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【特集:ポピュリズムをどう捉えるか】
座談会:デモクラシーの変容をポピュリズムから読み解く

2020/02/05

「外国人人口」の違い

吉田 構造的にはお二方の指摘通りだと思いますが、状況的に見ると、90年代に入ってから日本では有権者の脱編成が進んだものの、有権者意識は中道で安定しています。さらに日本のエリートは、欧米のエリートと比べて決してリベラルではなく、むしろ保守的なエリートのほうが多い。そうすると、それに対するアンチテーゼとしてのポピュリズムの出方も変わってくることになります。

もう1つ状況的なことを言えば、今の安倍自民党政権は―僕は安倍首相がポピュリストとは定義しませんが、少なくとも経済では保護主義的、社会文化的には権威主義という、欧米型のポピュリストが占めている位置にいるため、そこにアウトサイダーが参入する余地がありません。それがトランプ型、ルペン型のポピュリズムが日本に見られないことの1つの理由でしょう。

岡山 金成隆一さんの『トランプ王国』を読んでみると、アメリカの「いろいろなものを剥奪された」と感じている労働者というのは、日本で言う「マイルドヤンキー」の人たちとちょっとノリが似ている感じがするのです。地元が大好き、昔からの友達が大好きで、ずっと地元に留まって結婚して、地元のスポーツチームを応援する。

しかし、彼らがトランプ支持者になるような精神性を持っているかというと、それはないような気がします。


吉田
 精神科医の斎藤環さんが、安倍政治を支持しているのはマイルドヤンキーだ、と以前言っていましたね。


水島
 日本の場合、外国人人口が総人口の2%程度で、ヨーロッパと比べたら全然違うわけですよ。日本は人においても、経済においてもバリアをしっかり張っていて、2019年からの改正入管法施行で単純技能労働者が30数万人入ってくることになったにもかかわらず、今もほとんど入ってきていないわけですよね。

実際に日本に入ってきている外国人の多くは、何らかの形で労働市場に組み入れられるか、あるいは勉強しているかで、いわゆる福祉ただ乗り的な、ヨーロッパにおける批判の対象になるような形の外国人がいるわけではないのです。その中では、外国人排除を訴えるポピュリズムというのは、少なくとも今の日本で根を下ろすことは当面ないと思います。

稗田 2017年の都議会選挙の時のサーベイでは、自民党の支持者は排外主義が平均よりも有意に高く出ました。だから彼らは反エリート主義ではないのです。エリートを信頼する。人民主権論を信じない。ただ、人々は同質だと思っている。それで排外主義なわけです。

岡山 都民ファースト支持者は外国人、移民の存在をあまり意識していないということですよね。

稗田 全く意識していない。排外主義的傾向はむしろ平均より低いですね。

日本のポピュリズムの芽

吉田 そうすると、日本は安泰という感じがするので、少し挑発的なことを言ってみましょう(笑)。社会学者の橋本健二さんの『新・日本の階級社会』という本の中で年収200万円以下の非正規で、マニュアルワーカー(単純作業労働者)の人たちを「アンダークラス」と呼称しています。彼らの意識を調査すると、3割ぐらいが排外主義的かつ再分配志向です。

そういう人たちが今後、もし増えていくのだとすれば、やはり欧米型のポピュリズムが日本でも生起する可能性はあるということになる。移民の数や、金融資本のグローバル化の度合いは、日本は低いけれども、先ほど言ったように剥奪感は相対的なもので、在特会みたいなものがある程度の訴求力を持つ可能性はあります。

実際に、昨年には留学生の親が来て、彼らに医療を受けさせると健康保険が使えるという、欧州でいう「福祉ツーリズム」論が地方議会で問題視されました。福祉ただ乗りを政治争点化しようと思っている人たちがいるわけです。だから日本にもその芽がないかというと、そうでもないと思う。

福祉排外主義がなぜ効くかというと、福祉の受給権こそが国民国家の肝だからです。だからナショナリズムと相性がいい。日本の「社会保障ただ乗り論」はまさにそこを狙った話でしょう。「われわれの税金が」という話ですね。


岡山
 日本の場合、排外と言う時に一つ問題になり得るのは在日コリアンの人たちですね。彼らが特権を持っているかのように吹聴する人がいて、それに乗せられる人がある程度いる。


稗田
 橋本健二さんの言われる「アンダークラス」の人たちというのは、現状では選挙に行かないわけです。圧倒的に棄権のはずで、われわれの調査でも、棄権者には、既存の政治家に対して信頼が低かったり、議会制民主主義に対して信頼が低かったり、排外主義が強いという特徴がみられる。

この人たちは多元主義に対しても信頼は低いのですが、政治家ではない専門家が政治的決定をやってくれたほうがいいという傾向はみられる。ある意味、カリスマ的なリーダーが排外主義を煽ってくれたら乗るかもしれないというところがあります。


吉田
 ポピュリスト支持者が棄権常習者というのはすごく大事な点です。ポピュリズムの定義にもう1つ付け加えるとしたら、普段はあまり政治的関心がない、あるいは選挙にそもそも参加しないような人たちを「政治的に覚醒化する」というものになるでしょう。そこがポピュリスト政治家の貯水池になる。

政治的な無関心層、あるいは政治そのものが遠いものに感じられている人を原動力に、その伸びしろを上手に動員できた人たちをポピュリストと呼ぶべきかもしれません。


水島
 まさに、2019年参議院選挙では、「れいわ新選組」も主要メディアがほとんど扱わなかったにもかかわらず、相当盛り上がりを見せて、それが既存の政治や経済に痛めつけられていると思っている人々の心を摑んだところがある。

「N国」(NHKから国民を守る党)も、ある意味で「れいわ」の合わせ鏡みたいな存在です。N国の場合は、逆にNHKなるものを一種の既得権益として批判している。若い人に聞くと、N国は支持しないけれど言いたいことは分かります、みたいなことを言う人が多かった。おっしゃるように、日本の場合は全体としては少数であっても、様々な形での既存の秩序への異議申立てはあるし、それを支持する人はいると思いますね。


稗田
 「れいわ」に支持が集まる、つまり左派ポピュリストの可能性のほうが日本ではあるかなと思います。というのも、共産党を支持している人たちは反エリート主義で、人民主権論的なんですよね。たぶん今回れいわに流れたのも、かつて立憲民主党に投票した人か、共産党に投票していた人の可能性がある。

そういった既存エリートに対する不信を持っていて、人民の意思こそが反映されるべきであると考えている人たちが、何かのきっかけで着火すれば、大きな爆発力はあるかもしれないなという気がします。

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