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【特集:「在宅ケア」を考える】
ビジネスとしての訪問看護事業とは

2019/12/05

  • 川添 高志(かわぞえ たかし)

    ケアプロ株式会社代表取締役・塾員

今、成長期にある訪問看護事業

訪問看護事業所数は、現在1万カ所程度あり、人口1.2万人の地域に1カ所の計算になる。市場の成長は、次ページ図にあるとおり、平成5(1993)年度からの創造期、平成12年度からの停滞期、平成23年度からの成長期の3つに分けられる。人口減少時代において市場が縮小する業界が多い中で、訪問看護事業は伸びており、さらに2015年までには2倍の訪問看護師が働くことを日本看護協会としては目指している。

訪問看護事業の経営主体は、大企業や医療法人、個人の看護師が立ち上げた法人などがあり、中には訪問看護事業で上場した企業もある。株式会社が、病院を直接経営することはできないが、訪問看護は株式会社が経営できる。訪問介護等は介護保険のみを使うことができるが、訪問看護では医療的ケア児や若い精神疾患やがんの患者もいるため医療保険も使うことができる。このように医療保険を使えるサービスを株式会社が運営できるようにするほど、政府は市場の力を活用している。高齢者数は、2042年から2060年にかけてピークを迎え、今後20年、30年かけて市場が成熟していくため、中長期的な戦略を持って今から投資していくことが求められている。

図 訪問看護事業所数の推移

訪問看護のビジネスモデル

訪問看護利用者は月間60万人おり、大まかにいうと月5回利用し、1回1時間で、1万円(本人負担1千円から3千円)が基本的な構造であり、市場規模は3,600億円程度である。訪問看護事業所1カ所当たりの看護職は常勤換算6名で、1人あたり売上は600万円程度である。事業者によっては、1人あたり売上が1000万円以上のところもある。地方の看護師は車で片道1時間の道のりで1日3件だが、都心の看護師は自転車で片道10分程度の道のりで1日6件のところがある。

どんなビジネスにも先導者がいる。訪問看護に関しては村松静子さんという方だ。私は、看護医療学部1年の時に授業で村松さんの講義を聞いた。村松さんは、病院から退院する患者にボランティアで訪問看護を始めると、後に自費でお金を払う人が出てきた。村松さんが訪問看護を有料で開始したときは、「看護をビジネスにするな」と看護界から非難された。それでも村松さんは患者のニーズに看護は対応していく必要がある、という信念で、訪問看護の事業化を進めていったという。

これに政府も注目し、村松さんらのサービス内容を調査し、公的保険が使えるように制度が整備されていった。今では訪問看護を誰が作ったのかを知る人は少ないが、どの事業においても最初に井戸を掘った人への尊敬を忘れてはいけない。

昨今は、市場環境が変化し、医療的ケア児や精神疾患患者、がん末期の患者の需要が増えている。特に、社会保障財源の制約の中で、病院から退院する人が増え、在宅の受け皿が求められるようになってきている。病院での終末期医療の医療費がかかることと、国民が自分の最期は住みなれた自宅で、と希望していることから、自宅や老人ホーム等の「在宅看取り」が推進されている。そのようなことから私たちは10年、20年かけて、次代の訪問看護事業を創っていく必要がある。

訪問看護の公的財源は、税金や社会保険料から捻出されており、不要なサービス提供はできない。そのため、利用者に必要十分なサービス内容と量を見極めて提供する必要がある。そして、可能であれば、訪問看護が必要ない状態まで自立して訪問看護の利用を終了していただくことが望ましい。現在の診療報酬や介護報酬では明確な成果報酬制度はないが、質の高いサービスを提供することは利用者や家族、連携先の医療機関やケアマネジャーの信頼を得ることにつながる。また、それは働くスタッフのプロとしての誇りになる。

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