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【特集:「在宅ケア」を考える】
座談会: 高齢社会を支える「在宅ケア」の時代

2019/12/05

「在宅医療」はどこまで可能か

金山 医療の人たちに伺いたいのですが、今の日本はインフラ的な課題がクリアできれば、どんな状態の人でも在宅で暮らせるのでしょうか。

岩本 在宅でできることはすごく増えています。クリニックさんによりますが、最近うちでは輸血をすることもあります。抗がん剤も普通に外来通院しながら、ぶら下げて帰ってきたりしています。集中治療とオペ以外は、本人と家族の同意のもとであれば、ある程度はできると思います。

ただ、白血病など血液系の疾患の方を家に帰すのはまだ難しいことが多いし、小児がんは在宅側の受け入れ先がすごく少ない。

金山 高齢者に関して言うと、病院は在宅の資源が分からないということもあるし、ケアマネジャーや我々も入院したら病院任せで、退院の目処が立つまで関心が低くなるセクショナリズムがあり、在宅生活再開の1つの障害になっていると思います。そっちのことは分からないからという感じです。

永田 病院の医師やナースは、病院のようにちゃんとした状態でないと心配で、「この状態で帰って大丈夫なのか」とか、「病院と同じようなケアや医療ができないと駄目なのではないか」という思考になりがちです。「本当は大丈夫なんだ」ということがだんだん分かってくると、もう少し敷居が低くなってくるのかと思います。

岩本 訪問看護師同士で「病院の看護師さんって本当に分かってないよね。なんでもっと早く帰せないの」という愚痴を聞くことがあります。でも、「在宅で働いたことがなければ、分かるわけがないじゃん」と僕は思うんです。

これは夢なのですが、僕らが病棟に「こんにちは」と行って、「この人、帰れます、この人、帰れません」と定期的にコンサルテーションをするラウンドをしてみたい。

永田 それをやっている病院も出てきていると思います。

渡邊 病院はどこまで整えて帰したらいいのかということですよね。逆に病院側は整ったと思って帰しているけれど、まだ全然ということがあります。家に手すりが付いたので帰ったというから、見に行ったらバスタオルを掛ける吸盤のものだったり(笑)。

永田 でも、とりあえず帰しながら、ちょっと調整してという場合もあるのかなと思うのです。

渡邊 リハビリ的な視点でいくと、事前に訪問して家をチェックしてから帰していますが、それだけで終わっているところがほとんどです。

そんなところになぜベッドを置いてしまったの、ということもあります。「麻痺している側を壁側にして、どうするんですか」って。ですから、私たちは基本、訪問リハビリを必ず入れるということで家に帰します。

永田 病院からの退院直後の移行期をしっかりと支える。そうするとその後は何とかなるということでしょうか。

渡邊 リハ的には何とかなります。あとはお任せでいけるので、最初の1週間、帰ったその週にいかに訪問するかが大事です。

自立を促すケアとは

岩本 うちは「訪問看護を卒業する」ということをすごく大事にしているのです。もちろん物理的に卒業できない人もいますが、長期ケアなので一生看護しなければいけないというイメージを持たれている気がするのです。

渡邊 そう思っている訪問看護師さんがたくさんいますね。

岩本 でも、介護報酬とか診療報酬は社会保障費からもらっているわけですよね。次のサポーターに移していくとか、地域の人につなげていけば、訪問看護は要らないかもしれない。

自立できるような人にも「安心だから」と行き続けたら、税金や保険料はもったいないし、本人の健康を阻害することにもなりかねません。ですから、卒業できる人は卒業しよう。退院直後は手厚くして、減らせるならば減らす。そうやって福祉につなげたり、地域の方や資源、本人のセルフケアを高めることなどを上手く行いながら、自分でできることを増やしていくべきだと思うのです。

渡邊 リハ単独では現実的に人員が少ないのです。私のような理学療法士(PT)は15万人。作業療法士(OT)が7万人です。でも、今もっとも在宅で必要とされているのは言語聴覚士(ST)なんです。

在宅の高齢者は誤嚥する方が大勢います。だからSTの介入が必要なんですが、STは3万人しかいません。しかもそのうちの3000人は働いていません。ですので、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など難病の方以外は基本的には期限を切って、変化があった時にもう一度オーダーしてください、としないと回りきれない。当然、地方に行けば状況はより深刻です。

永田 人的資源を上手に使うという考えはすごく大事なことだと思います。ただ、訪問看護ステーションの方の中には長くお付き合いするのをよし、とするところもあって、現場でもそのあたりは難しいところだと感じます。

岩本 評価が分かりづらいのですね。ケアに介入して、その評価のポイントをどう見るのか。看護というのは社会的な要請で入るケースもあるので、「具体的にどこがよくなった」と示していくことは難しい。だから多職種のチームでディスカッションして、プランを適宜変えていくことが望ましいと思っています。

高齢者だと老いもありますし、肉体的な機能が持ち上がるのはなかなか難しいけれど、社会的な意味で引き出しが増えたり、びっくりするぐらい社会的・心理的な健康面が変わることもあるので、それに合わせてケアを「引いていく」ことができればいいと思います。それも本人や家族と、目標やケア内容、できるようになったことなどを相談しながら、一緒にやっていく感じでしょうか。

金山 すごく理想的なケアをされているように感じます。その要にケアマネジャーがいると思いますが、ケアマネジャーは本人の自立のために、できるならばケアを差し引いていこうという視点は持っていると感じますか。

岩本 精神障害を持つ方へのケアマネジメントを中心に行う人たちはすごく上手だと思います。プランを自立の変化に合わせて上手く意図して変えていきます。

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