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【特集:ジェンダー・ギャップに立ち向かう】
女性政治リーダーをどう増やすのか――女性の意欲を削ぐ男性社会にメスを

2020/04/06

動機を掘り下げる

女性の動機についても踏み込んだ分析が必要だ。なぜ、女性はモチベーションが低いと(男性からは)見えるのだろうか。女性がほとんどいない分野では男性中心の文化、規範、慣行が出来上がり、男性だけのホモソーシャルなネットワークで情報交換や意思決定がなされる。その中の住人にとっては、その世界から自分の能力や貢献が認められることで承認欲求が満たされる。しかし、この輪に入っていない女性は、しばしば「女性として」評価される。「女のくせに」とか「女性ならでは」といった具合に、女性であることが能力評価の基準の1つに加えられる。男性の能力評価方法が「標準」として捉えられ、女性の能力や貢献は例外的に扱われるからだ。

そのような男性社会からの評価に、女性たちは葛藤を抱え、理不尽さを感じる。地位が上がることは、男性にとっては大きな名誉かもしれないが、女性にとっては女性を捨てたから得たものかもしれないし、逆に女性だからこそ特別扱いされたのかもしれない。高い地位を得たとしても、男性社会の正規メンバーになれるわけではないし、その地位は女性たちのネットワークでは価値を持たないかもしれない。

男性から見ればモチベーションが低いように見える女性たちは、こうした葛藤を抱えている。意欲が足りないように思えるのは、女性の問題ではなく、男性社会が女性を正当に評価していないことに起因する。

政治は典型的な男性社会だが、あえて政治をめざす女性はどのような「モチベーション」を持っているのだろうか。立候補に至る動機を掘り下げていくと、女性は男性と比べて名誉欲や権力欲が少なく、むしろ実現したい政策があるからとか、地域をより良くしたいからといった動機に突き動かされることが多いとわかっている。

今の権力秩序を維持するためではなく、生きづらさを抱えている人を少しでも減らすような政治を志す女性に、私自身も数多く出会ってきた。政治のイメージ転換を図り、社会を良くしたいと思う動機を見つめ直せば、自分のこれまでの経験が持つ価値に気づき、それを政治に活かす道筋が見えてくる。こうした個人的な動機を掘り下げることを共同作業で行い、立候補に向けての志を固め、また自信をつけることが女性政治リーダー養成セミナーの役割の1つである。

文化の刷新に向けて

モチベーションにまつわる男女差を理解することは、男性社会の見直しにもつながっていく。女性はこれまでの住人とは異なる動機や目的を持った「異物」なのかもしれない。しかし、異物が参入することで、非合理的あるいは性差別的な慣行が可視化される契機となる。もちろん、そうした「異物」の侵入を快く思わない旧住民からの抵抗、抑圧、排斥、懐柔も起きるだろう。政治に限らず、あらゆる組織において、同様のことが起きているだろう。

したがって、指導的地位に女性を増やすということは簡単ではない。本当に女性が男性と肩を並べるなら、それまでの男性社会は変わらざるを得ないからだ。そうでない限り、女性登用というのはせいぜい2割から3割弱で頭打ちになってしまう。そのレベルで止まるなら、男性は女性よりも優越的地位にある感覚を持ち続けることができるだろう。つまりは、指導的地位にある女性が3割にも満たない組織は、旧態依然とした男性中心の組織文化に支配されていると言える。政治はその典型例だ。

女性リーダーを増やすことは、組織文化の変革と表裏一体の関係にある。女性議員を増やすことは、男性中心の政治を変えていくことにつながる。いや、旧来の政治文化を変えるために、もっと女性が指導的地位に就く必要があるのだ。男性社会からはみ出した女性やマイノリティは、現状維持よりも改革を志向する可能性が高く、これまで周辺化されてきた問題への取り組みを推し進めることになる。

だからこそ、女性登用への抵抗は強い。しかし、それを達成しなければ、日本の政治も社会も発展が止まり、停滞と閉塞に包まれるだろう。それは私たちの望む未来ではないはずだ。

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