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【特集:ジェンダー・ギャップに立ち向かう】
座談会:ジェンダー・ギャップに立ち向かう

2020/04/06

自分の壁をなくす

工藤 私は均等法施行後の最初の採用となる総合職1期生で、総合職で採ったけれど、使い方・扱い方に戸惑っているところも感じました。

制服を着てお茶汲みをし、電話に出れば「男性に代わって」と言われる。アシスタント職と同じ分しか時間外勤務も認められなかったので、その分、同じ総合職で入った男性よりも業務経験の量が減ってしまっていました。当時の労働基準法に従うと、そうなる仕組みだったようです。

でも、入行して3年目に国際部門に移ると、海外での業務経験のある方が多く、海外では女性がビジネスの場にいることにも慣れておられたので、仕事をする上では、女性だからどうということはありませんでした。最初のうちは海外出張に行くのが心配と言われて気にしていただきましたが、仕事上では思い切りやらせていただきました。

でも、マネジメント職になるということが自分にとってはハードルで、できれば好きな仕事の専門職でずっといたいとすごく思っていました。

後藤 そうですよね。

工藤 女性と男性の育ち方の違いからか、マネジメントは人を動かしていくとか、人の上に立つというイメージがあって、そんなことできないと思っていました。

実際その立場になって、皆で一緒につくればいいんだと考えると、気が楽になりました。皆を動機付けして、方向を示してあげることであれば、自分でもできるかなと思えたのです。そういう意味では、トライしてやってみたことで、自分の壁がなくせたかなと思います。

岩波 大谷さんはいろいろな企業を経験されているので、それぞれ壁が違ったのではと思いますが。

大谷 日本の会社にいた9年は、2年おきにあちこち転勤があり、天井を感じるまでもなかったです。その後は外資系で、やりたければやれるような環境にいたので、あまり感じたことはありません。

今も社長のサポートを受け、部門横断でいろいろなことをやらせてもらっており、基本的には壁も天井も思い当たるところがありません。

岩波 それは素晴らしいです。先ほどの後藤さんのお話のように、女性がチームを率いていて、顧客が、「ちょっと女性は」と言った時に「いやいや、付き合ってもらえば分かりますよ」と言ってもらえるような方がそばにいることは、すごく大きいですよね。

後藤 そうですね。ポジションに就けるだけではなく、失敗しないようにサポートをしてあげる人がいないといけないですね。やりっぱなしで勝手に育ってきてしまったのが、たぶん私たちの世代だろうと思いますが、これからはポジションに就けるだけではなく、きちんと育てて成功させてあげないといけないと思います。

岩波 女性が活躍していく上でのネットワークづくりに関して、何かアイデアやご経験などありますか。

後藤 やはり、男性と比べて、女性はネットワークの力が弱いのかなと思います。そこで、社内のネットワークは、階層ごとに小さなグループをつくり、昇進直前の人たちに昇進した後の人たちからいろいろな話を聞けるような仕組みにしています。

今、立ち上げているのが、社外ネットワークです。引き上げられた若い人は、会社の中だけでなく、様々な会社の方々と情報交換をすることが必要です。そこで、ビジネスに関するネットワークをつくって、さらに成長できるような場をつくろうと、この前「SheXOクラブ」というものを立ち上げてもらいました。当クラブは、組織のエグゼクティブとして活躍する女性と、真のリーダーとして高い視座を持つことを目指す次世代リーダーを対象としています。

会社の枠にとらわれずに、同じようなポジションの方々が広くネットワーキングができるような場所をつくりたいと思っています。

工藤 今までビジネスの場に出ていた女性がそんなに多くいなかったので、おっしゃったように、何かの場をつくっていくことはすごく大事だと思います。子育てであれば、育児書はたくさんありますが、女性にもマネジメントをするに際に、言葉になっていない知や経験を共有してもらったり、刺激を与えてもらう場所として、ネットワークが必要だと思います。

いずれ、そのネットワークは女性という括りだけでなく、いろいろなタイプがあったらいいと思います。

社会を変えていくには

岩波 ジェンダー・ギャップ指数で日本が121位に落ちた1つの大きな理由は政治の部分です(125位→141位へ)。政治の場では、たばこ部屋ではありませんが、表に出ないところで決まっていくことが多いように感じますし、せめぎあいの経験も必要です。重要な決定を任せられる場に女性たちが入れないということが、順位が低い理由なのではと思うのですが、いかがでしょうか。

町田 2018年に候補者男女均等法ができました。これは日本のパリテ法と言われていますが、あくまでも努力目標で義務ではないため、なかなか進まない。法をつくっただけでは駄目で、法をテコに、かなり意識して取り組み、女性の議員比率を上げていく必要があります。

数年前、SDGsの制定に深く関わったアミーナ・モハメッド国連副事務総長が、来日中に「まずは女性候補に投票してみて。男性とともに女性も意思決定に関われば、男性のみの場合より間違いなく良い結果を生むでしょう」と話しておられました。

