三田評論ONLINE

【特集:ポピュリズムをどう捉えるか】
座談会:デモクラシーの変容をポピュリズムから読み解く

2020/02/05

  • 水島 治郎(みずしま じろう)

    千葉大学法政経学部教授。1999年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。2003年千葉大学法経学部助教授等を経て現職。専門はオランダ政治史、比較政治等。父は本塾工学部元教授、故水島三知氏。著書に『反転する福祉国家──オランダモデルの光と影』『ポピュリズムとは何か』等。
  • 稗田 健志(ひえだ たけし)

    大阪市立大学大学院法学研究科教授。2000年一橋大学社会学部卒業。10年欧州大学院大学政治社会学部博士課程修了(政治社会学博士)。株式会社NTTデータ、早稲田大学助教等を経て、16年より現職。専門は比較政治経済学、比較福祉国家論等。著書に『政治学の第一歩』(共著)等。
  • 吉田 徹(よしだ とおる)

    北海道大学大学院法学研究科教授。塾員(1997政)。2005年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学術博士。06年北海道大学大学院法学研究科助教授を経て15年より現職。専門は比較政治、ヨーロッパ政治。著書に『ポピュリズムを考える』『現代政治のリーダーシップ』(共編著)等。
  • 岡山 裕(司会)(おかやま ひろし)

    慶應義塾大学法学部教授。1995年東京大学法学部卒業。博士(法学)。専門はアメリカ政治・政治史。東京大学大学院総合文化研究科助教授を経て2007年慶應義塾大学法学部准教授。11年より現職。著書にJudicializing the Administrative State、『アメリカの政治』(共編著)等。

ポピュリズムという現象

岡山 今日は「ポピュリズム」をテーマに、専門的に研究されてきた皆様にお集まりいただきました。近年、トランプ大統領の登場ですとか、ヨーロッパではその前から実際にポピュリズム的な政党の躍進があったり、またブレグジットに影響を与えたり、と「ポピュリズム」という言葉がメディアなどで使われる場面も多いかと思います。

私はポピュリズムの専門家ではないのですが、この「ポピュリズム」という語は、メディアなどでも様々な意味で使われてきたということもあり、どのように捉えたらよいか、なかなか難しい面があるかと思います。この座談会で少しでも読者の理解をお手伝いできればよいなと思っております。

皆さんの中では吉田さんが2011年に出された『ポピュリズムを考える』という本で取り上げられたのが初めでしょうか。

吉田 1990年代の学部生の時、政治学の教科書の中に、「ポピュリズム」という項目があり、そこには、ポピュラーとか、ポピュラリズムとは違うなど、意味不明な説明しかなかったんですね。それ以来、ポピュリズムという言葉にひっかかっていました。

私が専門のフランス政治では、サルコジが2007年に大統領になり、他国でもイタリアのベルルスコーニ第三次政権で、日本の小泉旋風がありました。それらが総じてポピュリストと呼ばれていました。そのタイミングで、あらためてポピュリズムとは何なのかを考えたのが、『ポピュリズムを考える』という本の執筆につながりました。

水島 私は専門がヨーロッパ政治で、中でもオランダを専門としているんですが、オランダは20世紀には安定的なデモクラシーで知られ、政治学でもいわゆる多極共存型デモクラシーの一種のモデルとされてきました。ところが、それが1990年代にだんだん変調を来してきたんです。

オランダの場合、大連合政権が常態で、比較的、異なる勢力が妥協と協調を繰り返して上手くマネジメントしていく、良き伝統があったのですが、次第にそれが無党派層から批判にさらされるようになってきた。そして2002年に、反移民と反既成政党を掲げるフォルタインという人物が率いる新党が、いきなり第二党に躍進したのです。それ以後、オランダは急速に反移民・反難民政策を取り入れ、政治も変容していきます。しかもそれが2000年代を通じて他国にも波及し、2010年代にはヨーロッパの大国にも波及していきました。

この現象を何と捉えるべきか。当初、私はポピュリズムという言葉にはそれほど馴染みがなかったのですが、この現象は右でもないし、左でもないし、既存のイデオロギーとも違う。そうすると、やはりポピュリズムという言葉が最も妥当するだろうと考え、ポピュリズムに関心を持ったわけです。

2014年のヨーロッパ議会選挙では、英仏でポピュリズム系の政党が第一党となった。これはヨーロッパ全体の現象ではないかと思ったところへ、中公新書の編集部からお勧めがあって、『ポピュリズムとは何か』を書いたんです。
当初、「リベラルの困難さ」というテーマでいかがでしょう、と言われたのですが、現代の欧州で起きているのはもう一段深い現象ではないかと思いました。その根にあるのはポピュリズムの台頭と、それに伴うデモクラシーの変容ではないか、と。

岡山 稗田さんの場合は、前のお二人と関わり方が少し違いますね。

稗田 2010年に博論を終えた頃、ヨーロッパの政党システムがこれまでの左右対立から多次元的な競争に変わってきたという話がずっとされていたんですね。再分配の規模をめぐって左と右の政党が競争する形から、移民や同性婚の問題とか、むしろ社会文化軸が中心になってきているのではないかと言われ始めていました。僕はもともと福祉国家論を専攻としているので、そのことがどう福祉政策に影響するのかという研究を始めたのです。

その中で、ポピュリスト急進右派政党というのは典型的な権威主義の立場の政党でしたので、どうしてこういう政党を支持するのか、どういう人が支持しているのかと、漠然とした疑問を持っていました。すると、たまたま2017年の日本政治学会の分科会で、ヨーロッパのポピュリスト政党支持層の分析について報告を頼まれ、研究を発表しました。

そして、これも偶然ですが、ちょうど2017年に「都民ファーストの会」が出てきてその分析をすることになりました。一緒に研究をやることになった善教将大さんはポピュリスト政党と言われてきた大阪維新の会の支持層の分析をしていたので、東京にもポピュリスト政党が現れてきそうだということで、それを支持するのはどういう人なのだろうかと分析してみたのです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事