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【特集:「在宅ケア」を考える】
座談会: 高齢社会を支える「在宅ケア」の時代

2019/12/05

在宅ケアの可能性

永田 これからの在宅ケアの可能性について、ご自身の分野で、一歩進んでこんなことができたら、というような展望を最後にお話しいただければと思います。

岩本 これからやりたいと思っていることは2つあります。1つは、ケアのことや事例検討などにおいては、基本的にケアを提供する側の人たちばかりが議論しています。提供される側、当事者の人たちこそ常にその議論の場にいるべきだと思っているのです。

だから、事例検討会という自分たちの勉強会に、ご自分の事例検討をやりませんか、と言って、その当事者とご家族を呼んだのですが、これがすごくよかったんです。家族も、本人も、そこに今、実際に介入しているチームも全員でやりましたが、ご本人が、この時自分はこう思った、家族は実はこんなことを思っていたんだ、と分かります。そもそも自分のケアのことを検討されるのに当事者自身が議論に参加していないのが不思議で、それを普通のことにしたいと思っています。

もう1つ、在宅ケアの成果はすごく見えづらいので、報酬も何につけたらよいか分かりづらい。多職種が関わっているので、効果としていろいろな要素があると思いますが、定量的なデータは絶対に必要だと思います。

なぜなら、とてもいい介入、いいチームワークで成果が出た、ということが、ナレッジベースではたくさんあるからです。でも、それは体験した人しか知らないので、これから本当にそのサービスが必要な人には届いていない。それがすごく残念です。今、その定量的な成果を測ることに取り組んでいます。

永田 ナレッジベースということに関しては、大学としてもやらなければいけないことがいろいろありますね。

金山 ケアというのはすごく広いと思っていて、専門職同士で連携し合うのがまず大前提ですが、そこから先にいかにつなげられるか。ファーストコンタクトを取るのは商店の人だったり郵便局の人だったりしますが、そういった人たちと、もっとつながることはできないだろうか、と思っています。

地元のコンサルをやっている友達に、生産価値もないようなお年寄りや障害者を税金を使って支えることに意味があるんだろうか、と言われたことがあります。これが僕の原点です。自分たちの仕事は何なのだろうといつも考えます。僕が現場で出会っている本人たちの存在まで否定された感じがして、何か一緒にできることはないかといつも模索しています。もっともっと多様な現場に出たいと思っています。

また現在進行形の取り組みとして、介護福祉分野で研究を積み重ねる土壌をつくりたい。本人の自立生活や尊厳の支援が職人技ではなく、全国で行われるためには医療が歩んできたように現場ケアの研究が大事だと思うからです。

渡邊 先ほども言いましたが、在宅の高齢者は誤嚥する方が大勢いるので、言語聴覚士(ST)の養成は急務だと思っています。在宅のリハビリは、今まで理学療法士がやっていた。動かない手を動かすとか、歩けない足をなんとか歩けるようにするというイメージでしたが、これからはどう考えてもSTが在宅に出るべきです。

徳洲会は今、STを在宅に回しましょうという取り組みをしています。ただ、そもそもの資源が少ないので、田舎では特に厳しい。ニーズにまったくマッチしていません。

STというのはPTやOTから40年も経ってから国家試験が始まりました。STの歴史は介護保険の歴史と同じですので、そもそもの数が少ないのです。そして、実は医師でもSTがやっている仕事の概念をよく知らない方が多い。STを世に出すというのが、今の私のタスクです。

 病院の中では医者は医者の仕事だけをしていれば済む。ところが、在宅へ行くと、看護師やリハビリの方など、皆さんがどんなことをやっていて、何ができるのか、初めて知ることができます。まずその知識を持たなければいけないと思う。

独立した在宅医学講座というのはまだ医学部にはなく、国家試験にもわずかしか出ない。この分野では看護が一番進んでいます。国民も医者も、とにかく病院が医療だと洗脳されてきたので、病院で働いている人のほうが偉いと思い、在宅は、誰でもできることをやっていると見られていました。

しかし、そういう発想をもう変えなければいけない時代です。病院医療は、今後もなければいけませんが、急性期医療、集中治療、先端医療に特化し、プライマリケアは病院外でやるものだと、国民と専門職全体が変わらなければいけないと思います。

そのために、やはり1つはエビデンスの蓄積を在宅ケア学会でぜひ発表していきたいと思います。

もう1つは、新しいテクノロジーです。実は在宅療養支援診療所という専門診療所の数は頭打ちなのです。また、介護人材もそれほど増えるとは思えない。やはりこれからは介護ロボットとかICTとかAIとか、日本の得意な分野をもっと活用していただきたい。これは完全に医療の専門外の方々、工学系の方々やビジネス分野の方々が入ってこないと広がらないと思います。

最近はこれから日本の後を追って超高齢化を控える国々に、日本の在宅ケアも非常に注目されていて、中国や台湾や韓国の方が、よく見学に来ますよね。ですから、高齢化を逆手にとって世界に発信し、売り出す。そのための在宅ケアの「メイド・イン・ジャパンモデル」を皆さんと一緒につくっていきたい。それが僕の夢です。

私は30年やってきましたが、皆さんのように若い方々が出てきていることに期待しています。

永田 地球規模に目を向けた夢のあるお話をいただきました。そのためにもエビデンスを蓄積し、提供者だけではなくて、サービスを利用する側、住民全体が在宅ケアについて身近に考えることが大事になってくるのでしょう。

次は自分が利用者になっているかもしれないという視点で、フラットに在宅ケアについて話し合うこともとても大事ではないかと思いました。

是非、今日ご参加の皆様には、さらにご活躍いただければと思います。今日はどうも有り難うございました。

(2019年10月18日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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