当然のことながら社会の構成員の半数は女性です。受益者も担い手も半数は女性である以上、その代表として女性がもっと発言し、政策も含め、様々なことに関わっていかないと、社会はなかなか大きく変わっていかない。

経済界のほうは、今かなり動き出しているので、むしろ政治ですよね。

後藤 「ジェンダー・ギャップ指数」の経済のスコアは2ポイントぐらい上がっていますが、政治のほうは下がり続けています。

町田 その通りです。指標のうち、調査開始以来、教育と健康は両方ともずっと100位以内で、とくに健康は1位の時(2017年他)もありました。

先ほど「主夫」という話が出ましたが、男性も好きなライフスタイルを選べるよう、一緒に声を上げていくことが大切です。各国がこれだけスピード感を持ってやっている時に、日本が自然体で進めていると、さらに落ちるかもしれません。

後藤 そうですよね。日本はインドに大きく離されてしまいました。

町田 私は男女の能力差というより、女性の不安感が大きいと考えています。それを解決するためにも、エンパワーメントは重要ですね。実際、うちの編集や事業系の女性には裁量権を持って活躍している人も多いので、「女性だから」という引け目はあまり感じられません。

もちろん、男性でも女性でも失敗はあります。しかし、最初から「自分には無理」と可能性を縛る必要はないよ、という社会にしなければいけないし、会社はそうする責任があると思います。

工藤 女性もそれを堂々とやるような実力をつけていくということですよね。

岩波 少しだけ私の話もさせていただくと、これだけ活躍されている方がいるのに、女性で慶應義塾の常任理事になったのは私が最初でした。それは、ある意味アファーマティブ・アクションだったのかもしれません。

もちろん失敗もありましたし、今でもいろいろ課題はありますが、なる前の評価ではなく、なってからが勝負だと思っています。タイミングを見計らいながらコンセンサスを形成していくのは、もしかすると女性のほうが向いているのかもしれません。

後藤 それはありますよね。

岩波 トップダウンで何か決めることも場面によっては重要ですが、皆で考えを出し合いながら良い方向性を見つけていくというチーム・マネジメントは、女性のほうが得意かもしれない、と思いながら日々業務に取り組んでいます。

必要となる多様性が生み出す力

岩波 世の男性たち、特に40歳より上の人たちに対して何かメッセージというか、望むところはありますか。

大谷 見ていると多様性が生み出す力、価値を信じていない人も多いように思うのです。そういう経験をしたことがないのかもしれませんが、違う意見の人、違う性別の人、違う価値観の人が合わさった時に生まれてくるアイデアは全然違うんですよね。

自分と似たような考えを持っている人ではなく、まったく違うバックグラウンドの人に入ってもらった時に「ああ、呼んで良かった」と思うようなことはいっぱいあります。

皆が性別に限らずいろいろな価値観を越えた、多様性から生まれてくる価値を肯定してくれればいいのですが、今はあまり信じられていない気がして残念に思います。

後藤 「なんでそんな回り道をしなくちゃいけないんですか? 阿吽(あうん)の呼吸で進んだら早いのに」と言う人たちはよくいますよね。

大谷 そうなんです。しかし、自分の経験だと、そうやって時間をかけて磨いたアイデアで進んだほうが、すごくいい結果が出るんです。

後藤 事前によく揉むからですよね。多方面から「それは違うじゃないか」といろいろな意見があって、その結果としてできたものは、すごく良くて、しかも強いものができる。

岩波 ジェンダーに限らず、企業が成長し、日本社会が強くなっていくためには、多様性をもっと前面に押し出していかなければいけないと思います。

町田 マーケットはグローバル化し、人々のライフスタイルや考え方、嗜好も多様化しています。その中で企業は潜在需要を見出して商品やサービスを提供し、ビジネスをしていかなければならない。多様で急激な市場変化に迅速かつ柔軟に対応することが求められる以上、ダイバーシティの実現によるイノベーションをはからなければ、企業が本当の意味で勝ち残っていくことは、難しいと思います。

それをまさに「自分ごと」として、戦略として、加速していく企業が増えていかないといけません。

工藤 大量消費時代は例えば、家電を売るなどの競争で、競争相手も見え勝ち負けもわかりやすい世界だったと思います。でも、今は業種・業界をまたぐ競争で相手も見えず、目標も不明確、競争すべき内容が多岐にわたり、ビジネスモデルの変革が必要になっている。そんな時代には、様々な視点を持ったより多くの人と取り組むことでアイデアが生まれてくるのだと思います。

後藤 30%Clubに入ってくださっているようなトップの方々は、皆、それを肌身にしみて感じています。グローバルな会社が多いので、世界で勝負するにはダイバーシティをしていないと太刀打ちができません、という強い気持ちをお持ちです。

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