【特集:ポピュリズムをどう捉えるか】
左派ポピュリズムの理論と若干の展望
2020/02/05

1 左のポピュリズム?
最初にこのかんの政治情況を振り返ることからはじめよう。まず、2016年の米大統領選および英国のブレグジットにかんする国民投票、ハンガリーのオルバーン政権に代表されるような、欧米や南米における排外主義的な傾向をもつ「右派ポピュリズム」の伸長がある。これらは総じて、権威主義的な傾向をもち、移民を敵視する言説を展開することによって支持を調達することに成功したといえる。他方で、昨今の新自由主義的な緊縮政策に反対し、より公正な再分配を訴える「左派ポピュリズム」として、ギリシャの急進左派連合(シリザ)やスペインの「ポデモス」をはじめ、イギリス労働党のコービン、不服従のフランスのメランション、さらにアメリカのサンダース、そしてオカシオコルテスらの動向が注目されてきた。新自由主義のあとに生まれた政治的空白に、左-右のポピュリズムが飛び込んだかたちだ。このような局面において、幸か不幸か、「ポピュリズム」が現代政治のキーワードであることはまちがいない。
一般に「ポピュリズム」といえば、大衆にあることないこと吹聴し、国民を扇動する大衆迎合主義であるとか、あるいはマイノリティをスケープゴートにし、排外主義的な言説を振りまく右派的な言説が想起されるかもしれない。しかし先の例にも挙げたように「ポピュリズム=右派」という図式は必ずしも正確ではない。19世紀の米国に現れた元祖ポピュリズム政党である「人民党」がそうであったように、ポピュリズムとはもともと、弱い立場の「人々」に味方し、エリートや既得権益層に対抗する、そのような勢力でもあったはずだ。その意味でポピュリズムとは左派的な伝統とも深く関係しており、さらに言えば民主主義とも完全に切り離せないものだ。そして、ポピュリズムをこのような伝統に位置付けて引き受けようとする勢力が「左派ポピュリズム」である。
2020年2月号
【特集:ポピュリズムをどう捉えるか】
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山本 圭(やまもと けい)
立命館大学法学部准教授