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【特集:「在宅ケア」を考える】
ビジネスとしての訪問看護事業とは

2019/12/05

次代の訪問看護の先導者を目指して参入

私は2005年3月に看護医療学部を卒業し、経営コンサルティング会社や大学病院での勤務を経て、2007年12月に「ケアプロ」を起業した。最初は、ワンコイン健診という予防医療サービスから展開した。

そして、2011年3月11日の東日本大震災のボランティアを通じて、「看取り難民」が孤立死する問題に直面し、これは高齢多死社会における日本の縮図ではないかと考えた。在宅医療が普及しなければ、孤立死が増えてしまう。2020年に看取り難民は30万人になると推計されおり、訪問看護師1人あたり年10人を看取るとすると、3万人増やす必要があった。そこで、訪問看護師を増やし、孤立死を防いでいくという志をもって訪問看護事業に参入した。

訪問看護師を増やすための一手

訪問看護業界を分析すると、病院に比べて、看護師の平均年齢が47歳、と10歳以上高いという特徴があった。小児や精神、がん等の様々な疾患・障害を持った患者に1人で訪問するため、経験や技術が必要であり、ベテランでなければ難しいというのが常識であった。

一方で、毎年5.5万人の新卒看護師が生まれる中で、19.6%がいずれは訪問看護等の地域医療に関心を持っていることも明らかになった。大学や看護学校での看護教育のカリキュラムが進化する中で、訪問看護の実習が普及し、関心を持つ学生が多くなっていたのだ。ただ、受け皿となる訪問看護事業者は、教育プログラムや教育予算がないため、新卒の看護師は受け入れていない。つまり、病院で教育してもらった看護師を「仕入れている」という構造であった。

しかし、どの業界においても、産業として自立していくためには、最も重要な経営資源である人材を自前で調達していくことが求められる。そこで、当社では新卒訪問看護師の育成に取り組み、全国で新卒や新人の訪問看護師が3人ずつ増えれば、全国1万カ所の訪問看護事業所で3万人の訪問看護師が増え、看取り難民を防ぐことにつながると考えた。

トヨタが四輪自動車を作った時に、欧米諸国から笑われたが、日本政府の応援もあり、日本の自動車産業は大きく成長して外貨を稼ぐようになった、と聞いたことがある。訪問看護の人材育成についても、ゼロから育成できるノウハウ作りが必要だった。

そこで、ケアプロでは、2013年から新卒採用を始め、これまで12名を育成してきた。1人あたり300万円の投資をして、一人前に育てていく。先輩と一緒に、1日3件程度同行訪問をして、少しずつ、単独訪問できるようにしていく。夜間待機をするようになると、100人以上の患者の中から電話がかかってくる可能性があるため、様々な疾患や状態の患者に対応できる能力が必要になる。大学院で教育を専門に学んだ看護師らとともに、社内でノウハウをまとめ、教科書として出版するまでに至った。

それまで、新卒訪問看護師を採用し、育成することはタブーとされていたが、聖路加国際大学や全国訪問看護事業協会とともに、新卒訪問看護師の育成ガイドラインを作成し、全国の訪問看護事業者等に対するセミナーを行った。

その結果、全国で2013年には年20名程度しか採用されなかった新卒訪問看護師が、2019年は300名以上が採用されている。新卒訪問看護師の採用ができるようになることで、経験年数が浅い既卒の訪問看護師の採用も進んでいる。厚生労働省や自治体も、初めて訪問看護を行う看護師を採用した事業所には教育補助金を出すようにもなった。

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