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【特集:「在宅ケア」を考える】
座談会: 高齢社会を支える「在宅ケア」の時代

2019/12/05

様々な「在宅」の事情

永田 皆様それぞれの立場から伺いましたが、辻さんのところは、どんな患者さんが多いのでしょうか。

 私は老年内科が専門なので、高齢者で、認知症の方が多いのです。やはり認知症と他の病気がある方々が増えています。もう1つ実感しているのは独居の方が多いことです。地方は分かりませんが、東京では、ご家族は一緒に住んでいないのが普通です。

そういう方々のケアをどうやっていくかということに直面しています。

永田 独居の方だと、周りの人から家にいるのが大変だ、と思われたりすることもあると思います。

 独居が無理だと思ったら僕らのほうから言いますが、ご本人が家にいたいと言うことが多いのです。ご家族も本人がそう言うなら、それを尊重したいというスタンスの方が多い。そうするとやるしかない。

30年前は褥瘡(じょくそう)の手当ての仕方とか、膀胱に入っているカテーテルの扱い方といった介護法をナースとともにご家族に指導し、介護を応援する感じでした。ところが、今はご家族がいないので僕らがやりますが、24時間いられるわけではない。でも、ご本人は家にいたいと言う。そのあたりの難しさがありますね。

岩本 私は最近、家族がいるほうが家で過ごすのは大変だな、と思うこともあります。本人は家にいたいと言う。でも、家族がいろいろな出来事に疲れてしまうというケースが多い。一人で暮らしている方は、自由気ままで、家族がいないほうが楽に過ごせることも結構あるなと感じています。

 ああ、そうかもしれませんね。

金山 家族がいると利害関係が複雑なところがあるかもしれませんね。この間、地域ケア会議というところで、こんな事例が出されました。

認知症がある一人暮らしのおじいちゃんが朝いなくなってしまった。ヘルパーさんや隣の人が探しても見つからない。そうしたら夕方ぐらいにフラッと帰ってくる。遠くに住んでいる妹さんは施設に入れたいんですがどうしましょうか、というお題です。

皆、頭を抱えていました。でも私は、「帰ってくるのであれば、別にいいじゃないですか」と言ったのです。徘徊していても夜帰ってくるんだからOK、という発想にどうしてならないのかと思うのです。

今年に入って20回以上保護されている人がいます。文京区から明治神宮まで行って見つかって、パトカーで送ってもらったりしました。お巡りさんに「こういう人、多いですか」と聞くと「毎日いますよ」と。

岩本 お巡りさん、慣れていますよね。

金山 つまり、そういった徘徊する方は地域で十分支えられているのに、「それではいけない」という風潮がすごくおかしいと思うのですね。

岩本 結構近くのお巡りさんと仲良くなりますね。「今、来てお茶、飲んでいるよ」とか(笑)。

永田 警察だけではなくて、地域のお店もそうですよね。

金山 軽い認知症のお金持ちのおばあちゃんがいます。一人で電車に乗れるぐらいの症状で、要介護1です。

そのおばあちゃんが急に化粧をし出したのです。彼氏ができたんですね。年配のおじさんですが、ある日、僕が訪問したら、電話がかかってきて出て行ってしまった。本人の権利を侵害していますが、僕は尾行して、カフェの横で座って話を聞いていました。そうしたらその彼氏は詐欺師なんですよ。

永田 やっぱり。そうかなと思いました。

金山 さて、どうするか。お巡りさんと民生委員さんと町会長さんと家族とでそこら中に包囲網を張った。お巡りさんは最初、「こんな人、早く施設に入れなければ駄目でしょう」と言ったのですが、怒りを抑えて説得したら、「こういう人、増えるから、地域で守らなければね」と言ってくれて、何かあったら必ず連絡して、ということになりました。

そのように何とか地域に支えられて生きている人も多いわけです。

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