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【特集:ポピュリズムをどう捉えるか】
左派ポピュリズムの理論と若干の展望

2020/02/05

3 左派ポピュリズムの苦境

さて、民主主義の回復と公正な富の再分配を求める左派ポピュリズムであるが、現実政治をみるとかなりの苦戦を強いられているのが実際である。まず2015年に政権をとったことで、左派ポピュリズムの時代の幕開けを予感させたギリシャの急進左派連合(シリザ)は2019年の総選挙で敗れ、第二党へと転落した。また同じく2015年の総選挙で躍進したスペインのポデモスも、最近連立政権入りを果たしたとはいえ、いっときほどの勢いは見られない。さらに、ジェレミー・コービン率いる英国の労働党はこのかんモメンタム運動との結びつきが注目されていたが、2019年末の選挙で保守党に大敗したことも記憶に新しい。

このように左派ポピュリズムは、その理論が高らかに宣うほどには、うまく人々の支持を獲得できていない。いくつかの欧米の国では極右政党がさらに勢いを増すところもあり、左派ポピュリズムは以前ほどの存在感を示せていないのだ。この理由はいくつか考えられるが、なかでも1つ挙げておくとすれば、左派ポピュリズムの提示するビジョンが、きわめて〝常識的なもの〟にとどまっていることがあるだろう。たとえば先の英国の選挙では、保守党が“Get Brexit Done” という明快かつ空虚なスローガンを中心に選挙運動を展開したのに対し、労働党のコービンは離脱問題に「中立的」な立場をとった。つまり労働党は、現政権に対する十分なオルテナティヴを示すことに失敗していたのだ。

だが、コービンの敗北によって左派ポピュリズム戦略に「それみたことか」と嘲笑するような論調もあるが、これについては別の見方もできると言っておこう。つまり、左派ポピュリズム陣営の問題は、それが左派ポピュリズムであるからではなく、それが「十分に左派ポピュリズム的でないから敗北した」としたらどうだろうか? 各国の選挙結果についてより詳細な分析が求められようが、左派ポピュリズムが戦略的に無効になったと結論付けるにはいささか尚早だろう。

さしあたり、2020年に予定される米大統領選における、バーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンらがどれだけ支持を広げるかが分水嶺になりそうだ。日本で言えば、昨年の参議院選では2議席を獲得した「れいわ新選組」が欧米の左派ポピュリズムの立場に近いといわれるが、今後さらなる支持を広げていくのかどうか、その動向を注目したい。

※本稿は拙著『アンタゴニズムス──ポピュリズム〈以降〉の民主主義』(共和国、近刊)にもとづいたものである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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