三田評論ONLINE

【特集:「在宅ケア」を考える】
座談会: 高齢社会を支える「在宅ケア」の時代

2019/12/05

誰のための介護か

金山 介護保険制度が始まってから2007年ぐらいまでは介護も質を重視していたように思いますが、リーマンショックぐらいから量が重視されるようになってきていると思います。今、予算的にも頭数を増やすために、新任者をどんどん入れているのです。

それはそれで必要ですが、ミドルマネジャーが育っていないところに、学歴も年齢も違う新しい人、それこそ外国人の方も入ってくるので、そういう人たちをマネジメントするのは非常に困難です。そして事業所からマネジメントができる人が抜けてしまうと、介護のことをよく分からない新任者が介護している状態になる。

「介護離職ゼロ」の政策が言われたぐらいから、本人のことよりも家族の介護負担を減らす方向に流れているのを、すごく感じています。傾向として一番分かりやすいのは、デイサービスの利用がすごく増えている。訪問介護とか訪問看護より、デイサービスで1日預けているほうが家族も安心だと。

岩本 自分の時間も取れるし。

金山 そうです。ケアマネジャーもそういう状態です。紹介される時も週7でデイサービスとかあるんです。

岩本 すごいですね。

金山 独居なら、まだ分からなくはないけれど、家族のニーズによってそうなっている。ネットを見ると、「こういうふうに使えるよ」とか介護保険が財テクみたいになっていますよね。

介護側も事業所として出来高を増やすために、たくさんサービスを入れたほうがよいというインセンティブが働くので、サービスは増やせても、減らすことはなかなかしない。

そういった事情もあり、本人のためとか、専門職としてのケアがやりにくくなっていることを実感しています。

永田 本来、介護保険というのは自立支援のはずなのに、ニーズに応えるということが求められ、そのニーズも利用者の本当のニーズなのか、よく分からないものが増えてしまっているのかもしれませんね。

 確かにデイサービスを利用されている方も多いので、訪問診療する日が限られますね。昔は、カレンダーを見ると「医者が来る日」しか書いていなかった(笑)。

おっしゃる通り、ご家族の要望通りにサービスを入れられるだけ入れてしまって、リハビリのようなちゃんとした目標に基づいて行うという発想が、看護や昔からの福祉の方にはあまりない場合も多い。実は医者もあまりなくて、もうよくなったから頻繁に来なくていいよねとは言わない。

僕は、医者はそんなに訪問しなくてもいいのではないかと思っています。それよりも看護師さんやリハビリの方に行ってもらったほうがいい。

でも、逆にこんなにリハビリ入っていなくていいよ、という例もありますね。元気に家の中を歩いているけれど、週3日リハビリが入っているとか。

永田 お守りみたいになってしまっているところがありますよね。

 お薬と同じで、いくらでも増えればいいとなると問題が出てくる。サービスと薬と治療は言われるままに出していると増えてしまうものなのです。やはり厳密に評価するというのが研究者の、在宅ケア学会などの1つの役割だと思います。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事