるきっかけになった、というお声もいただいています。

岩波 工藤さんは銀行ということで、女性も多い職場だと思いますが、女性が確実に社会で活躍するために、何かなさっていることはありますか。

工藤 ジェンダー・ギャップ指数121位というのは、確かにショッキングな数字ではありますが、自分のまわりを見ると、女性の待遇、また活躍できる場は改善しているように思っています。この数字が悪かったのは、経営トップ層の女性の少なさや、政治の世界への女性進出の少なさが理由なのだろうと思うのです。

例えば、私どもの銀行の若手社員を見ると、男女の差なく仕事をするというマインドセッティングがかなりできていると思います。

後藤 そうですよね。ミーティングをすると、以前よりも女性にお目にかかるようになりました。

工藤 本当に普通のことになっています。一方で、経営者層や政治家というのは、それまでの積み重ねもあるので、すぐに女性の比率を上げることができないという難しさがあると思います。

日本の社会は、年功序列がまだあるので、抜擢人事のようなものは難しい。従来からの企業カルチャーもあり、時間も必要かと思います。

岩波 三井住友銀行での取り組みはいかがでしょうか。

工藤 銀行の一番大事な経営資源は人材ですので、人材の多様性、人を生かすことが最大の成長戦略と位置付けています。そうした考えから2005年頃より、女性活躍推進に取り組んでいます。最初は一定数の女性を採用する、「辞めないで働いてもらう」両立支援、でした。その次はキャリア支援に力を入れてきました。

育休の支援制度などは、充実していると思います。キャリア支援を考えた時に、女性がキャリアアップできているかが重要で、それには女性が意思決定の場に出ていくことが必要です。それは経営ということだけではなく、日々の業務の中でもっと増やさなくてはいけません。

育児休業や時短勤務制度は、社会、企業として用意すべきことです。できるだけフルタイムで働いてもらい、育児休業後も早く社会復帰してもらえるようにテレワークを推進したり、働く時間を柔軟にする。こういった施策がないと、いくら政府が数字を掲げ、お尻を叩いても、女性の経験値が上がらないので、なかなか活躍できないと思います。

マネジメント職への就任に対しては、女性は自らハードルを上げてしまうので、女性向けのリーダーシップ研修を2つの階層で行っています。

また、家族のあり方の違いにも対応が必要です。現在、共働き世帯は、40代は2割ですが、20代では8割です。銀行としても男性の育児参加を支援していますし、介護との両立支援ということで言えば、グループのSMBC日興証券は、週休3日や週休4日という勤務制度もつくっています。

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